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第二章:9 黒歴史発表会


 「あっはっは!腸詰式お掃除水球?なんちゅうネーミングセンスをしてるんだキミは。」


 

 アルタスが腸詰式お掃除水球を思いついてから五日。実に十日ぶりに目覚めたエスコォールが笑う。


 胸元を大きくはだけさせた寝巻き姿、とても十日間も寝ていたとは思えない寝癖もむくみすらない美しい顔で廊下を転がしていた腸詰式お掃除水球を興味深そうに眺めている。


 「これ水球が魔素汚れを吸着するんです!どうです?驚きましたか!?」


 「うん、この形はおもしろい!…ただ残念ながら魔素汚れを吸わせるっていう発想は既にメイド業界にある小技さ。それと、これを完成形としてしまうのはいささか美しくないんじゃないか?」


 ーーー…流石エス先生…分かってらっしゃる。

 この魔法の不満点はズバリ…ーーー…『大きくなる』

 腸詰式は今までより接地面が大きいことで、より多くの魔素汚れを取り込めるのだが、その結果、魔力の蓄積が消費を上回ってしまいどんどん大きくなってしまうのだ。

 決して使えない訳ではないがこだわりとして安定した形を保ちたい……

 

 「これはまぁアル君なら自力で完成系を見つけられるさ!それより今急いで直さなくてはいけないのは…ーー…そのネーミングセンスさ!『腸詰式お掃除水球』なんてエレガントさが足りない!…時間的にも丁度いい。詠唱について一から書斎で勉強だね!」


 アルタスとしては名前など別に何でもいいとは思うが、確かに『腸詰式お掃除水球』がセンスがあるかと問われれば無いと思う。

 …折角十日ぶりのエス先生の授業だ。そこら辺を含めてありがたく学ぶとしよう…ーーー




 ーーーーーー



 「うーむ、君の先祖のニネアくんっていうのはボクと本の趣味が合うね。センスがいい。アルくんもちゃんとこのセンスを受け継ぐんだよ。」


 ーーー…書斎にてエス先生の授業を受けている最中本棚に並ぶ本を見て感想を呟く。

 エス先生は流石長生き…ーー…年若いエルフの割にとても博識で、教え方もうまい。


 「エス先生はひいおばあさまと親交はなかったのですか?」

 「あはは…三代目魔王の時代はボク達エルフは魔王国から締め出し食らってたからね……」


 ーーー…聞くところによると魔族至上主義であった三代目魔王エルドロールは、元々敵である人間はもちろん、エルフやドワーフといった他種族を魔王国から徹底的に排除して行ったとの事だ。

 その後、現魔王である四代目の時代に入ってから現在、敵対している『聖王国』と呼ばれる人間の国がドワーフと手を組んだことにより、エルフと魔族はおよそ250年ぶりに再び同盟を結んだのだという。


 「…僕ってそんな過激な方の生まれ変わりなんて言われてたんだ…ウチには二代目までの歴史書しかなかったから知らなかった…」


 「…ん?その本…ーー…うわっ!何でこれがここに……!」


 アルタスが本棚から取り出した、例の妙に詩的な文章で書かれた歴史書…ーーー

 その表紙を見たエスコォールは何やら恥ずかし気にサッと顔を覆うが、隠しきれない長い左耳の先まで真っ赤になっている…


 「先生……?この本がどうかしたんですか?」


 「……いや…あはは…実はね、その歴史書はボクが書いた物でね……まだ実物が残っているとは思わなかった…」


 「えっ!?この本を先生が!?…へぇ、じゃあ作者の〝偉大なる山河〟ミリュー・ペティって言うのは先生のペンネーム?」


 「コラ!その名を読み上げるな!大人をからかう悪い子にはこうしてやる!」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるアルタスを珍しく乙女のように恥ずかしがる可愛いエスコォールは全身をくすぐり笑わせているとーーー…ガチャリ、書斎の扉が開く。


「うーい!ガリアちゃんのスペシャルティーはいかがっスかー……って、お二人、何してるっスか?」


 ーーー…丁度よくお茶を持って現れたガリアを交え〝偉大なる〟エスコォールの昔話を茶請けにティータイムに入る。


 「あははぁ…だんだんボクもガリア君のお茶がクセになってきたよ。今度是非淹れ方を教えて欲しいものだねぇ。」


「ふふぅ…でしょぉ?僕はもうガリアのお茶を一日一杯は飲まないと体が震え出すほどですよぉ。」


 ーーー…ガリアのお茶の中毒性に目覚め、トロンとした表情を浮かべるエスコォールが落ち着いた所で、改めて歴史書の経緯を聞いていくと、当時魔法の技術で並ぶ者はいないと全能感に支配された時期に思い上がって書いた、いわゆるエスコォールの『黒歴史』的な一冊だそうだ。


 「今思えば読み手のことなんて一切考えていない稚拙な文章だ。歴史書だけに黒歴史ってね!あはは」

 

