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怪討のツルギ-コスプレ少女は今夜も怪異を斬る-  作者: 暁文空
根/その少女は正しく剣だった
39/53

間/水流城智磨について/成美/弐

 二月二六日昼頃。

 市立梅戸中学校二年三組の教室にて。

 午前中の授業を終えてこれから昼休み、昼ご飯時を迎えたのだが智磨は机に突っ伏して昼ご飯を食べ始める素振りを見せない。

 そんな智磨の様子を見て成美は「おーい大丈夫?」と声をかける。

 成美は知る由もないが、智磨は極度の寝不足で食事を減らしてでも寝たいという気持ちでいた。

 しかしながらそのような事を成美が許す筈もなく「食べなきゃだめでしょーが!」と軽く智磨の頭をぽんと叩く。

 これには流石の智磨も「……わかったって……」と渋々ながら上半身を起こしてから、ゆっくりとロッカーにしまった鞄のなかから弁当を取り出す。

 その中身はこれまで以上に手抜きと言っても良く、白いご飯の中央に梅干しだけがのっている、所謂“日の丸弁当”になっていた。

 智磨の好物であるサラダチキンもないという所で、「いつも以上に質素だ……」とつい成美は感想を漏らす。

「……弁当をちゃんと作る時間なかった……」

 そんな智磨の言葉に「いや、いつもの弁当もそう変わらないと思うよ……?」と成美はチクリと刺す。

 智磨の普段の弁当も白いご飯にサラダチキンと野菜という組み合わせ。

 手間としてはそう大きく変わらないだろう。

 そこまで大きな時間の差があるだろうか、という成美の問いかけは極めて自然であった。

 


 坂本成美にとって、水流城智磨とはかけがえのない親友である。

 それは揺るがない事実だ。

 しかしながら、成美から見た智磨という少女は不思議が服を着て歩いているような存在であり、第三者から智磨について教えてと問われたら「よくわからない」と答えてしまう自信が成美にはあった。


 水流城智磨は成績優秀だ。

 中学における五教科、英数国理社――英語に数学、国語と理科、そして社会――の全てを苦としていない。

 どの教科においても智磨は平均点以下をとった事がないのは当然として、殆どの場合で満点近くを記録している。

 必然的に、学年でも上位の成績となっていて「もしかして塾とか通ってたりする?」と成美は尋ねた事があるが、「そんな時間の余裕はないよ。家事と炊事をやってるんだから」と否定されている。


 水流城智磨は運動神経も抜群だ。

 成美が知る限りでは、徒競走や持久走では運動部と然程変わらないタイムを叩き出していて、それでいて走り終えた後も涼しい顔をしている。

 体育の授業でバスケットボールをやる事になった際には、女子バスケットボール部としてそれなりに頑張っている成美とも互角に渡り合えるくらい一対一に秀でていた。

 成美が一六〇センチ前後、智磨が一四○センチ超と一〇センチ以上の身長差があるにも関わらず、である。


 運動部――特に女子バスケットボール部に所属するつもりはないのか、と成美は智磨に尋ねた事がある。

 しかし、これにも「家事とか炊事とかしなきゃいけないから」とその一言で断られてしまっていた。

 これについて、成美は自らの母――美波に相談した事もある。

 これに対し美波は、「そのあたりは本人が“やりたい”って言わない限りは無理強いするものじゃないと思う」と口にする。

 それは確かに尤もである。

 成美にもそれはわかる。

 しかしながら、これだけ運動ができるというのに帰宅部というのはあまりにも普通ではない、と感じてしまったのも事実。

 結果として、智磨について“わからない”と成美としてはそういう結論が出る。

 気の合う友人、親友だと成美としては認識している。

 しかしながら、だからと言ってその全てを理解できる人間だとも思えていなかった。


 ――不思議だよなあ……。

 

