41.片桐 駿の記憶②
ここに被害者が入院していると聞いた。
炭谷病院。
代々、炭谷一族が院長を務める大病院。
被害者……。
若い女性ばかりを狙う通り魔事件だ。
先日、容疑者は無罪が確定した。
そう、俺が無罪にした。
佐治 太一。
製薬会社 大手、佐治製薬の一人息子。
依頼を受け、約束通り無罪にした。
真犯人は未だ捕まっていない。
そんな中、また事件は起きた。
模倣犯か?いや……。
俺は受付で尋ねた。
「すみません。こちらに通り魔事件の
被害者が入院されていると聞いたのですが」
受付の女性は明らかに、不審な顔をした。
「あ、申し遅れました。片桐 駿といいます。
通り魔事件の弁護を担当しておりまして」
俺は名刺を差し出した。
「ああ。どこかでお見かけしたことがあると
思いました。
イケメン弁護士さんですね」
「いえいえ。テレビ映りがいいんですよ」
俺は照れてみせた。
「詳しいことは申し上げられませんが、
お会いになることは難しいと思います」
受付の女性に丁重にお断りをされた俺は、
礼をして病院を後にした。
俺は弁護士事務所に戻った。
高額報酬を元手に独立をしたばかりだ。
まだ片付けさえも終わっていない。
スタッフも募集中だ。
メディアのおかげで募集はたくさん来ている。
後は有能な者を選ぶだけだ。
俺は一人、買ったばかりのソファーに座り
新聞を見つめる。
「新たな犠牲者!模倣犯か?それとも… 」
大きな見出しが踊る。
来客を知らせるチャイムの音がした。
まだ誰にも連絡していないのに、
何かの押し売りだろうか?
モニターを見ると佐治 太一が立っていた。
俺が無罪にした張本人だ。
礼にでも来たのだろう。
俺は彼を招き入れた。
新しいソファーに座った彼は、
立ち上がり頭を下げた。
「先生、本当にありがとうございました」
「礼には及ばないよ。当然の事をしたまでだ。
あ、コーヒーでもと言いたいところだが
何せまだカップもダンボールの中だ。
お茶でもいいかい?」
ダンボールの山を通りぬけ、
俺はキッチンへ向かい、お湯を沸かした。
太一は机の上に置いてあるメモ用紙と
ペンで何かを書いているようだ。
「先生は本当に僕のことを信じてくれたんですよね?」
区切られた透明なパーテーションの向こうから
太一の声が聞こえる。
俺は社長室で見た、太一が幼い頃に描いたであろう
マークを思い出していた。
太陽の様な奇妙なマーク。
被害者に残されていたマークと同じ……
だが、俺は言った。
「当然だろ。依頼人を信じない弁護士などいないさ」
だがどうしても、俺は確かめたい衝動に駆られた。
「ところで……全ての被害者に犯人が
同じマークをつけていただろう?」
「ああ、こんなマークだろう?」
急に声が大きくなり俺は驚き振り返った。
それが俺が見た太楽国の最後の景色。
買ったばかりの大理石の灰皿。
もっと軽い安物にしておけば良かった。
振り下ろされた灰皿。
太一が描いたメモがヒラヒラと落ちていく。
見覚えのあるマーク。
「許してね。先生が僕の秘密に気づくからだよ」
高らかに笑う太一の姿が遠のいていく。
ああ、知っていたさ、最初から。
お前が犯人だっていう事を。
だがそれを認める事は俺の敗北を意味する。
勝負に勝たなければ意味はないんだ。
せっかくやったチャンスを無駄にしやがった
お前は本当に愚かな奴だ。
いや、そんな奴に殺される。
俺はもっと愚かなのか?




