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第一章:3 恐怖の夜

 


「なーんかキレイだから装飾品だと思って売るために拾っておいたんスよ」



 後にガリアに入手の経緯を聞いた所こんな話だった。


 ガリアが持っていたこの歯車(魔法触媒)はなんでも戦場で例の馬のない馬車や、よくわからない大型の魔法触媒の残骸などにくっついているらしく、これは売れそうだと見かけたら集めていたそうだ。


 ーーー…しかし争いが一段落し街に売りに出た所、金属としても大した価値にもならない上、装飾品ではなく人間の魔法触媒の一部で、縁起の悪いもの持ちこむな!と店主にこっぴどく怒られた当時の話を苦々しい顔で語る。



「何にせよぼっちゃんがこんなに喜んでくれるなら自分も捨てずに持っておいた甲斐があったってもんス。これもきっとジュガリア様のお導きッスね!」


 アルタスのミドルネームでもあるジュガリア様というのは初代魔王の名で、人間で言うところの聖人のような扱いだ。

 現在の魔王国を建国した最初の王であり人々から大いに崇められているため、ガリアのようにジュガリアにあやかった名は我が子への名付けの定番中の定番である。


 ーー…敵である人間の武器を自分の導きと言われるのはご先祖様的にどう思うんだろうか?

 魔王ジュガリアの遠い子孫にあたるアルタスはなんとも言えない気分だったが、とにかく嬉しい事には変わりなかった。


「持ってても使い道ないんであと何個かあるッスけどよかったらぼっちゃんいります?」


「そんな!いいのかい!?」

「ええ。正直邪魔だったスから」


 目を輝かせ大層喜ぶアルタスにそう言い放ったガリアだったがハッとした表情で

「エディには内緒ッスよ!こんなものあげたことバレたらまた怒られるッス!」


 とガリアに念を押されたため人間の魔法触媒の事はアルタスとガリア二人だけの秘密となった…ーーー



ーーーーーー



 ーーー…それからの数日間、何をするにもアルタスは歯車のことばかり考えてしまう。

 ガリアから貰った歯車は全部で5つ。

 ギザギザで薄っぺらいもの、小さいものなど全て形や大きさは違う。


ーー…どんな物の一部なのか?

ーー…どうやって使うのか?

ーー…一つ一つ形や大きさが違うのはなぜか?

ーー…掘ってある文字は何と読むのか?


 などなど疑問は挙げればキリがなく今までの少し退屈な田舎暮らしが嘘のように光り輝く日々だったのだが…ーーー





「ーーー…ウワアアアアアアアァァアァッ!!!」



 ある夜、事件が起こる。

 皆が寝静まるころ館にアルタスの叫び声が響いた。


 その日もベッド傍に置いた歯車を見ながら幸せな気分で眠ろうとしたそんな時だった。

 

 視界の端、何かが動く影…ーーー

 嫌な予感がし恐る恐る視線を移すとアルタスがこの世で一番恐怖するモノとバッチリ目が会ってしまった。

 そうなったらもう冷静ではいられない…ーーー


「大丈夫っスか!ぼっちゃん!」


 叫びをあげて2、3秒だろうか?

