18.天澄界で
天澄界……昏哭界との境界線。
うっすらと霧がかかり、視界は悪い。
疾風は、目を閉じ、耳を澄ませた。
来たな……
はっと目を開き、瞬時に剣をふりおろす。
人の声とも言えない呻き声をあげて
黒い影が倒れた。
28年前、天澄界にあるクラリサの
青い珠が失われた日。
俺は青月から奪い返したクラリサを
王に献上した。
王の館は決して華やかではない。
だが王は他の誰とも違う
唯一無二の存在感をもち
その威厳は言葉であらわしようもない。
まるで心の中まで全てを見透かしているかのような
そんな目をしている。
あの日、俺が王にクラリサを献上した時も
全てを見透かしているような目で私を見つめた。
私は思わず目を伏せた。
「疾風」
「はっ!」
王の前に跪き、私はこたえた。
「青の珠が失われた以上、境界線は不安定になるだろう。
警護を頼む」
「かしこまりました」
私は踵を返し、館を去ろうとした。
王は私を呼び止めた。
「疾風、あの子は……」
王は一瞬目を閉じた。
「いや、いい。頼んだぞ」
あれから28年。
天澄界の境界線では毎日のように
昏哭界からの侵入がある。
昏哭界から天澄界や太楽国へ入ることができても
基本は黒い影のようなものでしか
存在できない。
それは「ラーサ」と呼ばれており
それほど強力なものではない。
ただ、稀に
強い意志や怨念をもち
人型として侵入してくるものもある。
本当に昏哭界の者なのかさえ
見分けがつかないこともある。
騙されるな。そしてそいつらは強い。
もう大丈夫だろう。
俺は剣をしまい、その場から去ろうとした。
急にラーサの気配を感じた。
だが剣に伸ばす手が一瞬遅れた。
まずい!
そこに一人の男がさっと入り、
見事な剣捌きで俺に近づくラーサを
斬った。
俺と同じ、境界線を守る剣士隊であることは
間違いない。
制服からしてまだ、間もないようだ。
だが見事だ。
この男、只者ではない。
男はさっと剣をしまい、
礼をして去ろうとした。
「礼を言う。お前は?」
男は何も言わず去っていく。
剣士隊の上長が俺の側にやってきた。
「疾風様。無愛想で申し訳ありません」
「彼は?」
「新しく配属された大地という者です。
腕はいいのですが……」
俺は大地という者の後ろ姿を見つめていた。




