表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人を疑わない男

 その会社には人の言葉を全く疑わない男がいた。


 たとえばこんな風である。

 あるとき同僚の一人が一枚の写真を持ってきてこう言った。

「見ろ、UFOの写真を撮ったぞ!」

 その一目で作り物と分かる写真を見て皆が笑っている中、男だけは感心したように頷きながらこう言った。

「ふうん、やはり宇宙人はいるんだな」


 またこんなこともあった。

 昼休憩のときに同僚の一人が男に話しかけてくる。

「実は財布を落としてしまったんだ。少しお金を貸してくれないか?」

 その同僚がギャンブル好きなのも貸した金はなかなか返ってこないのも周知である中男は気の毒そうな表情でこう言って金を貸した。

「おや、それは大変だな。財布が見つかることを祈っているよ」


 さらにこんなことも。

 仕事が終わったあと、上司が男に向けてこう言った。

「君の営業成績は皆と比べると少し悪い。だが君は誰よりも出来る男だと信じているよ」

 無論口先だけの言葉である。

 だが男は翌日からまるで生まれ変わったかのように営業で結果を残しはじめ、ついには社内で一番の成績を取るようになっていた。


 そんな男であったのでいつしか男の周囲では男が犯罪に向かうような言動は慎もうという暗黙のルールが作られて守られていった。

 そんなある日、男の参加していない飲み会で同僚の一人がある意地の悪いことを思い付く。

 彼がどのくらいのことまで信じ込むのかを試してみようと言い出したのだ。

 酔いもあってかほかの同僚たちもその案に賛成し、そしてどんなことを言うのかを皆で考え始めた。

 どうせなら突飛であり得ないようなことを言ってみよう、それならこんなのはどうだろうか、いやいやそれよりもこっちの方が面白そうだ。

 やがて案は決まり、週明けの朝、出社してきた男に向かって同僚が近づいて早速その言葉を口にした。


「君はすごい超能力を持った超人なのに、なんでそれを人のために使おうとはしないんだい?」

「へえ、僕が? そうか、知らなかったな」

 男はそうだったのか、と驚いたような顔をしてその話を聞いていた。

 あとになり同僚たちは彼が少しでも信じたことを大いに笑っていた。


 その日の夜から事故や事件の件数が減ったことに気が付いた人はほとんどいなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