第二章:4 魔法はイメージ
「ーーー…あれ…?」
数メートル先でバシャッと音を立てて、顔大の大きさの水の球が地面に落ち、弾ける。
『無詠唱攻撃魔法』を習得するためアルタスが放った魔法は、それこそ回数で言えば比喩抜きで親の顔より見た、もうおなじみの水球だった……
「今のが…コーゲキマホーっスか…?」
ーーー…アルタスがいよいよしっかりとした魔法を発動するとあって固唾を飲んでいたガリアはいつもと変わらない魔法に困惑の表情を浮かべる。
「あはははははっ!今のは失敗、生活魔法さ!どうやらアル君はスッカリ体に染みついてしまうほど沢山練習したんだね、偉いよ。」
「ーーー…はぁ、僕このパターンもう見飽きたんですけど…」
エスコォールは何かにつけて褒めてくれるが、アルタスとしてはワクワクしてから結果が得られないこのパターンにはもううんざりだ。
「アル君一回の失敗がなんだ!ボクを信じてよ、成功した時きっとビックリするから」
「いいかい?属性に変化する前から手の平に魔素を吸い込むイメージだ。魔法はイメージ、きっと出来ると信じるんだ!」
「きっとできると言うイメージ……」
ーーー…魔法はイメージ…
独学で魔法書から学んでいた頃から散々意識して来たその言葉…今までエスコォールの言う『生活魔法』ばかり練習したためなのか、すっかり心の中で魔法とは小ぢんまりとした物という枷を自分に嵌めていたのかもしれない。
……ならば今、イメージしなくてはならないのは……
「ーーー…あの時の……魔法…!」
イヴァナを葬り、辺り一面を吹き飛ばしたあの時の魔法。
極限状態の中、感覚が麻痺して自分と世界の境界が曖昧になり溶け合うような脱力感、その先で見た何か……なにか………
ーーー…完全に集中状態に入ったアルタスの身体からフッと余計な力が抜け、周りはクリアになり音も光も自分も消えていく。
…見えるのは己の体を流れる魔力と周りを渦巻く魔素のみ……
スッと腕を前に魔力を集める。
「来るよ!」
滲み出た自分の魔力と魔素を繋げ、手の平で呼吸するよう吸収するイメージ……
爆発的に膨らんでいくまだ属性に染められていない真っさらな魔力を水に染め、水にインクを落とした時のように混ざり合わせるイメージ………!
ーーー…逆らえない大きな渦に全て飲み込まれるような…………イメージ!!
「なっ……!なんだこりゃ……っ!?」
「ヤヤヤ、ヤバいッスよ!!」
「…え…?…ーーー〜…っ!!」
傍で見ていたガリアやエディの騒ぐ喧しい声にふと我に返ったアルタスは驚愕する。
視界の端から端まで埋め尽くす……水!!
館を飲み込んでしまいそうなほど大きな水球……いや、もはや巨大な水の塊が辺り一面覆い尽くしている。
「…うわっ!」
「アル君!今、集中解いちゃダメだっ!」
「…ーー〜〜…!!」
驚きに集中が途切れ、魔法と自分が繋がっている感覚も途切れる。
自分の制御を離れ、まるで鎖を解かれた猛犬のように暴れ回る魔法がアルタスの意思に反しどんどん膨れ上がっていく…ーー…暴発だ…!!
「ヤバいっス!こんなの暴発したら…ーーー」
慌てふためくガリアにアルタスもパニックになり、さらに制御を失いギュンギュン吸い上げられる魔力にもう限界!と、思ったその時…ーーー
「ーーー…やれやれ、ここに誰が居るのか忘れたかい…?」
輝く風に乗るエスコォールがダプンダプン音を立て今にも爆発しそうな水塊の前に悠然と立ち向かう。
「ガリア君、エディ君それとアーティ!吹き飛ばされないようしっかりアル君を守ってくれ!」
「舞え!『光輝なる風』!」
ーーー…エスコォールが自身が纏う風を体ごと捻り勢いよく放つと、矢のような輝く風が円を描きながら吹き荒れる竜巻に変っていき、とんでもない質量の水を持ち上げ空に散らしていく。
「…くうぅうっ…ーーーっ!!」
『光輝なる風』なんて優雅な名前とは程遠い強烈な突風にアルタスはガリアとエディに支えられながら、エスコォールが水を散らすまで何とか爆発させないよう腕を前に突き出し魔法を維持させる……
「はぁ…はぁ………終わった……?」
ーーー…時間にして二、三分経ったろうか…?
