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第一章:5 まわった…

 

「あんまり小さい内から使うと背伸びないッスよ」



 剣術の稽古中、やる気に満ち溢れたアルタスに毎朝早くに起こされ、少々ご機嫌斜めなガリアがアルタスの剣を軽く受け流して言う。


 ーーー…はじめて魔法を使ってから二週間

 決意を新たに魔法に励むアルタスだったが、毎日魔力切れ寸前まで練習したにも関わらず成果は発動時間が僅かに縮んだだけに過ぎない。

 それならば魔力を体内に巡らす身体強化の魔法ならどうだろう?と、ガリアに相談したところだった。


「そっそんなの迷信だろ?」

「いーやホントっス!傭兵団にいた頃、身体強化の達人だった奴はすっごい背が低かったっス!」


「ーー〜〜…僕は父さまも母さまも高身長だから絶対伸びるもんね!だから教えてよ!」 


「でも、レスリー様はあんま背高くないっスよ〜」

「…にっ、兄さまは僕と母親が違うから…ーー…いてっ!」

 

「スキあり!」

「もー、ガリアの意地悪!」

 動揺しまくるアルタスの剣を容赦なくはたき落としガリアの木剣がポコンとアルタスの頭を叩く。


「焦らなくてもぼっちゃんは充分すごいッスよ!最近ちょっと根の詰めすぎじゃないっスか?」


「ま、まぁ確かに身体強化に限っては焦って覚える必要はないかもね〜あは、あはは…」


「はぁ…全くもう…」


 ーーー…ガリアの言うように、魔法の練習を開始してからアルタスの1日はハードになった。

 ーー…午前中に剣の稽古

 ーー…午後からは座学

 ーー…そして夕方から魔法の練習


 そんな過密なスケジュールを全力でこなしている為、夕食を食べると毎日倒れるように眠ってしまう…


 先の休日、村でアルタスと同年代の子供達と遊んだガリアは改めて普通の子供とは違う己が主人の規格外の優秀さを知った。

 そんな使用人として十分誇りべきアルタスがまるで生き急いでいるかのように力を求める姿がガリアは心配でならなかった。


「……僕は父さまみたいに立派になりたいからは多少は無茶しないとね!でやっ…ーー!」


「そうスけど、集中できてなかったら意味ないっスよ!ほら、ここ!ここ!そこ!」


 再び剣を手に向かってくるアルタスにガリアがカン!カン!カン!と甘いところに三連撃を入れ、アルタスはその場に大の字に倒れ込む。


「そんな険しい顔してちゃダメッス!自分みたいに息抜きして、いつもの愛らしいぼっちゃんに戻るっス〜!」


 そう言ってアルタスに飛びかかり、体を思い切りくすぐると、耐え切れず見せる年相応のアルタスの笑顔にガリアもフッと、安心したように笑い


 「さっ!とりあえずお昼食うッスよ!」

 と剣を片付け食堂へと向かっていった…ーーー


 ーーーーー


「ーーー………」

「ーーー…息抜きかぁ…」

 昼食後、一人書斎で読書中のアルタスが呟く。


「前より忙しくはなったけど僕としては充実してるつもりなんだけどな…」

 ーー…目標に向かって疲れなど度外視して突き進めてしまえるアルタスは息抜きと称し他の努力をしてしまう。

 今も『息抜き』に読んだ本の次巻に手を伸ばそうとしていたのだが……


「あれ?この本続きがない?」

 先日から読んでいる歴史書の続きが何処を探しても見つからない。

 独特なクセのある詩的な文章にもすっかり慣れ、これから魔王国が最も栄えた黄金期、三代目魔王時代に突入するのを楽しみにしていたのに。


 「…ハァ………」

 ーー…まるで本にまでも『少しは休め』と言われたようで、拗ねたように机に突っ伏し、手元に置いてあった歯車をいじりはじめる。


 ここ最近、何度も恥ずかしい姿を見られ、挽回するためにも更なる努力をしてきたつもりだった。

 魔法もこの魔法触媒に関しても、熱意は変わらないが一向に前に進んでいる気がしない。

 ーーー…そんな無意識的な焦りが表情に出てしまっているのをガリアは見抜いたのだろうか?


