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第二章:8 腸詰式お掃除水球


 「すっごい…何この色…?」



 毒ガエルの沼へ到着したアルタスは想像以上の光景に驚いていた。


 ーーー…『ピンクの沼』とは聞いてはいたが、思っていた数倍は明るめな色合いでおよそ自然界の物とは思えない。

 まるで自分たちの存在を誇示するかのように蛍光色の卵が沼からピンクの光を放っており、それが周りの魔素に反射してとても幻想的な風景を作り出している。


 「これはプロポーズの場所に選ぶ気持ちも分かるね…」


 「そっスかぁ?こんなピカピカ光っちゃ他の生きモンに食ってくれって言ってるようなもんスよ。自分にはバカなカエルとしか思えないっスね!」


 これまた毒々しい色をして沼を闊歩する親ガエルを指差しガリアがケタケタ笑う。

 その一言に、沼を見てうっとりしていたバタピーは水を差されムッとした表情を浮かべ舌を出す。


「フン、せんぱぁい…美味しそうに見えても食べちゃあダメですよぉ…毒でお腹壊しちゃうんですからぁ……」


「はぁ!?バカにすんなッス!カエルなんてよっぽどハラ減らなきゃ食わないっスよ!」


「ーーー…お腹減ったら食べるんだ……」

 …余談にはなるが、本来このカエルは毒に高い耐性のある魔族やドワーフ以外が食べれば一昼夜苦しみ抜いて絶命するほどの危険な毒を持つ生物なのだが…そんな事はアルタス達は知る由もない。

 ……とにかく魔族にとっても体にいい物では無いためガリアの食欲が向く前にエディの美味しいお弁当で腹を満たす事にする。



 「…ーーー…!!」

 「ねぇ、バタピー、あれがスライム!?すごい、あんな生物本当にいるんだ!」


 そんな危険な毒ガエルの前で呑気にお弁当を広げたアルタスたちの前に突如沼の中からザバっと青いプニプニの水球のようなものが現れる…ーー…スライムだ。

 目の前をピョンピョン跳ねる姿に興奮したアルタスは手に持ったサンドイッチを置き、その触り心地の良さそうな体に触れようとしたところ、バタピーが手を掴み待ったをかける。


「ご主人様ダメですよぉ…スライムちゃんはとってもかわいいですけどぉ…体は酸の塊みたいな物なので触ったらヤケドしちゃいますよぉ…?」


 「ええ!?そうなんだ…触って質感を確かめたかったのに…」


 「だはは、スライムの感触知りたかったらバタピーの無駄にデッカイ乳でも触っときゃいいっス!多分同じっスから!」


 「…もう、先輩たらぁ…怒りますよぉ……!」


 「………」

 ーーー…バタピーが胸を隠し、警戒した視線をアルタスに向けるのだが、見くびられては困る。

 魔法の為なら何でもやる狂気の魔法士、エスコォール・ミディアムの弟子にはなったものの、そこら辺は紳士でありたいアルタスはそんなハレンチな真似はしない。

 …と、いうかいつまでも変態貴族のイメージを持たれているのはショックだ……少しは信頼して欲しい…


 ーーー…ガリアの余計な一言のおかげで多少の気まずさを覚えつつ、大人しく昼食を食べながらスライムの生態を観察するのだが、早速動きに欠点を見つける。


 「…うーん、実物見て思ったけど意外と接地面が少なくてピョンピョン跳ねさせるのって掃除にあんまり向いてないのかも?」


 アルタスは手をかざし、スライムの質感をイメージした粘度が高く少し固めなお掃除水球試作版を出す。

 実際の動きを見た事により、ボテッ、ボテッと跳ねさせることに成功したのだが、掃除用としては床面に抜けが多く、移動させる度にかざした手を上下させなくてはならず正直疲れる…ーーー

 果たしてこの形がベストなのかと頭を捻っていると、お掃除水球に一匹のスライムが近寄ってくる。


 「きゃあ、あのスライムちゃん水球を仲間だと思ってるのかなぁ……?かわいい〜…」


 「ほんとだ!これはかわいいかも!」


 ーーー…仲間とじゃれるようにスライムが水球にボヨンボヨンと体当たりしている姿は微笑ましく、とてもかわいい。

 そんな生き物のほのぼとしたシーンに癒されていたのも束の間。次の瞬間…ーー…スライムはガバッと伸びたかと思いきや、水球をまるで餌のように丸呑みし吸収してしまう……


 「oh……」

 ーーー…やはり可愛く見えても野生生物。

 こちらの思うようになど動いてはくれず、その衝撃に三人は凍りつく。

 …口をあんぐり開けたガリアが思わず持っていた腸詰肉をポトリと落とす中、水球を丸呑みしたスライムはゲップをするように空気を吐き出すと何事もなかったようにピョンピョンと立ち去っていく。

 

 「ーーー…あっ!腸詰落としちゃったっス!フー、フー!三秒までならセーフっスよね?」


 「あはは…中々衝撃の光景だったね…ーー…待てよ…腸詰か…ガリア、ちょっとそれ見せて!」


 「うわっ!ぼっちゃんコレ食いたいんスか?」

 ガリアの落とした腸詰肉は油で焼いた物で、その油に泥が吸着している…

 今まで汚れを内側に吸収することばかり考えていたが、外側に膜を作り、この油のように粘着する性質を持たせ吸着させればいいのかもしれない……



 「ーーー…思いついたかもしれない…ーー…お掃除水球の完成版…」


 

 ーーー…正に以前エスコォールの言っていた『ヒントは足元にある』だ。

 わざわざ形も球体ではなくこの長細い形状ならば接地面も多く取れ、跳ねさせずとも転がせばいい


 「これは魔力操作がむずっかしい……!!でもいい感じだ。」


 イメージするのは薄い膜の中に肉の代わりにパンパンに詰まった水だ。

 しかし異なる性質を持つ二つの水を作り出すのは魔力の操作がかなり難しい。


 「そうか…別に魔法なんだからそのまま腸詰のように二つの性質を持たせる必要もないか…へへへ…ーーー」


 ーーー…すっかりピンクの沼やスライムへの興味が失せ、目の前の腸詰肉に夢中になってしまったアルタスを陽が傾き始める頃ガリアは首根っこを掴み館へと引っ張っていく。


 「折角遊びに来たのにぼっちゃんたら……でも、まぁ今回の魔法は自分、かなり期待してるっスから応援はしてるっスからね!」


 「何言ってるの?この魔法はガリアの為に作るんだ。だからガリアも習得するんだよ?」


 「ーーー…え?」

 引き摺られながらも腸詰を観察していたアルタスがギョロッとした笑顔を向ける。

 ーーー…その笑顔は魔法を語る際のエスコォールと同じ狂気じみた物だったと後にガリアは語る……



 こうしてアルタスと共に腸詰式お掃除水球習得のため朝から晩まで腸詰肉の観察をさせられ、その副産物の大量の腸詰肉を食卓に出されたガリアは、少し腸詰肉が苦手になったという……


 

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