13.炭谷病院
時は少し遡る……
グレームーンの少し前、いやもう少し前か。
まだ月が闇の力を帯びる前。
「お名前をフルネームでお願いします」
「筑紫 晃です」
「筑紫さんは、28歳、
舞台関係のお仕事をされていると
言われていましたね。
お忙しいのはわかりますが、
不眠はストレスが一番悪い。
あまり深刻に考えないことですよ」
なぜ、こんな意味のない話を聞くために
診察を受けなければならないのだろう。
ストレスがない人間なんていない。
ストレスなんて心の弱さが原因だ。
なんて、そんな考え方だからストレスが
溜まるのですと前回は言われたがな。
どちらにしても、眠れないと言っているのだから、
薬さえくれればいい。
といいながら、インターネットでも
Aiでもなく、病院に来るのは、
俺自身が誰かに聞いて欲しいと思っているのかもしれない。
俺の今の心の弱さを。
俺は舞台の裏方スタッフだ。
自分で言うのもなんだが、
見かけは悪くなく、舞台関係者だと言えば
演者のほうかと聞かれることが多い。
自惚れて目指したこともある。
だが、やはり脚光を浴びることができるのは
一握りだ。
少しくらい恵まれた容姿では、勝てる世界ではなかった。
だが、俺は舞台を創る才能があった。
今では少しずつ名前も売れ、
有名な俳優たちとの仕事も増えつつある。
我儘な俳優がストレスの原因なのか?と
思うかもしれないが、
仕事と割り切れば、なんてことはない。
ストレスの原因、それはそう
仕事と割り切れないもの……
炭谷病院に通い始めてどれくらいになるだろう。
ここは代々、炭谷一族が院長を務める大病院だ。
しかし次の世代はまだ決まっていないと聞いた。
医者にならなければならない一族。
それはそれで大変なストレスだろう。
俺は会計をすますため、受付へと向かった。
椅子に座り、自分の番号が表示されるのを待つ。
隣で2人の奥様方が、待ち時間を
有意義に使うため情報交換を行っている。
意外とこんな会話からも、舞台のヒントが
得られることもある。
「この病院に通り魔にあった女の子が
入院しているらしいわよ」
「可哀想に。でも例の通り魔は捕まったわよね」
通り魔…
そういえば、若い女性を狙う通り魔が
捕まったというニュースを聞いた。
だが、無罪だったとか、どうだったか、
記憶が曖昧だ。
俺の番号が表示された。
薬を飲めば、眠れるだろうか。