 優秀さ故に今まで壁という壁に直面したことのなかったアルタスは眉間にシワを寄せ何とか解決方法を模索するのだが……


「…ああっダメだぁ!何も思いつかない!僕なんて結局…ーー…ん?」

 珍しく暗い考えに陥りそうになりかけたその瞬間、先ほどから手元でいじっていた魔法触媒を見てアルタスは光明を見出す。


「待てよ、魔法触媒か…」

 この前ガリアの話では人間は魔法触媒を持たないと魔法を使えないという話を聞いた。

 そんな魔法が苦手とも言える人間でも魔法が使えるようになる魔法触媒をもし魔族が使ったとしたら…?



「ーーー…僕もスゴイ魔法が使えるかも!!」

 興奮気味にアルタスが立ち上がると、丁度お茶を持って部屋に入ってきたガリアがそれに驚き危うく茶器を落としそうになるが、そんなことはお構いなしにと先程閃いた考えを捲し立てる。


 唐突な事にポカーンとしていたガリアだったが、アルタスの話を聞くにつれ次第に表情が曇っていき……

 「…ハァ、いいスか?ぼっちゃん?」

 と、前置きした後、アルタスの持つ歯車をヒョイと取り上げ、平な部分に刻まれた人間の文字であろう場所を指差しこう続ける。


「なんか勘違いしてるみたいッスけど、魔法触媒は使えばぐぁーっとパワーアップするとかそんな便利なシロモンじゃないっス」


「コレに何て書いてあるかは知らないッスけど、一定の魔力を流せばここに刻まれた魔法を使えるよ〜ってだけのモンッスよ?」


 あくまでも魔法触媒は自身の力を増幅させるものではなく、刻まれた魔法が使えるだけの道具ということをガリアは諭すように伝えるが、納得しないアルタスはなおも食い下がり、諦めない。


「でも少なくとも刻まれてる魔法はちゃんと出るんでしょ!?僕は一度でいいからちゃんとした魔法を使ってみたいんだ!」


「でも…こんな何が出るかも分かんないモン使うのは危険っスよ…それに……」


 と、何か言いかけた所でハッとしたガリアは続く言葉を飲み込む。


 ーーー…そもそも魔族はなぜ魔法触媒を使わないのか?

 その一番の理由を言ってしまったら、せっかく目を輝かせて喜んでいる可愛いアルタスを落ち込ませてしまう。

 ーーー…そして何よりもう色々と説明する事が面倒になってしまっていたガリアは


「まっ!ぼっちゃんがやりたいことならとりあえず

 なんでもやらせて見るっスか!」


 考えることを放棄してアルタスのやりたいようにやらせてあげることを決めたのだった…ーーー




 ーーーーー



「ーーー…太陽みたいな形っスから自分の予想だと多分炎か光が出ると思うッス。だからくれぐれも気をつけるッスよ!」

 

 しばらくの後庭に出た二人には読めない文字ゆえ、なにが飛び出してくるかわからない魔法触媒に固唾を飲む。


「じゃあいくよ…」

「もしでっかい火柱が上がっても自分が絶対守るっスから!」

 真剣なガリアの表情に決意を固めたアルタスが魔力を練り始め、地面に置いてある歯車へとゆっくりと魔力を注ぎ込む。

 ーーー…歯車に魔力が触れた瞬間、魔力が染み込んでいく感覚があり、この間試した物を動かす無属性魔法の包んで浮かす感覚とはまた違うものを感じる。


 大人の手のひらほどで厚さ5センチ位のそこそこ大きな歯車はグングン魔力を吸いこんでいく。

 アルタスも負けじと魔力を送り続けていると、突如彫り込まれた文字が淡く青い光を放ち出す!


「来たっス!気をつけて!」


 ガリアが言った瞬間だった。

 カタッ…ーーー

 動いた!更に魔力を送ってみる。すると魔法触媒は少しずつ大きな動きになりはじめその場でゆっくりと回りはじめる。


「………」

「………」

 緊張の面持ちで見つめる二人、回る歯車、さらに魔力を送るアルタス。さらに早く回る歯車…


「………」

「………」


「ーーー…回った……」

「ーーー…回ったっス……」


「………」

「………」


「…回ったね…」

「…………ッス…」

「……………………」

 二人は回る歯車を静かに見つめ続けた。


 そろそろ本格的な秋を迎えるこの森には歯車が地面をこすれる音だけが延々と響き渡っていた……










・忙しい方向け今回のポイント


・アルタスは生き急いでいる。

・手っ取り早く魔法を使うため人間の魔法触媒に手を出す。

・魔法触媒で使える魔法は刻んである文字の魔法だけ。

・歯車の魔法効果は回るだけ。

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