32.黎子の話し相手
私は暗い部屋の中で、鏡を見つめていた。
協力してくれると言った鏡の中の
話し相手は、しばらく姿を見せていない。
クラりサを奪えと命じた従者たちからも
まだ連絡がない。
私はイライラとし、それほど広くもない部屋を
行ったり来たりした。
すると鏡の中の話し相手が突然現れた。
黒い影……
「クラリサを奪った……」
私は驚き、話し相手を見つめた。
「本当ですか?それでは私の願いは叶うのですね?」
鏡の中の話し相手は、段々と人の顔、形に
変化していく。
そしてクラリサを手に持ち、私を見つめた。
「黎子様」
「雪乃! お前は雪乃か?」
人影は私がよく知る者の姿に変わっていた。
私がこの部屋に閉じ込められた時
たった一人、私を庇い、抵抗してくれた、
私を育てたと言っても過言ではない
ずっと一緒にいてくれた人。
彼女は召使の中でも、
年配で、おっとりとした性格だった。
いつも母のように私も愛し、
叱り、抱きしめてくれた。
ある日突然、ある者がこの館にやってきた。
私の生まれ月が不吉だと言い出し、
まるで呪術のように母はその言葉を信じた。
それまで帝の娘として何不自由のない生活をしていた
私は、突然暗い部屋に閉じ込められた。
その時、唯一母に逆らい私を庇った。
そして……
雪乃は殺された。
私の目の前で。
雪乃だったの?
今までずっと私の話し相手をしてくれていたのは。
そして、クラリサの場所を教え、
私の願いを叶えさせようとしてくれている。
鏡の中の雪乃が話し出す。
「私は悔しくて悔しくて、このまま天澄界に
行くなど到底出来ませんでした。
そっと舟を降り、境界線の狭間でずっと影として
機会を待っていたのです。
黎子様の鏡は境界線の歪みと通じています。
力がないため、影としてしか黎子様に会えず
今、クラリサの力を借りて
こうやって姿を現すことが出来ました」
雪乃は微笑み、私を見る。
「黎子様、ヴェルグラスを復活させて見せます。
そして我らの願いを叶えましょう」
我らの願い……
憎き母、貴子はもういない。
本来最も、地獄を味合わせてやりたい。
だが、今の私の願い、それは……、
鞠子と葵を葬り、私がこの世界の帝女になること。
雪乃、お前の想いに感謝する。
必ずヴェルグラスを復活させてくれ。




