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第二章:6 バレた!


 「ーーー…アル君、話がある。」



 朝方、アルタスがバタピーの家へ遊びに行くためコッソリと館を抜け出そうとした所玄関前にエスコォールが立っていた。


 エルフであるエスコォールは長い時間を生きる種族の為、魔族とは生きる時間感覚も異なる。

 ーーー…何日間か起きて、何日間か眠る。

 そんな生活リズムらしく、昨日は一日中寝ていたので今日も起きていないだろうと思ったのだが……

 


 「あのぉエス先生、お話というのは……?」


 「アル君、ボクに何か隠し事ない……?」


 「ーーーー……!」

 …隠し事は……ある。

 主に人間の魔法触媒の事だがまさかバレたのだろうか?

 現物は館を掃除する際、エスコォールには声が聞こえるアーティにすら気付かれぬよう、どさくさに紛れてバタピーに渡し保管してもらっているはずだが……



 「い、いやぁ?なにも隠してなんていませんが?」

 

 「ふん、白々しいね。ボクは昨日夜中に目が覚めて退屈しのぎに館の探検をしていた時に見つけたんだ、言い逃れは出来ないよ……!」


 …いい大人が夜中に何をやっているんだ………

 とは思うものの、館にまだ魔法触媒が残っていたのだろうか?…いつにも増して真剣なエスコォールの表情からして想像より事態はマズいのかもしれない。


 …二人の間にアルタスの命運が掛かるような重たい沈黙が流れる中、心臓だけはバクバクうるさいほど脈を打ち、息も出来ない緊張の一瞬、エスコォールがその口を開く…ーーー


 「………アル君、キミ…」

 

 「……っ…!」



 「ドワーフを匿っているだろ!!」


 

 「ーーー…は…?」

 ーーー…ドワーフ?

 大声を上げるエスコォールに思わず身構えてしまったがドワーフとは一体なんのことだ?

 魔法触媒の話ではなかった事には一安心だが、一体何を見てそんな発想が出てきたのかサッパリだ。


 ドワーフは人間側に付いている魔族とエルフ共通の敵と言うことは位は知っているが、アルタスはその姿を見たことすらない……


 「…キミたち魔族が人間を嫌うようにエルフはあの野蛮なドワーフが大っ嫌いなんだ。もしドワーフを匿っているようなら流石のボクも許さないよ……!」


 「いやいや…ドワーフなんて本当に知りませんよ…何言ってるんですか、エス先生…」


 人間の魔法触媒の話でないのなら最早アルタスには何も後ろめたい事はなく、先程までの緊張していた自分がバカバカしくなり呆れた顔が表に出てしまっているが、それでもエスコォールはどこか確信めいた表情でマントの下から何かを取り出し、アルタスへと突きつける。


 「ふん……この人形を見てまだ言い逃れが出来るか!?コレ人毛だろ!?この赤茶色の毛こそドワーフが居る動かぬ証拠だ!!」



 「……なっ…!」

 ーーー…何その人形〜…!!怖い、怖い、怖い!!

 エスコォールが突き出して来た布製の人形は、恐らく使ってある毛色からバタピーの物だと推測出来る。

 

 元は可愛らしくデフォルメされたバタピー自身をモデルにしたであろうその人形は毛の部分だけ本物を使っている。

 ……そのミスマッチ感だけでも充分不気味な物であったはずだが今では所々カビが生えて、見ているだけで呪われそうな物凄いビジュアルをしている………


 「…ふふん、焦っているね!さぁさっさとドワーフを出すんだ!」

 

 「はぁ…………」

 「分かりました……そんなにお疑いなら恐らくそれを作った張本人に会いに行く所だったんで案内しますよ…」


 人形の見た目に言葉を失っていたアルタスは、未だじっとりと疑いの目を向けるエスコォールにため息をつき、渋々バタピー宅へと引き連れて行った…ーーー



 ーーーーーー



 「ーーー…ああ、確かに魔族だね。ゴメン……」


 バタピー宅の前でエスコォールはスンとした顔で謝りながらバタピーの折れ曲がった右のツノを指でいじっている。


 「…それで?バターちゃん?だっけ?…は一応アル君家のメイドなんだよね、なんで今まで姿を現さなかったんだい?」


 ーーー…突然現れたやや威圧的なエルフに状況を飲み込めず汗をダラダラ流しているバタピーにアルタスが目配せをすると、共に秘密を有するバタピーは事情を察し、ウィンクの出来損ないのクシャクシャ顔で答えてくれる。


「ええと……ご主人様は私のぉ……セクシーでキュートな見た目にメロメロなのでぇ…他人に私の姿を見せたく無いと家に閉じ込めてたんですよぉ……えへっ」


「ーーー…ふーん…アル君はバターちゃんみたいなのがタイプなんだね…」


 ーーー…ちくしょう!バタピーこの野郎!!

