10.黎子の部屋
暗い暗い部屋。
もし、私がこの世界しか知らなければ
誰かを恨み、妬むこともなかったのだろうか。
暗い部屋で、
誰からも愛されず、
友もいないことが
平凡なのだと思えていたら。
私の話し相手は私だけ。
鏡に映る、帝女「鞠子」の姉・黎子。
いや、いつしか話し相手が増えた。
鏡の中、黒い人影。
彼は私に外の世界を教えてくれた。
妹はこの国の帝女で誰からも愛される
存在であるということ。
そういえば、たまに歓声のような声が聞こえる。
鞠子様、妹の名前だ。
そして私をこの部屋に閉じ込めたのは
母だということ。
なぜ?どうして?
私と妹は何が違うの?
なぜ私は誰からも…愛されないの?
鏡の中の話し相手が教えてくれた。
グレームーンと呼ばれる
月が闇の力を帯びる夜。
この国の境界線、
赤い鳥居のそばの祠にある
クラリサを取り出し
あの方に渡せば
どんな望みも叶えてくれる。
妹を殺し、お前が帝女になるなんて
いい未来じゃないか? と。
考えただけで心が踊る。
あの歓声はいつしか黎子様に変わるのだ。
なんて素敵な響きだろう。
もうすぐ手に入るはず。
従者が慌てた様子で入ってきた。
ごく少数の従者しかいないが
私への忠誠心は強い。
「黎子様。祠は見つかりました」
私は産まれて初めて嬉しいという感情を覚えた。
思わず従者のいる扉の近くまで走った。
あれほど私が望んだものを見つけたとは
思えない重い顔つきをしている。
嫌な予感がした。
「持ってきたのか?」
「祠の中には何もありませんでした」
私は膝から崩れ落ちた。
そんな……
長い間探し続けて、やっと得た手がかりだ。
間違っているはずはない。
私は鏡を見つめた。
話し相手がこう呟いた。
「葵が持っている。取り返せ」
葵……鞠子の娘。
世間からは隠されている。
いや、私から隠しているというべきか。
私の望み。
それは鞠子と葵をこの世から消してやること。
許さない。
絶対に取り返す。
「協力していただけますね?」
私は話し相手に呟いた。
「もちろんだ」
鏡の中で人影が揺れた。




