17.大ホール
「朝比奈 涼子50周年記念公演」
街で一番の集客数を誇るこのホール周辺は、
太楽国を代表する大女優、 朝比奈涼子の
公演ポスターで埋め尽くされていた。
結婚、出産等で芸能界から
遠ざかっていた時期もあったが、
復帰後は、主役にこだわらず
若い俳優達を脇で支える存在として
数々の賞を受賞していた。
彼女は演技だけでなく
福祉やボランティアなどを行っており
ひとりの人間として、
人々から絶大な支持を得ていた。
そんな彼女が久しぶりに舞台に立つ。
舞台は生き物だ。
映画とは違い朝比奈涼子を肌で
感じることが出来る
そこに存在している……
そんな感覚を覚えることだろう。
そんな彼女の50周年公演に
携わることが出来るのは、
舞台関係者にとってこの上ない喜びであり
誇りであった。
絶対にこの舞台を成功させる自信があった。
俺の頭の中でつくりあげた世界を模型化し
彼女にプレゼンする。
きっと彼女はこういうだろう。
「やはり私が見込んだだけあった。
太楽国が始まって以来の素晴らしい舞台にしましょう」
その機会を俺は……
どんなに努力しても、
あの母親がいる限り無理だ。
俺は何のために産まれてきたのだろう。
親の介護をするために生きているのだろうか。
なら捨てればいい?
施設にでも入れればいい?
いっそ死んでくれればと思ったこともある。
だがたった1人で俺を育ててくれた。
そんな簡単に捨てられるものではない。
俺は何度も絶望から立ち上がった。
チャンスが来た。
俺の中でかつてないほどのアイデアが湧いた。
演者が素晴らしくあればある程、
俺の想像は膨らんだ。
太楽国史上、最高の舞台を創り、
俺は俺が生きている意味を見出す。
だが夢は叶わなかった。
母親に潰されただけなら
ここまでの苦しみはなかっただろう。
後輩の裏切り。
俺が育てた後輩だ。
なぜ?どうしてなんだ?
俺のチャンスを奪うために
お前は俺の側にいたのか?
もう疲れた。楽になりたいんだ。
そして終わりにするなら、
俺も舞台の上がいい。
人生の幕をおろす場所は
ここしかない。
あいつが朝比奈涼子と共に
喝采を浴びるはずの場所。
俺はここに俺の生きた証を残す。
俺はどっちに行くのだろう。
天国のようなところか?
それとも。
そんなことはもうどうでもいい……。
「キャー!!」
スタッフが叫んだ。
舞台の上で人が倒れている。
彼の周りは血の海だ。
筑紫 晃。
この舞台の演出は、彼が手掛けるだろうと
誰もが思っていた演出家だ。
その手には彼と朝比奈涼子と並んで写る
写真が握られていた。
大ホールの壁にたくさん貼られた
「朝比奈 涼子 50周年記念公演」ポスター。
出演者だけでなく、舞台に携わるスタッフたちの
名前が多数書かれている。
演出家の欄には児島 隼人と
書かれ、若い男の写真が大きく映っていた。
そのポスターの中に筑紫 晃の名前はなかった。




