62.伊織
「伊織様、帝女の娘を殺りました」
私は昏哭軍を指揮する者。
昏哭界と太楽国を行き来出来るほどの
力を持つ。
力、それは怨念。
昏哭界にやってきたのははるか昔。
長い時を経てもなお、怨念は強くなるばかり。
いつしか太楽国でも姿を保てるようになった。
先の帝女、貴子に近づき、
嘘を一つ与えてやった。
姉の黎子は産まれた日が良くない。
すぐに地下に閉じ込めなければこの国は危ない、と。
私には少しだが魔力のようなものがある。
貴子はすぐに私の言葉を信じ、
黎子を地下へと追いやった。
なぜって?
黎子にクラリサを奪わせるためさ。
クラリサの場所は帝の一族しか知り得ない。
クラリサを奪えとヴェルグラス様の声を
聞かせるために、必要なもの。
恨み、怒り、嫉妬、妬み……。
計画通り、黎子は妹の鞠子を恨み、怒り、
黎子の部下がクラリサを奪った。
バカな母娘だ。
だが、感謝する。もうすぐ世界の均衡が崩れる。
境界線は歪み始めているのだ。
私がこれほどの怨念を持った理由を知りたいか?
昔々、太楽国を治めていたのは帝の長子であった。
男でも女でも良い。
私は帝の長子として生を受けた。
だが……私は醜かった。
母親さえ嫌悪するほどに。
醜いだけではなかった。
背も伸びず、いつまでも子供のようだった。
弟が産まれた。
それはそれは美しく、聡明であった。
最悪だったのは弟は性格も良かったのだ。
こんな私を兄と慕い、帝になるであろう
兄のために尽くすとまで言ってくれた。
だが、周りはどうだ?
「弟君が帝ならどんなにいいだろう」
「いっそ……兄君などいなくなればいいのに」
そして事故は起こった。
ある家臣が私を事故に見せかけて殺そうとしたのだ。
だが私は知っていた。
そして偶然、その場所に行くと弟が言った時、
私は……止めなかった。
だが嘘はついていないし、
私が罠をしかけたのではない。
ただ、知っていることを言わなかっただけ。
それが罪なのか?
そして弟は死んだ。
ならば私が帝になるはずだ。
なのに、私は弟を殺した者として火あぶりにされた。
弟が死んだのは醜い私が魔力をつかったからだと
噂が流れた。
醜いものは悪魔に違いない。
悪魔は焼いてしまえ、と。
私が何をした?
誰も醜く産んでくれと頼んでなんかいない。
ただ、それだけでなぜ火あぶりにされなければ?
一族を呪ってやる。
私はそう誓った。
そして私は昏哭界に来た。
どんな時間をかけてもクラリサを奪い、
私が帝になってみせる。
そして、醜い世界を作ってやるさ。
顔に傷のある隊長が、帝娘が死んだと
告げに来た。
私は水晶を覗き、連合軍を見た。
細く険しい道、たった3名で先を急ぐ
葵を見つけた。
「お前が殺したのは影武者だ。
見ろ、こっちが本物だ。
行け、この防備ならばバカなお前でも勝てるだろう?」
「申し訳ありません! 承知しました」
隊長が去っていく。
そして水晶にもう一人の影も見つけた。
連合軍、本体の少し先。
クラリサを持つ者。
急げ。早くヴェルグラス様にお渡しするのだ。




