15.眠る女
また時は少し遡る。
クラリサが奪われる前……
炭谷病院の一室では、
若い女性がベッドで眠っていた。
母親は、髪を撫で、
父親は足をさすっている。
母親の涙はもう枯れ果てていた。
娘が通り魔にあったと連絡があった時
耳を疑った。
少し前に若い女性を狙う連続通り魔事件が
発生していた。
被害者はみな、同じ手口で、
同じマークが残されていた。
自己顕示欲の強い猟奇的殺人者。
その頃は十分に気をつけなさいと娘に伝えていた。
ただ、犯人は捕まり
いつしかそんな事件もあったな
というくらいの平穏な日々が戻っていた。
なのになぜ?
お願い、もう一度目を覚まして、
お母さんと呼んで。
医師が入ってきた。
初めは、期待していた。
医師が来てくれれば、少しでも
良くなるのではと。
しかし、今は恐怖でしかない。
また、あの一言を聞くだけ。
「申し上げ難いのですが、どうされますか?
決断は難しいとは思いますが、
娘さんの意思も尊重して……」
医師は、臓器提供の意思を示した
娘のカードを見せる。
わかっている。
でも今日も聞いてしまう。
「本当に意識が戻ることはないのでしょうか」
「残念ながら」
娘の魂は、いまどこにあるのだろうか。




