26.クラリサの秘密①
「ここは導きの間。
人は太楽国での命が尽きると、
この鏡に次に行く世界が映し出されます」
鞠子様はゆっくりと話し始めた。
真ん中、左右と鏡を覗いてみたが、
俺の顔が延々と映し出されるだけの
ただの三面鏡に見える。
鞠子様は続けた。
「左に過去、真ん中が現在、そして……
悪しき行いがなかった者は天澄界が、
悪しき行いがあった者は昏哭界が
未来を映す右の鏡に映し出されます」
天澄界に昏哭界。
本当にそんな世界が存在するのか?……
「昏哭界に渡ると、二度と人に戻ることは
ありません。
永遠の闇、苦しみを味わいます。
ただ一つ、そこから逃れられる方法は
全ての世界を闇にすること。
天澄界と太楽国を支配し、昏哭界が
3つの界の頂点に立つ」
他言無用…
一体こんな話を誰が信じる?
だがこの国の支配者の語る話が
偽りだと言えるか?
「そのため、昏哭軍は境界線から復活を狙い
何度も攻撃をかけて来ました。
そこで天澄界と太楽国は五つの力を込めた珠を
秘めたクラリサを作りました」
葵という娘が落としたあの四角錐。
美しい光を放つ……
「炎の赤、空海の青、大地と風の黄、木々の緑
光の紫。
それらの力を込めたクラリサを互いに
持つことで、昏哭界からの侵入を防いできました。
クラリサの力は絶大。
天澄界と太楽国が持っている以上、
境界線は保たれます。しかし……」
しかし、そう。
必ず例外、予想外が起きる。
だから世界は何度も争いが起きてきた。
「クラリサが奪われたとしても、
境界線は歪みますが、世界を闇にするほどの
力は昏哭軍にもありません。
多少、侵入者が増えるくらいです。
世界を闇にする方法はただ一つ。
昏哭界の奥深くの泉に眠る悪の獅子、
ヴェルグラスを復活させること。
古からの怨念が泉に溜まり、
邪悪な力が獅子を造ったのです。
その獅子を目覚めさせるためには
絶大なパワーが必要」
「それが…クラリサ」
俺は思わず呟いた。
いつしかこの荒唐無稽な話に
引き摺り込まれている。
「獅子はクラリサを投げ入れた者の願いを
叶えてくれます。
そしてその後、投げ入れた者の体を借りて
全ての光を食い尽くし、世界を闇とします。
この世界の王となるのです。
つまり、クラリサの消滅は、
昏哭界の支配を意味します」
クラリサを守るため、親父は死んだに違いない。
だが、結局クラリサは奪われたはず。
「支配……それを食い止めることは
出来るのですか?」
俺は、鞠子様の目をまっすぐに見つめた。




