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間/水流城智磨について/真鈴/肆

 二〇一六年九月。全日本怪討組合本部。

 水流城一族での騒動が一通り収束し、全日討の対応が落ち着いた段階で少女は真鈴によって全日討の本部へと連れて来られていた。

 そして、その最奥にある会長――全日討の頂点、倉橋晴也特等怪討――の部屋へと入る事となる。

「よぉ、来たかァ……」

 相変わらずベッドで横になりつつ、上半身だけ起き上がらせた老人、晴也の姿がそこにあった。

 傍目から見ればただの老人でしかない彼だが、彼をよく知る真鈴はそのような目で見る事はない。

 そして、少女もそんな晴也の見た目には騙されずその内側にある奇力を認識したのか、目が大きく見開かれる。


「……何者……?」

「カカ、そうかァ……嬢ちゃんにはお見通しってわけかァ……なるほど、水流城一族の最高傑作なだけあるなァ……」


 先日行われた全日討による水流城一族への襲撃は、怪人達を有する何者かによって作戦を中断する事となった。

 しかしながら、その怪人によって水流城一族の拠点は壊滅状態になっており、本来の救出対象であった全日討の怪討や、水流城一族の面々の多くがその場で遺体として発見されていた。

 この場にいる少女は、その唯一の生存者であり、水流城一族が生み出したかったとされる“あらゆる怪異を討伐する怪討”である、というのが晴也の見解だった。


「傑作……あそこの人もよく言ってた。……人に傑作って言うのおかしいとは思うけど」

「ククク、そうだよなァ、おかしいよなァ、ククク……」


 少女の言葉を受けて、笑い続ける晴也。

 その様子に真鈴は“自分はどうすればいいだろう”と考える。

 水流城一族への襲撃、その日に少女を保護してから今日に至るまで、真鈴は少女の面倒を見ていたのだが、この少女はあまりにも大人びていた。

 少女の話を聞く限りでは小学生ですらなく、幼稚園や保育園といった所に通っていないにも関わらず、受け答えが確りとしていて年相応らしさが見当たらない。

 自分の存在意義についてを色々と考えてしまっていた。

 そんな真鈴をよそに晴也は笑いながら言う。


「ところでよォ、嬢ちゃんの名前って何だい?」

「ない」

 少女のその回答に、晴也が目を丸くし笑うのをやめて「……真鈴、本当か」と尋ねる。

 これに対し真鈴は「少なくとも、水流城一族側にそれを確かめる方法はもうないですから」と答える。

 結局のところ、晴也や真鈴たちにとって、水流城一族について知る手段はこの少女からしかなく、この少女が知らないのであれば知りようがないのだ。


「――名前がにないってのも不便だなァ……布津丸とやらもそうは思わないかィ?」

 晴也がそう言うと、『我が使い手は我が使い手。名前などなかろうと使い手には変わりなし』と唐突に少女の手元に日本刀――布津丸が現れて答える。

 怪討なら一人一つの得物を持つ事になる訳だが、このように意志を持つ得物というのは例が無かった。

「そうは言うが、名前ってのは重要だァ。特に、言霊ってのが浸透しているここ日本ではな」

『それには同意する。我のかつての持ち主は随分と名付けに難儀していたようだったが』

「……なるほど、それだけ考えてはいた訳か」


 言霊、という概念がある。

 それは、言語にこもる精霊や霊力といったものの事である。

 当然ながら怪討の間でも広まっている考え方であり、この場合の精霊や霊力といった言葉は怪異やら奇力に置き換えられる訳だが、とても重要視されている。

 所謂魔法だとか呪いだとか、そういった類は専門的な知識がなければ扱えないが、言霊は言葉だけで何かしらの事象を起こすという意味で怪討にとっては注意しなければならない概念の一つだった。

 名前があれば、それを口に出して相手を呼ぶ事になる。

 つまり、それもまた言霊の影響下に置かれる事となり、名前というのは極論を言ってしまえば、名前を持つ全員が一人一つは確実に持っている魔法や呪いとも表す事ができる。

 名前がないと呼ぶ際に不便というだけでなく、名前というものはあるだけで重要という事だった。


「水流城一族、布津丸、ツルギ……」

 晴也はぶつぶつと呟きながら考えている。

 その様子を見た真鈴は一度少女の様子を見る。

 それはまるで不思議なものを見ている、と言わんばかりの表情であり、「……あの人は一体何を……?」と真鈴に尋ねて来る。

 真鈴は決して高身長ではないが、それでも成人女性の平均身長程度はある。

 それに対して少女は年相応未満の身長しかなく、見上げる形となる。

 その可愛らしさに真鈴は何かが目覚めそうな気配を感じ取りながら、ぐっと堪える。


「君に名前をつけようって話」

「そんなに名前が大事? “あなた”とか“君”っていう二人称があるんだし、それで十分だよ」

「大事に決まってるじゃん。本当なら、家族から初めてもらうプレゼントなんだから」

「家族……」


 その言葉に、少女は考え込む。

 無理もない。

 真鈴が聞き出した範囲にはなるが、少女が水流城一族の拠点の中で家族らしい触れあいしてきたかという点については否定するべきだろう。

 少女を“傑作”等と表現している人の集まりともなれば、そんな人々がこの少女をどのように扱ってきたかは察するに余りある。


「なら、ツルギでいいよ。怪異を討伐する剣。私の存在意義なんて布津丸を持っている事くらいなんだから」

「違うでしょ。君はちゃんとした人間なんだから、そういうのは――」

「――いや、本人の希望にはちゃんと添ってやらんとなァ」


 真鈴が少女の言葉を否定しようとして、晴也が少女の言葉を聞き入れる。「会長!」と真鈴が晴也に抗議を意を示すが「だったら、真鈴には何か案があるのか?」と問いかけ直す。