 取り乱す主人の悲鳴に風のように駆けつけた寝巻きにナイフを持ったガリアが、見たことのない真剣な表情をしている。


 普段のバタバタ音をたて走るガリアとは違う、頼もしい姿に安堵したのか、アルタスはガリアに飛びつきわんわん泣き始めた。


 困惑したガリアが何があったか尋ねていると少し遅れてエディもやってきて、二人で必死に泣きじゃくるアルタスをなだめて何とか話を聞くことができた。



「ーーー…ネズミぃ!?」



 アルタスをここまで怯えさせた正体を知った二人はすっかり呆れて

「ネズミの何が怖いんですか?」

「この家森の中にあるんスからネズミくらい出るっスよ。じゃ!おやすみっス〜」


 と、さっさと部屋に戻ろうとしている。

 そんな二人にアルタスは必死の形相で追い縋る。

 腐ってもアルタスは武の名門ファンダルフォン家の子だ。戦いとあれば人間だろうとドラゴンであろうと逃げるつもりはない。


 しかしネズミに関しては理屈ではないなにか根源的恐怖に支配され足がすくみガタガタと震えるただの子供に戻ってしまう。

 そこに勇敢なるファンダルフォンの姿はなく…ーー


「わかった!わかったから!明日は寝坊!いや休みにしていいから!お願いだ!!」


 なりふり構わず泣きじゃくる様子にエディはため息をつき

「料理人は休みなんて取れませんよ。しかしこのままじゃぼっちゃんがかわいそうだ。ガリアお前が手伝ってやれ」

 と、言い残し部屋へ戻っていった。


 残るガリアを涙ながらに見上げると何やらガリアがニヤリと笑っている。



「ーー…本当に明日休みでいいんスね?」



 ーー…何なら僕の全財産をあげてもいい!!

 と、口走りそうになったその瞬間。

 アルタスの視界からガリアが消え、また次の瞬間には現れたガリアの手にはキィキィ暴れるネズミが握られていた。


 アルタスは「ヒィ」と言う声にならない悲鳴をあげ、ガリアはネズミをポーンと窓の外へ投げ捨てると


「じゃあ明日はお休みッス〜」

 と鼻歌を歌いながら

「ーー…ああ後あれ!エディに見つからないようにちゃんとしてくださいッスよ!」


 と、ベッド傍の歯車を指差し自分の部屋へと帰って行った。

 残ったアルタスはその場にペタンと座り込み、しばらく呆然としていた…ーーー


ーーーーーー



 ーーー…昨夜、目が冴えてしまい中々寝付けなかったアルタスがノックの音で目覚める。

 目をこすりながら返事をすると完全に休みを満喫するために早起きしたであろうおめかしした私服のガリアが部屋に入ってくる。


「やぁおはよう!その服とてもよく似合っているよ」

 と、昨晩は取り乱してしまったものの、すっかりいつもの紳士なアルタスの挨拶に、ガリアはえへへとはにかみ


「ぼっちゃんの着替えだけ手伝ったら今日は村へ遊びに行くッス!」

 と、こちらも嬉しくなるような満面の笑みを浮かべている。


 ーー…基本的にこの世界は働きに出ればそうそう休みなど取れない中で、一日の休みをもらったガリアはそれはもう上機嫌にアルタスの寝癖をといている。

 

 「ーー…ああ、これ、村に何があるか分からないけどこれで楽しんでおいで。」

 ピシッといつもの貴族の子供らしい身綺麗な格好に着替えた所でアルタスは机の引き出しから小銭を取りだすと、兼ねてからしたいと思っていた歯車のお礼も込みでガリアにお小遣いを渡す。


「自分のご主人様は世界一っス!ぼっちゃん愛してるス〜♡」

 嬉しそうに森の中へと消えていくガリアの後ろ姿を満足げに見送った後、アルタスは今日中にやってしまおうと決めている事がある。


 ーーー…昨晩のような悲劇を二度と繰り返さぬようネズミの侵入口を発見し、徹底的に塞ぐのだ。


 気合い十分に作業に取り掛かるも、この館は年季の入った上、濃い魔素の影響で汚れが溜まりやすい。

 

 流石に目立つ場所に穴などないが、怪しい所を挙げればキリがなく大きな家具を5歳児の力で動かすのは容易ではない。 

 アルタスは昼前にはとっくに意気消沈し椅子に力なく座り込む


「せめて魔法が使えれば楽なんだけど…ーーー」

 と、言った所であることを閃く。

 これならなら上手くいくんじゃないか?


 現金なガリアに日々の仕事が楽になるということをアピールすれば教えてくれるのではないか?

 最近は魔法触媒にばかりかまけていたが本来のアルタスの目的、魔法を!


 思い立ったら即行動!

 一旦ネズミの穴探しはほっぽり出しアルタスはガリアに魔法教えてもらうための計画を立てはじめたのだった。






・忙しい方向け今回のポイント


・アルタスは歯車に興味津々。

・アルタスはネズミが大嫌い。

・ガリアは本気を出すとスゴイ。

・アルタスは魔法が使いたい。

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