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第二章:7 お掃除革命


 「ぼっちゃん!この魔法完成したらメイド業界に革命が起きるッス!」



 館の廊下の壁を水球が張り付き、ノロノロ動きながら魔素汚れや埃を吸い取っている。


 ーーー…昨日はガリアの休日。アルタスが代わりに館の掃除をしていたのだが、その際壁に染み付く魔素の汚れを見て思いついた魔法だ。

 魔法自身も魔素を吸えるという攻撃魔法をヒントにこの汚れも同じ魔素なら吸って落とせるのでは?と考えた結果上手くいったのだ。


 「でしょ?魔素を補給できるから持続力もあるし、お掃除が終わればこのとお〜り!」


 アルタスが商人の宣伝文句の様な口調をしながら、鼻高々に指をパチンとならし魔力の供給を切ると水球はキラキラと輝きながら宙に消えていき、吸い取っていた埃だけが床に残る…ーーー

 


 「ほえー…改めて魔法ってのは不思議ッスね、あんだけあった水が一瞬で消えたっス。あの水ってどこに消えてんスかね?」


 「確かに…壁や服は濡れたままなのに水球自体は魔力を解いた瞬間消えていくから不思議だね…エス先生に聞いてみたいけど…ーー…まだ寝てるからまた今度だね…」


 ーーー…この不思議な魔法の仕組みについて聞いてみたいのだが、当のエスコォールはバタピーに会いに行った日から若干フテ寝気味に、もう四日ほど眠り続けている……


 「センセに手伝って貰って早くお掃除革命起こして欲しいのにもどかしいっス!」


 「こればっかりはしょうがないよ……それに先生にばかり頼っていちゃ僕自身の成長が止まっちゃうから自分でも考える事はちゃんとやらないとねっ…と…!」


 ーーー…再びお掃除水球を作ったはいいがまだまだ機動力に問題があり、現状はまだ普通に掃除した方が早い。

 まだ何か完成へのピースが揃っていないお掃除水球が床をノロノロと這う姿を眺めていると、向こうの角から無事職場復帰を果たしたバタピーが、あのゴテゴテ装飾の付いたメイド服に身を包み鼻歌まじりにやってきた。


 「わぁ…なにこれぇ…水が動いてかわいいですねぇ…まるでスライムみたぁい…えへっ」


 「スライム?ってあの獣なのかも分かんないってヤツ?バタピーは本物見たことあるの?」

 

 ーーー…スライムか…

 ルイーズマカリアでの療養中、退屈凌ぎに買った動物図鑑にも載っていた水の塊のような生物だが、余りにも他の生物と姿が違い本当に居るのか疑いたくなる物だったが……



 「はぁい、村の近くの沼にいますよぉ…ピョンピョン跳ねてかわいいんです…あっ…今の時期だったら毒ガエルのピンクの卵が沼一面に広がっててとっても綺麗で見に行くならオススメですよ……えへへ」


 「げぇ!何スかそれ、自分鳥肌っス!」

 ーーー…沼一面に広がるピンクの卵……

 想像しただけでもゾッとする光景だが、確かにスライムのように跳ねる水球が作れたのなら問題だった機動力不足解消の糸口になるかもしれない。

 ……イメージ作りのためにスライムの実物は是非見ておきたい。


 「……うん、興味が湧いてきたよ!その沼、案内してもらっていい?」


 「やったぁ…運が良ければスライムがカエルの卵チュルチュル食べるシーンが見えるかもしれませんよぉ…お楽しみにぃ……えへっ」


 …そのシーンはイメージに変な影響を与えそうなのでご勘弁願いたいが、天気も良くせっかくの外出だ、ピクニック気分でエディにお弁当を作ってもらいアルタスたちは沼へと遊びに行くことにした…ーーー



 ーーーーーー



 「ーーー…おや?アルタス様、お出かけですかな?」


 目的地の沼は村の外、畑地帯をしばらく歩いた森の中にあるらしく、村の入り口に着いた所で槍と胸当てを装備した門番のハツラツとした中年男性から声を掛けられる。


 「…ああ、エドガーさん、こんにちは…近所の沼までちょっとピクニックへ…」


 ーーー…エドガーと呼ばれたこの門番は、イヴァナ事件の後ホーデムがどうしてもと寄越した、以前模擬戦で戦った元兵士長だ。

 アルタス的には魔法触媒…ーー…『歯車』の開発をするのに動きにくくなるため断りたかったが、ホーデムには魔素血中結晶化症の高い薬を用意してもらった恩がある手前断り辛く、結局エドガーが村に常駐する事になった。


 「はっはっは!そう警戒なさるな。私のことは半分引退してスローライフを過ごすオジさん位に思ってくれて結構ですから。……勿論この間館から見えた巨大な水魔法と風魔法のこともホーデムさんには報告してませんのでご安心を!」


 …言動を見るに既に秘密を持っている事はバレているようだが、腹黒いホーデムの部下と聞いて身構えていたものの、エドガー自身は中々とっつきやすい好人物だったのが救いだ。