 その言葉に、真鈴は「うぐ」と言葉を詰まらせる。

 代案など、真鈴にはない。

 人の名前を考える等と言うイベントは、そう起こり得ないのだから。

 その点、子供や孫がいる晴也の方が色々と割り切っているのは当然とも言えた。


 とはいえ、話を振られたからには考えなくては、と真鈴は考えてからポツリと「智磨」と口にする。


「ほォ?」

「い、いえ。特に意味は思いつかなかったんです。忘れて下さい!」


 真鈴は慌てふためきながらそう言うが、「ククク、いい名前じゃねえか」と晴也は笑い、少女は意味もわからず首を傾げるのみ。

 真鈴の事は放置して晴也はどこからか紙と筆を取り出して、そこに“水流城智磨”と書いて少女に見せながら「だってよ嬢ちゃん。どうだい、水流城智磨で」と問いかける。


「ん。じゃあ、それで」

「よし、それじゃあ決まりだなァ! コイツの戸籍とかは全日討の方で作り上げるから、引き続き嬢ちゃん――智磨の面倒は真鈴が見るんだな。暫く一等の仕事は他に割りあてておくからよォ」

「へ?」


 色々と急に決まった事で真鈴はただ困惑するのみ。

 少女――智磨が「これからもよろしく真鈴」と重ねた事で、真鈴はため息をつきつつ、「わかりました。拝命致します」と晴也に対して智磨の面倒を見る事を宣言する事となった。



「ツルギチマ。いい名前だなァ……」

 智磨と真鈴が去った後、晴也は一人でそう呟く。

 そこには誰もいないその呟きは誰にも届かない。

「鋭利な刀剣を意味したり、枕詞として使われる剣太刀(つるぎたち)。そこから一文字抜いて代わりに()を後ろに足す。怪異を討伐する剣にして人間である彼女にとってはピッタリだァ……」

 そう言いながら、晴也は起き上がらせていた上半身を再び倒しながら呟く。

「……自分も水流城一族とそう変わんねえ人間になっちまったァ……真鈴のヤツは絶対そんな事を考えてない。それなのに、嬢ちゃんの事を刀剣のように扱って……」

 実際の所、晴也の中でこれと言った第一候補があった訳でもなかった。

 子供と孫で人に名前をつけるという経験こそしているが、それでも物心がついている人間に名前をつける、なんて経験を晴也がしている筈もない。

 あまりにも勝手が違い過ぎて、晴也は名前を考えられずにいた。

 だからこそ、真鈴に話を振ってそこからポツリと漏れ出たものをそのまま採用したのだった。

「歳はとるもんじゃないねェ……」

 晴也は一人で、誰にも届かない所でそう漏らしたのだった。

 その姿はまるで、年相応の老人そのものだった。



 それから暫くは智磨と真鈴は二人で暮らす事となり、二人で暮らす時間に慣れてきた頃の事。

 真鈴の一等怪討としての仕事に付き添う事となった。

 智磨が真鈴に保護されてから暫く、智磨は怪異と接触する事はなくその実力をまだ誰にも披露していなかった。

 その力を実際に目にしたのは真鈴だけ。

 晴也は智磨の内側にある奇力を認知しているために把握はしているだろうが、対外的には真鈴しか智磨の実力を把握していなかった。


 つまり、水流城智磨はどの程度の怪討なのか、という試験と言う訳だった。

 真鈴としては、こうやって智磨を値踏みするのは如何なものか、という気持ちが半分あった。

 もう半分はこれで智磨が周りに認められるという気持ち。

 現状の智磨は、あの悪名高い水流城一族の生き残り、という扱いであり奇異の視線に晒されていた。

 これに対して智磨は何かを気にするような素振りは見せなかったが、それを近くで見ている真鈴は気にしていた。

 真鈴はあの日確かに見た。見ず知らずの者を救い、「大丈夫?」と問いかける程の善良さを智磨が持ち合わせている事を。

 そして、その力は現在の怪討の中でも頂点に近いという事を。

 つまり、何かの間違いで智磨が人類の敵になろうものなら、それに対抗できる存在は晴也かもう一人の特等怪討くらいしかいない――という現実を。


「一度確認しようか」

 そんな外野の声を意識からどかしながら、真鈴は状況を智磨に説明する。

 これまで、真鈴の仕事に付き添ってその援護だけをしていた智磨だが、今回は智磨が主体となって怪異を討伐する事となっている。

 周囲から感じられる怪異の数は五つ。

 この場に言わせている一等や二等が力を合わせれば苦戦はしない相手だが、一人で対応する場合だと一等怪討でも手を焼く状況。

 これを、智磨一人に任せようというのだ。

 真鈴はこのような方法で智磨の力量を測る事について反対しているも「大丈夫」と智磨自身が言った事で真鈴は黙る。

「――すぐに済ませる」

 そう言って、智磨は地を蹴ってその場から消える。

 消えるような速さで疾走して、五つあるウチの一つに肉薄して一瞬にしてそれが一刀両断される。

 太刀筋すらも見えない早業で、しかもその直後には更に地を蹴ってその場から智磨は姿を消す。

 あまりの早さに誰もが智磨の姿をしっかりと視認できない。

 だが、確実に怪異の気配は消え去っていく事だけがこの場の者に伝わってくる。


「これで、終わり」

 最後の一つについても、息を切らす事なく布津丸を一振りして怪異を一刀両断。

 五つの怪異を相手にして、数分でその全てを片付ける驚異的な速度は、この場にいる誰よりも速く強いのは明白だった。

 こうして、三人目の特等怪討、水流城智磨が誕生したのだった。

次回更新予定時刻:

2025/07/14/08:00

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