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間/水流城智磨について/真鈴/弐

 晴也から直々に事実上の水流城一族へ襲撃を命じられた真鈴は、愛車である九〇年代スペシャリティカーで水流城一族の拠点があるI県某所に来ていた。

 他にも今回の任務にあたって真鈴を援護するべく近隣の支部から二等怪討も十数人か集結しており、「戦争でもするつもりか」と真鈴は一人呟く。

 現代においては戦車や戦闘機、軍艦といった機械的な戦力こそが軍事力の要なのは言うまでもない。

 しかし、古い時代に遡れば人同士が生身で戦うことこそが戦争と言えよう。

 そして、その時の要となるのが常人離れした能力を持つ者達――つまりは怪討こそが戦争における重要戦力だった時代というのが間違いなくあった。

 それを考えれば、今回の水流城一族への事実上の襲撃というのは、全日本怪討組合と水流城一族による戦争と言い換える事もできそうだった。


 はぁ、と真鈴はため息をつく。

 しかしながら、命じられた以上はそれを確りと遂行しなければならない、と真鈴は自らの頬を叩いて気持ちを切り替え咽喉無線のスイッチを入れてから「こちら真鈴。総員、聴こえるか」と言えば、各々からの返事が返ってくる。

 真鈴は一等怪討であり、この場に集まっている誰よりも格上。

 だが、真鈴は一等になってから日が浅い事もあってか周囲の真鈴への返事の仕方はかなり個人差があった。

 敬意を持って接して来る者、不満気な声を隠そうともしない者――これらすべてを束ねなければいけないのか、と改めて真鈴は今回の案件が面倒なのかを再確認した。


「今回の最大目標はあくまでも誘拐された怪討の救出です。相手を倒す事よりも、足止めして潜入班が水流城一族の拠点に忍び込んで逃げ出すまでの時間を稼ぐ事。ここまではいいですね」


 あくまでも救出こそが第一目標である、と真鈴は念を押す。

 少なくとも、水流城一族への襲撃にしたって、この救出対象の存在が大義名分なのだから、救出を目標としなければ筋が通らない。

 これについては真鈴が何度も晴也に確認をとった以上は間違いない。

 だが、そうとは受け取らない者もいるようで――。


『水流城一族への襲撃任務なんだ。足止めなんて言わずに倒しちまえばいいだろう?』

『誘拐されたのはうちの支部のヤツなんだ。誘拐した一族を生かしておけるか!』


 あまりにも血の気の多い者達に真鈴は頭を抱える。

 士気が高いのは大いに結構だが、その士気が確実な作戦遂行に向けられず、私怨に走るようでは意味がない。

 作戦を遂行する為には同じ共通認識でいてもらわなければいけないというのに、初めからそこに温度差があるようだと難しい。

「一応、念押しさせて頂きますが、水流城一族は優秀な怪討を排出してきた名門です。――できる、というのなら止めはしません」

 上から止めろ、と言ったところで素直に聞くとは思えなかった真鈴は忠告だけでもとそう口にする。

 結局の所、どうせ止まらないのだとしても、止めようとしたという事実はなければならない。

 遠まわしではあるものの文脈を読み取れば止めようとしていたのは明白。

 後は、止まってくれることを祈るのみだった。


「大丈夫ですか?」

 そんな真鈴に対し、スペシャリティカーの助手席に座っていた少女――倉橋里帆(りほ)がそう尋ねる。

 その気遣いに「すみません、大丈夫です」と真鈴は丁寧に返す。

 倉橋、という苗字から察せられる通り、全日討の会長である倉橋晴也の孫にあたる。

 里帆自身は二等怪討で真鈴よりも下ではあるが、その祖父が会長ともなるとどうしてもやりにくいというのが真鈴の本音であった。

「そんな畏まらないで下さいよ……やりにくいじゃないですか」

 金色の髪をツーサイドアップにしている彼女は、その内右肩にかかる髪を弄りながらそう言う。

 里帆が会長の孫であると知らなかった頃に色々な事を言ったせいで、真鈴としては非常に気まずいと思っている一方、里帆自身はその頃が心地よかったのでその頃のように扱って欲しい、という見事なすれ違いを起こしていた。

