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第二章:5 水魔法の味?


 「アル君、魔力の操作を丁寧に!おっ、ガリア君、中々いい切り込みだね、でも甘いよ!」



 館の庭に剣の快音が響き渡る。

 ガリアの指導も引き受けたエスコォールは、アルタスには魔力操作の練習、ガリアには剣をと、二人同時に稽古をつけている。


 「ーーー…僕、剣じゃ一生あの領域には行けないな…」

 既にアルタスの目に追えない身体強化を使ったガリアの猛攻をエスコォールは一歩も動く事なく素の状態で楽々受けている。

 魔法だけかと思っていたが剣も一流、世界トップクラスの実力者の底知れなさに改めて驚かされる…ーーー



 「……アル君、指一本一本を意識して丁寧に!」

 無属性魔法で紐を編んでいたアルタスは子供扱いされるガリアの姿に集中力を乱し、横目で見ていたエスコォールからの容赦ない檄が飛ぶ。

 出会った初日に宣言された通り、授業中のエスコォールは厳しいが…ーー…嫌ではない。


 むしろ嬉しい。


 「へへ…頑張らなきゃ」

 同じ失敗でも今までの独学での暗闇を手探りするような次に繋がっているかわからない不安感はない。

 明確に道を照らされ自分のダメなところはすぐに直してもらえる。

 他事に囚われることなく集中して魔法を使える環境はありがたく、捗る気がするのだが……


 「くぅ、上手く結べない……!」

 ーーー…やはり難しい物は難しい…

 発想を豊かにする為に基本的に自主性を重んじるエスコォールの教育方針により、大まかな修練内容はアルタス自身で考える。

 そんな中、精密な魔法の操作と聞いて真っ先に浮かんだのは街で見た布織の職人たちで、あの糸と糸を緻密に織っていく感動的な技を再現しようにもどうもうまくいかない……


 「うーん、バタピーなら何かコツでも知ってるかな……?」

 布の扱いに長け、エスコォールが来てからは念の為自宅作業をしてもらっているバタピーにお給金を渡すついでに会いに行くことを計画しながら紐を編んでいると、頭からヒラヒラと光の玉が手元へと降りてくる。


 「あっ!アーティ駄目だよ!糸ぐちゃぐちゃにしちゃ!」

 どうやら我が頭を住居としている妖精が退屈にでもなったのか、折角アルタスが三つ編みにしていた紐をグチャグチャに解いている。


 「ーーー…♪」


 「こら!逃げるなアーティ!待て〜!」

 ーーー…はたから見れば怒られて嬉しそうに笑い、光る虫のようなものに話しかけ追いかけっこしているヤバい少年の絵面が完成した所で、どうやらエスコォールとガリアの方も決着が着いたようだ……


 「ーーー…ダァ〜!なんスかこのセンセは!片手、片足、片手間なのにバカつえぇッス!」


 「…ハッハー!伊達に緑将なんて名乗ってないってことさ。ボクは剣も魔法も、容姿さえも全てがパァーフェクト!…だからしょうがないさ!」


 微塵の謙遜も嫌味もなく、ありのままの事実を言うエスコォールはまるで彫像のように美しくポーズを取っているが、座り込む汗だくのガリアは口を尖らせている。


 「うう〜…それでも悔しいッス!」

 「……ガリア君、キミかなり筋はいいんだ。今成長期のガリア君ならあと10年もすれば剣の腕はボクを超えるさ!」


 エスコォールが言うように街での入院中ガリアは成長期に入った。

 この二ヶ月で身長も数センチは伸びて、それに伴い元々強かった力もさらに強くなっている。だがそんな成長著しいガリアは手のひらを見つめ何処か不満げだ。


 「……あん時に今くらい力があればクマ公もぶった斬れたのに成長すんのがチョイ遅いっスよ…」


 「…ガリア君、過ぎたことを後悔してもしょうがないさ…向上心のある子は必ず伸びる。焦らずいこうよ。」


  エルフという種族の長い人生の中、色々と経験し後悔もあるのだろう。

 実感のこもった憂いのある表情でエスコォールは無い右腕の代わりに無属性魔法でガリアの頭を優しく撫でる……



 「ーーー…おや?先生たちも休憩ですか?」

 そんな二人の会話に追いかけっこに飽きたアルタスとアーティが、ガリアを撫で回しふにゃふにゃにしているエスコォールを覗き込む。


 「そうさ、可愛いガリア君に癒されている所さ!…アル君の方はどうだい?紐を編んでみて何か思いつきそうかい?」


 ーーー…エスコォールがこの地にいる間にアルタスに出した課題はたった一つ『エスコォールが驚くような魔法』を作ること。

 しかしアルタスの知らない魔法知識豊富なエス先生を驚かせるようなものなどそうそう思いつくはずもない……


 「…うーん……それが全く…スミマセン…」


 「あっはは!こんなに早く達成してしまったらボクは逆に嫉妬してしまうよ?……まぁ一つアドバイスするなら案外ヒントってのは足元に落ちているってことだね、そうだな例えば…ーーー…アル君は水魔法の『味』って知ってる?」


