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67.泉へ

黒い煙にまぎれ、本隊から離れた。


少し先に足跡を見つけていたが、

誰にも伝えていない。


おそらくクラリサを奪った者だ。

すぐそこにいる。


まだ泉を見つけてはいないようだが、

確実に近づいている。


王は……俺が本物の緑の戦士ではないと

気づいていたのだろうか。


もう一人の戦士は旅の途中で現れると言っておられた。


それは真実であった。

駿という者だ。

確かに、緑の鎧は光り、緑の珠を持っていた。


王はこうなることも見通していたのだろう。

そう、28年前のあの時も。


俺は青月がクラリサを盗んだと伝えた。

だがきっとわかっていたはず。


俺がクラリサを盗み、青月を殺したことも。


なぜ、俺を責めない?

それはきっと……王とて知り得ないことがあったからだ。

そう、真琴と青月が恋に落ちること。



俺を遠ざけ、青月ならば許す。そんなはずがない。

王は予知できなかったのだ。

二人が恋に落ちることを。


きっと王にも後悔や罪悪感があったのだろう。

そうに違いない。



そして今回も俺の願いを聞き入れた。

嘘だとわかっていたはずなのに。


王に勝算があるのか?

俺が裏切ることがわかっていたとしても。


気がかりなことは青い珠、拓海だ。

青い珠が失われた以上、できるはずのない武器。

もし拓海がいることで、武器ができるのだとしたら?


王はそれをわかって、拓海を同行させたのか?

青月の息子だと知っていて?



いや、考えるな。

所詮、できるかどうかもわからない武器。

まずはクラリサをこの手に奪うこと。

先を越されて、そいつの願いなんぞ、

叶えさせてたまるか。



足跡が鮮明になってきた。

前を歩く者を視界に捉えた。


女?


「そこの者、止まれ。

クラリサを渡してもらおう」



女が振り返った。

中年の女だ。


大事そうにクラリサを持ち、

こちらを睨みつけてきた。



「お前は誰だ? 

この世界の者であれば、私がヴェルグラス様を

復活させてやるのだから文句はあるまい? 」



「残念ながら天澄界の者だ。

クラリサを返してもらおう」



女は周りを見渡す。


「おかしい。連合軍ではないな?


お前、クラリサを奪ってどうするつもりだ?

お前もクラリサを奪う盗人なのではないか?」


女が俺の心の中を見透かしているようで

思わず笑ってしまった。


「何がおかしい?」


「いや、そうだ。そうなんだ。


俺は今からお前を殺し、クラリサを奪う。

天澄界のためでも、太楽国のためでもない。


俺の願いを叶えるためだ。

たった一つの願いを。


28 年待った。

お前には感謝する。

俺では奪えなかった五つ珠が揃った太楽国の

クラリサを奪ってくれた。


だがそこまでだ。それを渡せ」



「ふざけるな。

私は必ず黎子様を帝にしてみせる。

私も長い間、影となり彷徨った。

この日のために。


不遇な目にあった黎子様を必ず」


俺が剣を構えた時だった。


「おやおや、喧嘩は良くないですね」


全く人の気配を感じなかったが、

近くに一人の男が立っていた。

不気味だ。

容姿も、声も全てが。



「伊織! 貴様よくも貴子様に嘘を吹き込んだな!」


クラリサを持つ女が叫んだ。


伊織という男は何者だ?


伊織という者が女に向かって話し出した。


「お前は期待通りの仕事をしてくれた。

だが、もう十分だ。


黎子が帝になり強大な力を持つことは、

私にとってあまり嬉しいことではない」


伊織という男は女をじっと見つめた。

そして手のひらに力を込めるようにし、

ぎゅっと握りつぶすような仕草をした。


すると女の体が大きく崩れた。

地面に倒れ込み、動かない。


死んだ?

何をした?魔力の持ち主か?


奴は危険だ。


俺は剣を構え、伊織を見た。


「待て。私は味方だ。

其方がクラリサを奪い、ヴェルグラスを復活させよ」


「どういうことだ?」


「私は昏哭軍の支配者といったところだ。

誰かがクラリサを奪い、ヴェルグラス様を

復活させてくれればそれで良い。


ただ、あの女の願いはいささか気に食わなくてね。


黎子にとって私は母親を操った宿敵なような者だ。


強力な力を持てば、私を消すなんことも容易くなるわけだ。

だから、黎子は今のままでいてもらわねば困るんだ。



それに」



「それに?」


「もう少し先に、大きな門がある。

ヴェルグラス様のお屋敷だ。


門の中には昏哭兵を多数、配置させている。


だが、連合軍は強敵だ。


見る限り、お前は強い。

あの女よりお前に賭けたほうが賢明だろう。

可能性の問題だよ」



伊織はニヤニヤと俺を見つめた。




「疾風といったな。

必ずクラリサを泉に投げ込み、

ヴェルグラス様を起こしてくれ。


そして願いを叶えろ。

どんな願いでも叶えてくれる」


俺は頷き、女のそばに落ちていたクラリサを

手に取った。


もう引き返すことなど出来ない。

俺はもう悪魔に魂を売ったのだから。



「行け。早く」



伊織の声に押されて、俺は泉を目指した。

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