 まるで自分が変態貴族のような最悪な言い訳を全力で否定したいが、ドワーフの疑いは晴れてもまだ魔法触媒の事があり、国のお偉いさんにバレてしまった日にはどんな事態になるか想像出来ない。


 アルタスはグッと言葉を飲むのだが納得しない様子のエスコォールは未だアルタスへの追求をやめない……


 「ドワーフの件は確かにボクが悪かった。それにしても女の子の趣味を隠すにしては少し反応が過剰だよね?それにバターちゃんの服、館の部屋と同じでたくさん木屑が付いてる。本当に隠したい事は別にあるんだろ?」


 「……そっ、それは……」


 「アル君、ボクは怒ってる訳じゃない。キミ達の家族のような仲良しの輪に入りたいんだ。それなのにボクだけのけ者にされている事が悲しいんだよ……」


 ーーー…エスコォールの寂しそうな顔に胸が痛む。

 アルタスも出来る事なら隠し事などしたくはない。

 エスコォールはドワーフは頑なに嫌いだが、魔法に対しては柔軟な考えで、もしかしたら魔法触媒も許してもらえるかもしれない。

 そうなればアルタスも魔法触媒の開発もしやすくなる。 

 ーーー…ここはイチかバチかエス先生を信じて話してみよう……!


 「……分かりました、真実を話します。バタピー…作業場へ案内して…」

 アルタスは意を決してカチコチに緊張しているバタピー案内の元作業場の扉を開ける。



 「これ…って『歯車』かい?アル君が自分で考えて…ーー…?いや…なんでコレがここに……!」

 

 ーーー…『歯車』この魔法触媒の正式名称をはじめて聞いたアルタス同様、バタピー作の木製の歯車に驚いた表情を見せるエスコォールだったが、床に置いてあった本物の魔法触媒を見て、さらに驚いた様子を見せる。


 アルタスはこれまでの経緯を話し、使っていた歯車での魔法を実演する…ーーー

 

 「なるほど…ガリア君が戦場から…歯車をそんな風に使うなんて人間には出来ない面白い技だね。…だけどこれが魔族の間でどういう扱いを受けているかキミは知っているのかい?」


「ええ…勿論…ただ僕はそんな魔族の為にもこの『歯車』で何か役立つ物を作りたいんです!」


 ここがアルタスにとって魔法触媒の開発が続けられるかの分水嶺。

 素直な気持ちと熱意で話しつつ、何とかエスコォールに認めて貰わなくては…


 「ボクはこれでエス先生がビックリする魔法を必ず開発してみせます!どうですか?興味ありませんか?」

 

 「…うーん…でもこれを認めてしまったらなぁ…」


 「ーーー…エス先生!お願いっ!」


 アルタスはエスコォールの目をジッと見つめる。

 ……大概の大人はこの目に弱い。

 その事はアルタス自身も分かっていて若干ズルいとは思うが今はなりふりを構っている時ではない。

 

 「…ーー〜〜…っ!…分かった!分かったよ!」


 「……ボクをたぶらかそうとするなんて存外キミも悪い子だね。いいさ、魔法の探求とあらばボクは止めることはしないよ!ただちょっと思い描いた物とは違うの点は不満だけどね……」


 エスコォールも例外なくアルタスの瞳にやられ、渋々ながらも歯車の研究を了承する。

 結果を掴んだアルタスは喜びの余り共同開発者のバタピーに飛びつき歓喜の声をあげる。


 「やったよ、やったよ!バタピー!これからも作れるって…ーー…バタピー??」


 「……このコ、白目向いてるけど大丈夫?」


 ーーー…作業場に来たあたりから妙に静かだったバタピーはどうやら自分の身の危険を想像をして限界に達し気絶したようだったが、アルタスに揺さぶられ意識を取り戻す。


 「ふぁ……ココはどこぉ?……私は……誰ぇ……?」


「お目覚めかい?…バターちゃんボクはキミとアル君を断罪する事に決めたよ…ーー…あっはは!なーんて冗談だよ!これからよろしくね………ってあれ?」


 ーーー…エスコォールの悪い冗談に再び白目を向いたバタピーがバターンと床に倒れる……



 「バターちゃん!ごめんよぉ!ボクが悪かった!だから起きて!」



 ……その後すっかりエスコォールに怯えてしまったバタピーだったが、何とか仲を取りもち、翌日からアルタスは開発を再開し、バタピーは職場復帰を果たしたのであった。


 


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