68.すみれの仇
俺たちは大きな滝の前に立っていた。
これまでに連合軍で失った味方は、直とすみれ。
二人を失ったことは戦力的にも、
精神的にも大きすぎた。
だが一番の痛手は、疾風隊長を失ったこと。
失ったほうがマシだったかもしれない。
最強の味方が敵となった。
少し前、一人の女が倒れていた。
斬られたあとはなかった。
疾風の仕業なのかはわからない。
ただ、倒れていた女はクラリサを奪った者だと推測できる。
となれば、クラリサは違う者の手に渡った。
疾風の可能性が高い。
疾風の願いとは一体何だろうか。
俺たちを欺き、王を裏切ってまでも
叶えたい願い。
疾風がクラリサを泉に投げ入れるまでに、
奪い返さなければ。
「ヴェルグラスの館はこの奥だ」
駿が大きな滝を指差した。
滝の奥に人影が見えた。
エイクが空から舞い降り、俺の肩に乗った。
優輝、大地、晃、駿、そして俺の鎧が光を放つ。
赤、黄、紫、緑、そして青。
敵が近いと告げている。
葵を守るように俺たちは陣を固めた。
「歓迎されたようだな」
水の勢いは激しく、なかなか中に入れそうにない。
「ここを簡単に通すわけにはいかない」
顔に傷のある大男が滝から出てきた。
「お前は! 」
晃の表情が変わった。
見たことのない怒りの表情に。
「拓海! ここは俺に任せて進め!
すみれのかたきは俺が討つ!」
ニャーとリンクが威嚇する。
リンクは目から光線を放ち、
鋭い剣を形取った。
晃が握ると美しい紫色の剣が生まれた。
「わかった! 晃、ここは頼んだ。
俺たちは前に進み、疾風をとめる!」
晃なら大丈夫だ。
早く疾風を止めなければ。
ヴェルグラスが復活して、
手も足も出なくなる前に。
「リンク、光を当てろ!」
リンクが大男の顔に紫色の光を当てた。
男が一瞬、目をくらませた隙に、俺たちは
滝の中へと進む。
男が目を開けると、目の前には猫しかいない。
「おのれ!」
男は俺たちを追おうと後を向いた。
その時だった。
「すみれの仇! 」
男の背後に気配を消し、立っていた晃が
大きく剣を振り下ろす。
流石に男も剣を出した。
リンクが毛を逆立てた。
紫色の毛は針となり、男に向かって何十本も
飛び出した。
「うっ!」
晃の剣が大きく振り下ろされた。
男は真っ二つに裂けた。
男は地に倒れた。
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顔に傷のある男を殺したところで、
すみれが生き返るわけではない。
敵を討ったとて、まだ何も変わらない。
この滝の奥、計り知れない敵が待ち受けているだろう。
この男の死はまだまだ序章。
俺もリンクもまだまだ強くならなければ、
奪い返せるかもわからないクラリサ。
だが、すみれが守ってほしいいった未来。
迷いはない。
もし、もしもう一度太楽国に生まれることが
出来たなら……すみれとめぐり会えたなら。
王よ、もしこの戦いに勝利したならば、
願いを変えてもいいでしょうか。
もう一度……。