 この気まずさを誤魔化そうという意図からか、こほん、と真鈴はわざとらしく咳払いをしてから時計を見る。


 ――作戦開始予定時刻まであと数分と言った所だった。


 その仕草を見て里帆も真鈴に絡んでいる場合ではない、と髪を弄っていたのをやめて目を瞑る。

 そして、数秒立って目を見開くと共に里帆の手には拳銃が握られている。

 他の怪討が手にしているような刀や薙刀といった武器と同様、これもまた対怪異専用の武器である。

 銃口から奇力を放ち、それで怪異を穿つというシンプルな武器である。

 里帆が確りと真面目に準備しているのを見てから、真鈴もまた目を閉じて深呼吸。

 そうして目を開くと同時に真鈴の上腕から手の甲にかけて手甲がいつのまにか装着されている。

 これこそが、真鈴の怪討としての得物であった。

 現代においては祭りなどの演出として装着される事も少なくないが、武道に使われるケースもある。

 古く遡れば武芸における護身用の武具として使われていたりと間違いなく武具の一種であった。

 手をぐー、ぱー、と閉じたり開いたりしてから真鈴は咽喉無線のスイッチを入れて口を開く。


「それじゃあ、作戦開始一分前」


 この言葉を受けて、この場に集まった怪討全員の集中が高められる。

 合図はまだか、と耳を澄ませる。


「三〇」


 早く救出しなければ。

 早く敵を討伐せねば。

 そのような事を考えながら、開始の時を皆が待つ。


「一〇、九、八――」


 残り一〇秒を切り、残り五秒になろうとしたその瞬間――。


 轟音。


 何かが壊れるような音に衝撃。

 どのように考えても異常事態という事が一瞬で感じられた。



 カウントダウンがかき消され、現場には混乱が訪れる。

「作戦中断! 一体何があったか報告して下さい!」

 冷静さを失わない為に、一度作戦を中段して状況を把握しなければと真鈴が声を張り上げる。

 だが、無線が拾うのは混乱し切った他の怪討達の声だけ。

 これが、三等怪討や四等怪討も混じっている状況なら真鈴にも理解できる。

 しかし、ここに集まっている怪討は皆二等怪討以上の実力者だ。

 多少のイレギュラーであれば難なく対応できる筈の人材が揃いも揃って混乱しているのは異常事態と言えた。


「仕方ない、里帆はここで待機! 絶対に出ちゃダメだからね!」

「え、稿科一等、まさか――!」

「そのまさか! 私が様子を見て来る! 里帆は他の怪討からの連絡があったら報告する事。いいね?」


 真鈴は里帆からの返事を聞く事なく、愛車から飛び出してドアをばたんと閉める。

 ほんの僅かに集中すれば、奇力を感じる方角がある事に気づいて、真鈴はそこへ駆ける。

 本来ならば、愛車と共に向かう場面であるが、いざという時に里帆が運転してその場から離れるという方法もある以上、真鈴は身一つで駆ける事を選択した。

 一等怪討の並外れた奇力も相まって世界的アスリートでさえ仰天の速度で疾走しながら、近づくにつれて強大な奇力の持ち主がその場にいるらしい事を薄々と感じ始める。

 少なくとも、これまで戦ってきた怪異や怪人ではあり得ない奇力であり、確かにこれは二等怪討には荷が重い、と現状を把握する。


『か、怪人だ――怪人が出やがった――!』

『くそ、やっぱり水流城一族は怪人と手を組みやがったんだ……ッ!』


 怯えたような二等怪討からの報告が漸く真鈴の耳に届く。

 その言葉に、真鈴は足を止めずに考え込む。

 水流城一族が怪人の側についたと見るか、あるいは水流城一族とは無関係の怪人がこの場に出くわしたか。

 こうして、全日討の側に被害が出ている以上、今回出没した怪人は水流城一族の利の動きをしていると言える。

 であるならば、前者の方がしっくりくる部分も確かにある。

 だが、その肝心の水流城一族は、手段はどうであれ怪異を討伐するという点においては全日討と志を同じくする者だ。

 それを考えれば、怪人と手を組むというのは最も考えられない状況だと言えた。


 どちらにせよ、現時点で全日討に被害が出ている事に変わりはない。

 真鈴は地を蹴り跳躍するように疾走して、気配をより強く感じる場所へと到達する。

 そこで真鈴が見たのは、かろうじて人の形を保っている怪物と、それと対峙している二等怪討の姿だった。

 対峙している、と言えば聞こえは良いが、その実脚は震えていて得物を持つ手も震え、まともに戦えそうにない。

 真鈴は舌打ちしつつ、より強く地を蹴って怪物と怪討の間に割り込んでいく。

 そのタイミングで、怪物は眼前の二等怪討を仕留めんと腕を振るう。

 腕、というよりも触手と言った方がより正確かもしれないそれは、しなりながら二等怪討の身体へと打ち付けられようとしていた。

 それを、真鈴は器用に手で弾き返す。

 触手のような見た目の通りと言うべきか、その感触はとても良いものでなく「ゥえっ……」と真鈴はつい声を漏らす。


「い、一等……! どうしてここに――!」

 そんな様子には気づかず、ただ助けられた事に驚いている二等怪討はそのように問いかけるが、「今は退却して下さい!」と真鈴は理由を告げず逆に命じる。

 その必死な様子に察した二等怪討は「は、はい!」と言ってその場を去っていく。

 その様子を視界の隅に入れながらも、真鈴の意識は眼前の怪人に向けられる。

「……なんだコイツ……見た事ない……」

 これまで、真鈴が討伐してきた怪異や怪人の類は、既存の怪談やら伝説等、モチーフとなった妖怪が存在してきた。

 無論、中にはそのモチーフとなった妖怪や怪物自身が存在していて、それを元に怪談の類が生まれたケースもあるが、何かしらの手段でその存在を知る事ができた。

 しかしながら、この眼前にいる怪物が何をモチーフとしているのかが、真鈴にはさっぱりわからなかった。

 両腕が触手になっていて、下半身と頭はかろうじて人型と言えるだろうか。

 タコやイカをモチーフとしているにしては、吸盤のようなおのも見受けられない以上、何がモチーフとしているのだろうと幾ら考えても結論が出ない。

 そのような事を考えていると、怪人の腕が再び振るわれて、真鈴へと迫る。

 これを再び手で弾き返しながら、一度後ろに下がって真鈴は怪人を姿を再びじっくりと見やる。

 だが、怪人は何も語る事なくじりじりと距離をつめて幾度となく腕を振るってくる。


「――ったく。考えるのは後か」

 真鈴はそう零しながら、拳を構えるのだった。

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