 村の一員となったのならいつまでも苦手意識を持たず、これからは他の村人と同じように扱うべきだろう。


 「ーーー…そうそう、沼といえばアルタス様もカエルの卵を見に?なんでもプロポーズするとかで先ほど若いカップルも沼へ向かいましたのでくれぐれも邪魔をしてはいけませんぞ。はっはっは!」


 「きゃあ、いいなぁ…私もそんな最高のシュチュエーションでプロポーズされたいなぁ……えへえへっ」


 「………」

 ーーー…はたしてカエルだらけの沼が最高のシュチュエーションかどうかは置いといて、てっきりいつものバタピー独自の美的感覚の話かと思いきや、沼は本当に綺麗なようだ。

 スライムの観察のため仕方なくと思っていたがこちらも楽しみになってきた。

 日が暮れるまでには帰りたいためエドガーに別れを告げ、村の門をくぐる。



 「ーーー…ふぅ、いい風だね。」

 一向が村を出ると一面の麦畑が広がり、既に青々と伸びた麦が風に揺られ心地の良い音がする。

 初夏の暖かい空気の中、畑仕事をする村人に手を振りつつ非常にゆったりした気分で畦道を歩いて行く。


 「ふぁ〜…こうのんびりしてると眠くなって来るっスね…」


 「センパァイ…森に入ったら今、(ボア)が繁殖期で気が立ってますからくれぐれも頼みますよぉ……」


 「おーっ!それなら昼は肉も食えるっスね!…出てこい、ボアーーっ!!」


 ーーー…ボア程度の脅威なら最早『向こうから狩られに来てくれる肉』位の感覚なのだろう。

 眠気を覚まし、護身用に持って来た剣を掲げ目を輝かせるガリアを先頭に、最短ルートという場所で麦畑を外れ、森へ入る。


 「…ーーー〜…♪」


 「アーティ、起きたの?おはよう!」

 ーーー…ひんやりした空気と木の匂い、それと濃い魔素の霧。妖精という種族はやはり森が好きなのだろうか?

 今まで頭の上で大人しかったアーティが急に元気になり、こちらに挨拶でも返すかのように目の前をブンブン飛び回り正直魔素の霧より視界の邪魔になる…


 「だっはっは!このチビ助、ブンブン飛び回ってハエみたいっス!」


 「…ーー〜〜…!!」

 「…イテっ!何するっスか!チビ助!」

 デリカシーの無い発言をするガリアの顔目掛けて光の玉が全力で突っ込んでいく。

 恐らく今、アーティの声が聞こえたなら「誰がハエよ、このバカ!」辺りだろう。確かにブンブン飛び回って虫のようだとは思ったが、ハエ扱いは流石にガリアが悪い。


 「…ーー〜〜…!!」


 ーーー…エディ以外の新たなケンカ友達の登場に、また館がうるさくなる事を予感し苦笑いしていると、二人はケンカしながらどんどん先へ行ってしまう。

 

 「…ん?今あの茂みなんか動いたっス!チビ助、テーサツに行くっスよ!」


 今日のガリアは昨日の休みに加え、楽しいことが続いたからなのか?アーティに負けず劣らず元気いっぱいだ。

 鼻息荒く、茂みに隠れるかわいいウサギを肉に変えようとするのをバタピーと二人必死に止めるなど多少のトラブルを起こしつつも、その後はボアにも会うことはなく順調に森を進んでいった…ーーー



 「あっ…エリーとニックだぁ…」


 「えっ、バタピー?それとアル様まで!」

 ーーー…沼までもう少しという所、向こうからやって来たのは沼は沼でも愛の沼。

 腕を組み、ツノが刺さりそうな勢いでどっぷりと男性の肩に頭を預け、ここが目的地か?と思ってしまう程ピンクなオーラを纏う仲睦まじい様子の男女が現れる。


 ……なるほどこの二人がエドガーの言っていたプロポーズをすると言っていたカップルか。


 「やぁ!その様子だとプロポーズは上手く行ったみたいだね!おめでとう!」


 「ええ!?なんでアル様がそのことを?…ーー…ああ、エドガーさんか…ちょっと照れくさいけど…ありがとうございます!」


 突然現れたアルタスに驚いた二人だったが、三人からの目一杯の祝福に顔を赤らめつつもとても幸せそうで、アルタスもついついにやけてしまう。

 ここで会ったのも何かの縁だ。

 結婚式にはご馳走様とお酒を用意して盛大にやると約束する。


 「ーーー…ああ、そうだ、アル様達も沼へ向かうなら今年はいつもよりスライムの数が多いんで気を付けて!それじゃ!」



 そう言って村へ帰っていくなんだか頭の上をハートが飛んでいるようなアツアツの新婚さんを見送ると見えてくるのは今度こそ正真正銘の目的地。

 普段生活しているだけではお目にかかれないピンクの蛍光色に輝く沼へと到着したのだった。

 



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