 「…うへぇ、ババクセェジョークっス……」


 「ーー〜…なんだよっ!ガリア君だって丁度()()()()()()()だろ?何か自分の中での恥ずかしい設定とかあるはずだ!話してごらんよ?」

 

 「ふふん、自分そんなモーソーに浸ってる暇なんてないッスよ。なんせ日々試練に明け暮れ、シショーから授かったこの必殺技『漆黒の真紅(ブラッククリムゾン)』でぼっちゃんを狙う悪党共をバッタバッタと影から守るエキサイティングな毎日っスから!」


 ーーー…そう言って指先をプルプルさせながら、渾身のドヤ顔で覚えたての小指サイズのお掃除水球を披露し終えると、

 「あっ!そうだ!」と何か思いついたかのようにバタバタ慌ただしく部屋を飛び出して行ってしまった。


 「「……」」

 「………ねぇアル君、ガリア君の師匠ってボク以外にもいるの?」

 「ーーー…さぁ?」


 ガリアには思いっきり表で守ってもらっている上、

漆黒(くろ)なのか真紅(あか)なのかはっきりしない必殺技とやらもシショーではなくアルタスが教えた物だ。

 ーーー…恐らく前に見たエスコォールの『光輝なる風(シャインブラスト)』に憧れて絶賛黒歴史製造中のガリアを待つ間、ガリアの言葉で思い出した本来の授業目的、『詠唱』について尋ねてみる。


 「そういえば、先生の『光輝なる風(シャインブラスト)』も詠唱になるんですか?」


 「…そうだね。あれは無詠唱攻撃魔法と組み合わせて進化した物だから詠唱自体はかなり短いけどね。それにしても無詠唱魔法を詠唱するってのも変な話だね。あっはっは!」


 ーーー…詠唱は現在でも存在する…

 ならば何故この書斎にある魔法書の詠唱魔法は発動できないのだろうか?

 アルタスが魔法書を取り出すとエスコォールは目を丸くし、大笑いしはじめる。


 「あっはは!これまた古臭い詠唱だね、それに魔法陣まで!そりゃここに書いてある魔法はアル君には発動できないさ、うん、今日の魔法の授業はこれに決まりだね!あとで詳しく教えてあげよう!」


 「ーーー…!!…やった!」

 ここ一年ずっと謎だった詠唱や魔法陣についてようやく答えが見つかることに喜んでいると、ドタバタ足音を立てガリアが帰ってくる。

 …そしてその小脇に抱えられた…ーー…バタピー?


 「ふふん、やっぱ黒歴史って言ったらコイツが面白そうな話持ってそうだから連れてきたッスよ!」


 「ヒィィ!黒歴史ぃ……?いきなり連れてきて何なんですかぁ?ガリアせんぱぁい…」


 ーーー…作業中に突然拉致され、状況を飲み込めていないバタピーに今までの事情を説明すると、現在進行形で何か患っていそうな鼻につく喋り方とポーズを取りながら遠い目をして語り出す。


 「ハハァン…そういう事ですかぁ…ええ、ええ私にもありましたねぇ…そんな若い『(とき)』が…フッ!」


 「私の場合ぃ…鍛冶屋に修行に入ったのが正にそんな理由でしたねぇ…伝説の剣を作る謎の鍛治師みたいなぁ?…えへっ」


 「………。嘘っスね?」

 「……えっ……?」


 「…なーんかそれっぽい話っスけど後輩の割にマトモっつーか()()()()過ぎるッス!本当のこと言うっス!」


 ーーー…ズビシ!と、ガリアが看破したように指差す。

 どうやら図星だったバタピーはダラダラ汗をかきながら目を泳がせるが、じっとり見つめるガリアに耐えきれなくなり両手をあげて白状する。


 「〜〜……もぉ分かりましたよぉ!恥ずかしいからあんまり言いたくないけど特別ですからねぇ…!」


 「コホン…えっとですねぇ………設定としてはぁ実は私は魔王様を陰で操つる影の支配者なんですぅ。そしてぇ…ーー…〇〇を…ー…□□がぁ…ーー…〇〇でしてぇ…きゃあ……それからぁ……」


 「……それでーーで…ーーからぁ…ーー」


 「……ーーー……」

 ーーー…予想通り…いや、予想以上のとんでもない話をし始めたバタピーに一同は凍りつく。


 あのなんでも笑い飛ばすエス先生すらなんとも言えない表情で固まっている中、恥ずかしいと言っていた割にヒートアップしたバタピーは腰をクネクネさせながらどんどんヤバい方向に話を続けていく……


 「ーー〜…こ、このバカ後輩!なんちゅう話をぼっちゃんに聞かせてるっスか!」


 ーーー…ゴチン、そんな恍惚の表情を浮かべながら暴走するバタピーを真っ赤な顔のガリアがゲンコツで正気に戻す。


 アルタスは正直話を半分も理解は出来なかったが、一つ言える事は、バタピーには決して権力を持たせてはいけないタイプだと言うことは分かったのだった……


 

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