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怪討のツルギ-コスプレ少女は今夜も怪異を斬る-  作者: 暁文空
根/その少女は正しく剣だった
38/53

根/その少女は正しく剣だった/後

 二○一六年九月。全日本怪討組合本部にて。

「くく、そのまま逃げるでもなく態々本部に来るとは随分と肝が据わってるなぁ、水流城鹿波」

「……えぇ、まぁ。それが筋だと思いましたので」

 水流城一族が歴史からその名を消した夜に非戦闘員をつれてその場から逃げ果せる事ができた水流城鹿波の姿は、全日怪本部の最奥――倉橋晴也会長の執務室にあった。


 全日討は水流城一族の多くがあの夜に亡くなったと判断し、水流城鹿波の事を探してはいなかったのだが、その当人がわざわざ本部を訪れていた。

 あの悪名高い水流城一族、その生き残り。

 それが全日討の本部に現れたとなれば多少の騒ぎとなるのも当然だった。

 鹿波は無抵抗のまま捕らえられ、晴也のいるこの部屋へと通されていた。

 晴也は相変わらずベッドで横になっており、上半身を起こしただけの姿勢ではあるがそんな彼の発している奇力の強さに、鹿波は内心では冷や汗を大量に流していた。

 両手には手錠がかけられており、装着した者の奇力を封じる加工がされている。

 この場において、鹿波は無力な一般人に他ならなかった。


「筋、ねぇ。一応聞いておこうか」

「あの後、拠点を調べたのなら、気づいたでしょう?」

 鹿波は晴也に気圧されて慣れない敬語を使いながら、そう尋ねる。

 晴也は「ほう? 儂が何に気づいたと?」と尋ね返す。

 そんな晴也の言葉に込められている気迫に圧されながらも、鹿波は口にするべき事を口にする。

「この世には、新たな脅威が存在している、という事です」

 その言葉に晴也は「む」と声を漏らす。

 それは確かに事実であった。

 全日討において、怪異とは凡そ怪談や神話といったものに語られている存在であり、近年出版されるような物語から生み出される事はないと考えられていた。

 もしもそれがあり得るのだとすれば、特撮映画に出て来るような怪獣すらも実在し得るのだから、それは“ない”と考える方が極めて自然である。

 しかしながら、今回の一件――水流城一族が一夜にして壊滅したあの夜に現れた怪異は旧来通りの考えではあり得ない存在だった。

 そして、その存在の事を水流城一族は長らく研究し続けていた。それらの存在が、書物の出版によって明らかになるよりも先に。

 しかしながら、全日討はその存在を知らず、ただ新しいものとして存在し得ないとその存在についての議論すらもしなかった。


「……水流城一族の在り方を正しいとは、元々思っておりません。しかし……この一件については、間違いなく水流城一族が正しかったと私は考えています」


 鹿波にとって、水流城一族というのは古い一族だ。一族の中には外の世界を知る事無く、拠点の中で生まれ死んでいく者も珍しくない。

 そんな環境で人々が生きていくというのは、二一世紀の世においては異端だという事は鹿波にはよくわかっていた。だからこそ、その在り方を正しいとは思えない。

 だとしても、未曽有の危機に備えるという一点においては絶対に正しかったと鹿波は確信していた。


「あァ。今なら、それがわかる」


 そしてそれを晴也は認めた。

 これまであり得ないと切り捨ててきた可能性が、あり得るとわかってしまった以上、これまでの水流城一族への対応については誤りがあったと晴也は認めざるを得なかった。

 何らかの形で全日討としても協力をし、その過程で水流城一族のやり方を現代に則したものとできたのならば――と考えざるを得なかった。


 しかし、もう遅い。

 水流城一族というこれまでになかった脅威に対して最も知見を持っていた一族はあの夜にほぼ壊滅し、残されているのは鹿波と非戦闘員数名。

 ここからかつてのように未曾有の危機に対しての対策や研究を行えるかと言えばそれは否だろうと晴也は理解していた。


「とりあえず、拠点に残されていた資料については目を通した。……なぜこれがこっちにちゃんと報告されなかったかについては、ちゃんと調べなきゃならないなァ……」

「それと、内藤穂波二等怪討についても」


 晴也は鹿波のその言葉に、内心で頭を抱える。

 全日討があの夜、水流城一族に対して明確な敵対行為を計画したのは“全日討所属の怪討を水流城一族に誘拐された”という大義名分を掲げていたからである。

 しかしながら、水流城一族が壊滅してから今日に至るまでの調査で、大前提となる大義名分がそもそも誤りだったという事がわかってきていた。

 しかしながら、少なくとも晴也の下には“内藤穂波二等怪討が誘拐された”という報告が来ていたのは事実。

 それはつまり、全日討の内部に新たな怪異怪人の類が紛れ込んでいるという事を示している。

 怪異という脅威から人々を守る全日討の立場からすれば、その内部にその怪異の側に立つものがいるのは――。


「――本当に申し訳ない」


 そう言って晴也は顔を伏せる。

 身体を横にして上半身だけ起こしている状態において、最大限に頭を下げようとした行為。これに対して鹿波は「……本当は、この場で斬ってやりたいですよ」と身体を震わせながら言う。