 「……水魔法の味……?」

 確かに今まで毎日使っていたにも関わらず、そんな物は気にした事はなかったが、一度気になると試してみたくなる。

 なるほど足元に落ちているとはまさにこの事だ。

 アルタスは手元に水球を作り一口飲んでみる…ーーー

 

 「!!」


 「ーーー……うっえ………っ!!」

 ーーー…口に含んだ瞬間、苦い、臭い、マズい!の三拍子が襲い、それになんだか口の中がジャリジャリする…?

 想像していた水の味と違い、例えるならインクに近いのだろうか?…とにかく絶対に飲みこんでは行けない味がし、思わず反射的に吐き出してしまう。


 「あっはは!マッズいだろ?じゃあ今度はこれを飲んでみてごらん?」


 エスコォールが掌を下に向け水球を出す。

 先ほどの味を思い出しつつ恐る恐る飲んでみるのだが…ーー…甘い!喉越しも爽やか!ほんのり桃のような香りがしてとても美味しい…!

 ーーー…あまりの美味しさに飲む口が止まらずゴクゴク飲んでいると、何やらエスコォールがうっとりとアルタスを見ている。


 「……なんだかボクの体から出た物を美味しそうに飲む姿を見ていると、赤ちゃんにミルクをあげてる気分になってキュンキュンしちゃうなぁ…これが母性ってヤツ?」


 「ーーー…ブーーッ!!」

 ……確かにエスコォールの年齢から考えればアルタスなど赤子も同然だろう。

 ただ体から出たという表現はなんだか嫌だ。

 もうちょっと言い方というものを考えて欲しい……


 「あっはは、まぁ、ミルクと違ってあんまり飲みすぎるのはおすすめしないよ?あくまで魔力と魔素を変化させたものだからね、体によくない。」


 「ちょっと!なんて物飲ませるんですか!僕ついこの間、魔素血中()()()()()!……コホン、病気治ったばっかりなんですから……!」


 『魔素血中結晶化症』

 アルタスがかかっていた病気だ。

 名前を噛んで顔を赤らめる血色のいいアルタスの顔を見れば完治したのは分かるが、あの黒く浮き出た気持ちの悪い血管と、血中の魔素を溶かし体外へ排出させる苦い薬の味は二度と味わいたくない……

 


 「ーーー…アル君、魔法を極めたいなら時には自分の身くらいは犠牲にしなきゃいけない時がある!この水魔法の味変も砂漠を彷徨って死にかけた時に編み出した物だからね!」


 「さぁ!アル君はこれからどんな狂気を持ってボクを楽しませてくれるか非常に楽しみだよ、あはははは!」


 魔法狂いのエスコォールが鼻息荒く狂気じみた笑みでアルタスを見据えるが…ーー…正直めっちゃ怖い…!

 果たして自分はこの狂気の魔法士を驚かせる魔法を作れるのか急に不安になってくる……


 「はっ!熱くなりすぎたね、すまない…こんな道進んでも待っているのは恐らく破滅のみだね……はは、ボクなんて正にそうさ。是非、反面教師にしてくれたまえ…」


 ーーー…冷静になったエスコォールは無い右腕の付け根をさすりながら自虐的に呟くのだが……

 

 「……先生…ーー…申し訳ないんですが話に落差がありすぎて正直頭に入って来ません……」


 「……そう?……うーんいい事言おうと思ったんだけど中々教育っていうのは難しいね。あっはっは!とりあえず魔法はイメージで色々変えられるってことだけ覚えておいて!」



 ーーー…水魔法の味から母性の話になり、狂気の話に変わり正直アルタスには何が何だか分からなくなってしまった。

 ただ、魔法に人生を賭けた者の業の深さと深淵?の一旦は知れた気がした。そんな授業だった……





・忙しい方向け今回のポイント


・エスコォールは剣も一流。

・ガリアは成長期。

・魔法は同じ物でも色々変えられる。

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