16.片桐 駿
本当にこんな所があるのだな。
俺は今、この国の境界線にある
導きの間にいた。
噂では、全うな人生を送っていれば天澄界、
悪しき行いがあれば昏哭界に渡されるという。
そんなもの、ただの迷信だと思っていた。
でも今、まさに俺はその瞬間に遭遇中だ。
こんな質素な部屋が最後の部屋なのかと思うと
少し残念だ。
部屋の真ん中には、三面鏡が置かれているだけ。
窓の外には庭が見える。
質素な日本庭園だ。
川の流れる音が聞こえるが、
川は見えない。
その川で天澄界や昏哭界と繋がっているらしいが
どこにあるのだろう。
まあ、俺のいく先は天澄界に決まっている。
早く、効率よくこの作業を行ってくれれば
それでいい。
俺は片桐 駿。
生きている時は弁護士だった。
ただの弁護士ではない。
敏腕弁護士と呼ばれ、メディアにも
取り上げられていた。
若くて有能。メディアがほっとくわけもない。
大きな事件で成果をだしたこともある。
俺に助けを求める依頼者達を救ってきたんだ。
ま、確かに限りなく黒だと思う依頼者を
白にしたことも何度かある。
それはだた、黒に出来なかった検察側の
敗北だ。
俺に罪はない。
俺は悪しき行いをした事など一度もないのだ。
悔やまれるといえば、今ここにいることだ。
まさかこんな若く、ここへ来るとは思っていなかった。
俺を失うなんて、太楽国にとっても
損失だろうに。
俺は鏡の前に立った。
三面鏡だ。
まず左の鏡に俺の幼い頃の映像が見えた。
なるほど、これがいわゆる走馬灯ってやつか。
俺は子供の頃から有能だった。
どんどん見せてくれ。気持ちよく天澄界にいける。
映像はどんどんと大人の自分へと変わっていった。
弁護士になり、メディアに取り上げられる。
そこに一瞬、太陽のような妙なマークが
頬に刻まれた若い女性の顔が映り込んだ。
誰だ?会ったことはない。
そして真ん中の鏡に今の自分が映った。
もったいない。
悔やんでも仕方ない。
また生まれ変わって、輝かしい人生を
送ればいいだけの話。
効率よく考えればいい。
右の鏡に行き先が映るらしい。
天澄界とはどんなところなのだろう。
俺の才能が役立つ仕事はあるだろうか。
部屋一面、霧が立ち込めた。
何も見えない。
川の音が大きくなる。
霧が晴れてきた。
ふと見ると庭は大きな川へと変わっていた。
そこに一艘の舟が現れた。
様子がおかしい。
黒い影のような男が、舵を握っている。
嘘だ!そんなはずはない!
俺は右の鏡を見た。
そこには黒い影が蠢き、恐ろしい
人間とは思えない顔たちが映っていた。
恐ろしい声も聞こえる。
「何かの間違いだ!俺がなぜ!」
俺は部屋から逃げようと出口を探した。
いきなり腕を掴まれ、俺は振り返った。
弓弦と呼ばれていた男だ。
若くはない。だが、屈強であることは
着物を着ていてもわかる。
「そう悪い場所でもない」
弓弦はそういって、腕を振り払おうとする俺を
川辺まで連れていく。
なぜ?俺は一体何をした?
弓弦やにやっと笑い、俺を黒い舟に
乱暴に投げ入れた。
わからない。何かの間違いではないのか?