「あの時、せめて全日討との関係が良好だったなら……ッ」

 抑え込んで来たものが込み上がってきて、鹿波はその場にわなわなと崩れ落ちる。

 繕っていたものが剥がれ落ち、そこにあるのは泣きじゃぐる子供のような姿だった。



「……本当にすみません」

 一頻り泣いた後。

 目の周りを赤くした鹿波がそう言いながら気まずそうに明後日の方を見る。

 これに対し「気にするな。儂からすれば、お前さんは子供とか孫みたいなもんだからなァ……」と晴也は心底から気にしていないと口にする。

 事実、晴也から見れば鹿波は若者であり、そんな若者の支えにならなければならないと考えていただけに、こうしてわかりやすく鹿波が弱音を吐露したのは晴也にとってもわかりやすかったという面があった。

「で、だァ。お前さんはこれからどうする?」

 晴也のその問いに対して鹿波は目を大きく見開いて「……生かして、もらえるんですか……?」と驚きの声をあげる。

 現状、両手を拘束されていて奇力も封じられている。

 そうであるならば、全日討がこのまま水流城鹿波という人間を秘密裏に亡き者とするのは容易だろう。

 更に言えば、全日討で広まっているある事が、水流城一族に対する扱いをより悪くしていた。


 ――あの夜、水流城一族は怪人と結託して全日討を潰そうとしていた。


 そのような事が噂されていた。

 これについて、あの夜の一件について調べ上げた全日討本部の数名が否定してはいるが、風評というものはそう簡単に拭えない。

 特に、あの夜の怪異怪人によって負傷した怪討や亡くなった怪討の関係者からは「水流城一族を許すな」という声もあがっており、今回鹿波が本部に姿を現した途端に即拘束されたのもこのあたりが関係しているのは鹿波もよく理解していた。

 それだけに、晴也が「これからどうする?」と尋ねた事は鹿波にとっては驚きであった。

 周囲に流されてそのまま亡き者にされるのであないか、とも考えていた鹿波からすればあまりにも予想外な展開であった。

「当たり前だァ。まぁ、“水流城鹿波”っていう名前は捨ててもらう事にはなるがなァ」

「そんなもの、安い位です」

 鹿波という名前は水流城一族の怪討として名を上げていく中で襲名した名前に過ぎない。

 あの夜に()()に呼ばれた波子という名前があれば、それで十分だと彼女は考えていた。

 ――と、ここで鹿波はある事を思い出す。


「ところで、あの子は……?」


 彼女の出した“あの子”という単語に「あの子……? ……ああ、アイツか」と晴也は数瞬だけ時間を要してから誰の事を指しているかを察する。

 “水流城一族の最高傑作”と呼ばれる少女の事だった。


「そうです。……アイツはどうなるんです?」

「……アイツには、水流城智磨って名前がついて、今は……特等怪討になった所だな」


 少女の新たについた名前に、特等怪討。

 まさかの情報に「え?」と彼女は困惑の声を漏らす。


 水流城鹿波という名前を捨てるのは受け入れている彼女からすれば、なぜ少女には水流城という名前を残すのかがわからない。

 また、既に特等怪討という彼女の良く知る御鹿の一等怪討を超えているというのは、少女の力量を把握していても理解が追いつかなかった。

 それを理解していて「まあ、なんだァ……」と晴也は言葉を選びながら話す。

「お前さんがどう思うかはさておき、水流城一族の悪名高いイメージを払拭しておきたいっていうのがあってなァ……」

 現在の水流城一族は、人体実験を厭わない悪名高い一族という認識が定着していて、確かにその一面があった事は事実ではあるが、正しくないもの――怪人と手を組んでいた等――も含まれており健在だった時よりも不当な扱いを受けていると言っても過言ではない。

 そんななかで史上三人目、歴代最年少での特等怪討が水流城一族の唯一の生き残りから現れたという事実は、あまりにも大きい。

 それに、ここまで幼ければ少女――水流城智磨自身は水流城一族の闇のような部分との関りが薄い事は容易に想像でき、そんな彼女が特等怪討として全日討に貢献し続ければ、水流城一族のイメージの改善にもつながる。


 ――晴也がそう考えての事であった。

 そういう心遣いであるとは彼女も理解できる。

 できてはいるのだが、それでも思う所がある彼女は口を開く。


「……正直、水流城一族のイメージがどうとかは、どうでもいい」


 彼女にとって、水流城一族はあくまでも古い一族であって、悪名高くなってしまったのも自業自得な面があると冷静に考えられる。

 水流城一族という名前が後世に伝わらなくたっていい、とも思っている位だった。

 少女が水流城という一族の名前をつけていようと、つけてなかろうと、どちらでも良いとまで思っていた。しかし――。


「――個人的には、怪異を討つ(つるぎ)じゃなくて、人間として見てやりたかったな……」

 そんな心残りを、彼女は口にするのだった。

次回更新予定時刻:

2025/07/26/12:00

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