7.太楽国 水澤プラネタリウム
時は流れ……
またグレームーンがやってくる。
俺は寂れた「水澤プラネタリウム」の入り口で
常連たちから切符をもぎっていた。
ここは太楽国。
都会から離れたよく言えば閑静な街。
悪く言えば何もない街だ。
噂では、そう遠くない場所に
赤い鳥居があるというが
見たという人を知らない。
それ以外にこれといった特徴のない街で
その街でもおそらく暇な店ランキング
トップ3に入るであろうプラネタリウムで
仕事をしている。
常連といってもプラネタリウムを
昼寝の場所だと思っている
ご近所さんだらけ。
まあ、ここで楽しく話して
元気でいてくれるなら悪くもない。
水澤拓海。
ピチピチの28歳だ。
おっとそんなことを言うと
親父ギャグをいうやつだと思われるか。
親父、そう俺の親父は今
隣で暇そうに本を読んでいる。
いや、あれは読んでいるのを装っているが
絶対に寝ている。
俺は大きな咳払いをしてみた。
思った通り、親父はビクッとなり
寝てませんでしたが何か?といった顔を見せた。
親父、水澤多聞、63歳だ。
「親父、あとは?」
「掃除は?」
「済んだ。床も窓もプラネタリウムの星より輝いてる」
「じゃあ、顔でも磨いておけ。所詮、俺には
勝てんだろうがな」
だめだ、このままここにいたら
本当に親父ギャグをいう大人になってしまう。
俺は破れた壁紙をさわり、
「ったく、少しは営業努力しろよ。
いくら磨いても限界があるんだよ」
と愚痴をこぼす。
ふと、ロビーに客が忘れていった
新聞紙を見つけ、手に取った。
見出しには、
「炭谷病院 院長の邸宅が全焼。
死亡の長女、連続放火事件に関与か?」と
書かれ、横には若い女の写真が載っていた。
「炭谷優輝(30)」
大病院の娘に産まれて、
何の不満があるんだろう。
俺を見ろよ。
このままこの寂れたプラネタリウムで
一生を終えるかもしれないんだぞ?
また本を読んでいるフリをしながら
いびきをかく親父を見つめる。
ああ、俺もああなるのか。
そう、まさか俺の人生が
予想外の方向へ転がりだすとは
その時は微塵も思っていなかった。