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50.晃の記憶①

「しかし火の壁、助かったよ。

優輝が味方で良かった。ちょっとビビったけどな!」


連合軍は険しい道を前へ前へと進んでいた。

隣で拓海が興奮しながら話しかけてくれた。


「私もビビっていたよ。

ありがとう。拓海のおかげだ。

あそこで私に声をかけてくれなければ、

火を使いこなすことが出来なかった」


拓海。

皇女の葵を守る戦士の1人だ。

なぜこの軍に入ることになったのかは知らないが、

彼がいることでなぜか場が和むことがある。


私は自分の武器について考えていた。


「なぜ赤い珠は私だったのだろう。一番不釣り合いなのに」



「だからじゃないか?」


後ろから声がして振り向くと、狼を連れた大地がいた。


「何があったかは知らないが、俺は生きている時に

一番欲しかったものが与えられた」


「一番欲しかったもの?狼のペットか?」

拓海が大地に問いかけた。



大地はくすっと笑いながら答えた。

「確かにそれはかっこいいな。

だが一番欲しかったものは……強さだ。

生きている時にこの強さがあれば」


大地は自分の手を見つめていた。


大地は普段は無口で話しかけづらい。

強さは疾風以上といっても過言ではない。

しかしその強さは親近感とは真逆であった。

このように話に入ってきたのは初めてかもしれない。


少しは仲間と認めてくれたのだろうか。



「俺は一番俺らしい力をもらった」


晃だ。紫色の鎧と肩に乗せた猫がよく似合う。

紫が似合う男性は、生きている時にでも

そう見たことがない。

リンクの目がキラキラと光っている。


「俺は光の王子なんて呼ばれていたんだ」



*******************


真っ暗な舞台。雪が降る。

スポットライトがともる。

クライマックス、主人公の心情をライトで表現する。


決して目だち過ぎず、だが主人公に負けてはならない。

ライトも舞台の出演者と同じ。


リハーサルが終わった。完璧だ。


舞台の後方から大きな拍手が起こった。


「素晴らしいわ。ライトに演技させるなんて」


そこには太楽国の大女優、朝比奈 涼子の姿があった。

俺は目を疑った。


「朝比奈さん!?」


朝比奈涼子は俺のほうに歩いてきた。

俺は慌てて頭を下げた。

服装は大丈夫か?

昨日、風呂に入ったか?

色々なことが頭を回る。


でも一番はなぜ?ここに?



「後輩が舞台をすると聞いて観にきたの。

本番だと邪魔になるから、リハーサルを見せてもらおうと。


でも本当は貴方に用事があって」



「え?私にですか?」


「私、デビュー50周年で舞台を計画しているの」


もちろん知っている。周りでも噂になっていた。

それはすごい舞台になるだろうと。



朝比奈涼子は俺をみて、にっこりと笑った。


「貴方の光で私をもっと輝かせてもらえないかしら?」


「……それって……」


俺の頭は色々なことがぐるぐると周り、

パンク寸前だ。


「光の王子って呼ばれているのでしょう?

実は私……王子大好きなの」



にこりと笑う大女優を前にどうすれば冷静でいられるのだろう。


「あ、ありがとうございます」


もっと上手くこの喜びを伝えたいのに、

言葉が見当たらない。




俺のポケットの中でスマホが震えている。

誰からかは予想がつくが、今はそれどころではないんだ。



「すみません、晃さん」

後方のドアから声がした。

後輩の児島隼人だ。

まだ若い。実力は未知数だ。



児島は朝比奈涼子を見て、驚いている。

そりゃそうだろう。

まさかこんな所にいるなんて誰も想像しない。


「悪い、後にしてくれ」

とりあえず俺は児島に声をかけた。


大女優はにっこりとして児島にも挨拶をした。


「後輩は大事にしなきゃ。私も後輩の楽屋にでも行ってみるわ。それじゃまた近々お会いしましょう」



朝比奈涼子は、美しい空気を残して、去っていく。



俺は後ろ姿に思わず叫んだ。

「必ず素晴らしい舞台にしてみせます。ありがとうございます」

   

見えていないとわかっていたが、

頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。





廊下を歩きながらも、俺の頭の中では

次の舞台の映像が浮かんでいた。

朝比奈涼子という存在を、一番美しく

魅せるために、どんな演出があるだろう。

ああ、心が躍る。



「晃さん、今のって……」

隣を歩く児島が聞いてきた。


「手伝ってほしいって」

この興奮を後輩に悟られたくなくて、

俺は冷静さを装った。



「すごいじゃないですか~、

彼女の舞台は太楽国で一番の舞台になるだろうってみんな言ってます。

その演出を担当するなんて夢みたいだ」



ああ、そうだ。

本当に夢みたいだ。俳優としてはパッとしなかったが

やっと俺は自分の天職を見つけたんだ。


またポケットの中でスマホが鳴っている。


「児島、悪い。先行ってて」


俺はスマホを取り出した。

思った通り母からの着信だ。

また施設から抜け出したのか。


「もしもし」


「あ、晃?真珠のネックレスがないんだよ。

久しぶりに友達に会うのに見当たらない。


盗まれたのかしら?」


母親の声はひどく慌てている。

もうこの話は何度目だろう。



「あのネックレスはなくしただろう?」



そう、ネックレスはもうない。

そして友達に会うのは2年前の話だ。

次に言う言葉も知っている。



「何をいってるんだよ。

あれはお父さんが初めて買ってくれた大切なものだよ。

なくすわけないだろ?」



俺は無言で聞き覚えのある言葉を聞き流す。


「わかった。とりあえず帰るから」



俺は電話を切ってため息をついた。

夢から一気に現実に突き落とされた気分だ。


ああ、早く……。

俺は言葉を飲み込んだ。

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