 今日も今日とて、成美は智磨を見てそのような感想を抱くのである。



 同日午後六時頃。

 冬場は陽が早く沈む事から、気持ち早めに部活動が終了する事となっている。

 早く帰れる、と喜ぶ部員がいる中であっても、成美としては“もっと練習したかったのに”と内心では不満気だった。

 それだけ、成美は他の部員と比べてバスケットボールにより熱中しており、その姿勢を買われてか三年生が抜けた新チームで主将に任命されていた。

 与えられたユニフォームの番号は四。

 中学のバスケットボール部においては凡そ主将がつける事の多い数字であり、そのような番号を任された事についてはありがたく思ってはいる。

 とはいえ、四という数字そのものにはあまり好印象を持っていなかった。

「……いくら考えても不吉な数字にしか思えないんだよねえ」

 ポツリ、とふと思い出した事を口にする。


 四という数字は死を連想させる不吉な数字とも言われている。

 海外では四つ葉のクローバー等、幸運を意味する例もある。

 しかしながら、日本においては不吉とする流れの方が強く、集合住宅や宿泊施設等では三の次を五とするなど、露骨に避けているケースも少なくない。

 割とオカルトや迷信といったものについて興味を持つ事が多い成美にしてみれば、避けたい数字の一つではあった。

 とはいえ、慣例としてチームの主将が四をつける事が多いとされている以上、それに逆らえなかったという所である。

 バスケットボール――特に学生バスケに限った話ではあるが、一番から三番までは使用しないというのが定説となっている。

 これは審判が様々なジェスチャーをする中で、一番から三番までの数字をつけた選手がいると混同しやすい、という説が有力視されている。

 フリースローによる一得点で指を一本、通常のシュートの二点で指を二本、スリーポイントシュートで指を三本立てるだとか、指を一本から三本まで立てるジェスチャーは多い。

 その為、一番から三番までは避けられるようになった――という話である。


「プロは許されてなんで学生はいけないんだか」

 ぶつくさと文句を言いながら帰路につく。

 学校の最終下校時間である以上、いくら練習したいとごねた所で練習をさせてもらえる訳でもなし。

 それならとっとと帰って、早く身体を休ませた方が明日の練習に備えられる。

 いや、それ以前に学校の宿題を済まさなければならない事を成美は思い出す。

 はぁ、とため息をつく。学校の宿題に対して好印象を持つ学生はあまりいないだろう。成美もその大勢の一人であった。

 思い出したくなかった、と思いつつも忘れたままよりはマシか、と気持ちを切り替える事とする。

 そんな成美が歩いていると、見覚えのある顔が成美の視界の隅に映る。


「――智磨?」

 水流城智磨は帰宅部である。

 故に、既に学校から帰っている筈であるからして、このような時間で外にいるのは極めて珍しい、と成美は感じていた。

 また、その服装が成美のよく知る梅戸中学校の女子制服ではなく、ディスカウントショップ等で見られる安っぽい学生服のようなものを着ているのも不思議に思っていた。


 水流城智磨は無趣味である。

 成美の知る限り、水流城智磨には趣味と言えるようなものは一つもなかった。

 これまで、成美は「これが面白い」だとか「あれが面白い」と様々なものをオススメしたり、誘ったりした事があった。

 誘われたらそれについて行く事はあるにせよ、そのあと継続している様子はこれまで一度もなかった。

 だからこそ、このような時間にそのような服装で出歩いている智磨というものは、成美の興味を非常に刺激してしまう。

 成美から智磨までの距離はそれなりにある。

 あくまでも成美からは智磨はまだ成美に気づいていないように見えていた。

 つまり、今ならば智磨を尾行できるのではないだろうか、等と成美は考えていた。



 ――知りたい。


 ――もっと智磨を知りたい。



 そんな感情に突き動かされて、成美はふらふらと智磨の後ろをつける。

 その瞬間のこと。


『――機は熟した』


 そのような声が、成美は背後からしたように感じる。そして、くるりと振り返ろうとして――。


 ――その日、その後の坂本成美の行方はわかっていない――。

次回更新予定時刻:

2025/07/26/18:00

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