空高く巻き上げられた水はやがて少量の雨に変わり、スッカリこの辺りの魔素を使い果たした澄み切った空気の中で太陽に反射してキラキラと輝いている。
……そしてそんな澄み切った空のように晴れやかな笑顔で降り立ったエスコォールは言い放つのだった…
「ーーー…アル君、しばらく攻撃魔法禁止〜…」
ーーーーーー
「ねっ、ヤバかったでしょ?あはは!」
「…あんな心臓に悪いモン禁止が妥当です、あー、スープスープ……」
ーーー…一通り落ち着いた後、あんな出来事があったにも関わらず変わらぬ笑顔のエスコォール。
訳も分からぬまま呼び出され、そのまま魔法大合戦を見させられたエディは捨て台詞を吐いたあと胸を押さえて厨房に戻っていく…
「ーーー…でも禁止って…沢山使って早く慣れた方がいいんじゃないですか?」
「…毎回あんな規模の魔法使ってたらこの地の豊かな魔素が勿体無いし、それにほら、この攻撃魔法ってつまらないだろ?」
「…?…つまらない…ですか?」
『無詠唱攻撃魔法』はつまらない…
ーーー…エスコォールの話を要約すると、この攻撃魔法が発明された当初、誰でも使えるようにと各属性一種類ずつ、基礎の魔法で広めたそうだ。
手軽で高威力が出せるこの革命的な攻撃魔法は戦場で爆発的に広まりあっという間に魔族のスタンダードとなった。
……しかしその手軽さの弊害か、兵士たちはいつしか最初に広めた基礎の魔法しか使わなくなり、時が経つにつれ、それまであったユニークな魔法たちは忘れ去られて歴史に消えてしまったそうだ…ーーー
「ーーー…今は単純に個人の能力で威力の大小を決めているだけのなんの工夫もない魔法だよ……昔は、それぞれのイメージでいろんな魔法があって楽しかったんだよ?」
「確かに…それはつまらないかもしれないですね」
ーーー…アルタスは水球をよく使っているがそれはあくまで安全に配慮して使っているだけだ。
今まで歯車やいわゆる『消えてしまった魔法』が載っているであろう魔法書で変わった魔法を学んできたアルタスもまた一生水球のようなシンプルな魔法を使い続けるのはつまらないと考える。
「そうだろう?それにこの攻撃魔法は極めても行き着く先は『戦略級魔法士』…ーー…つまりは戦況を一発で変えられる規模の魔法で沢山人を殺せる魔法士さ、そういうのはアル君の理想とは違うんじゃないか?」
ーーー…戦場において出来ることをやりたくないと言うのは通らないだろう。
自分が将来その『戦略級魔法士』に選ばれれば全力でやる覚悟はあるが、やりたいかやりたくないかで言えばそんな役割はまっぴらだ。
……自分の理想は人々の暮らしを豊かにする事だ……そんな魔法の使い方はしたくない…ーーー
「もちろん攻撃魔法の練習もするさ、ただ才能ある君が優先すべきは魔力操作とイメージ作りさ!まかせて、ボクの授業はきっと楽しいよ!」
「ーーー…エス先生って人をその気にするのが上手ですね…僕、なんだかワクワクして来ました!」
「そうだろう?」と言って高笑いするエスコォールだったが、一連の会話を黙って聞いていたガリアが何やらモジモジしながら会話に加わる。
「ーーー…ねぇセンセ?自分もちゃんと魔法使えるようになりたいッス…ぼっちゃんやセンセみたいにスゴイ魔法じゃなくてもせめて暴発しないくらいにはなりたいッス……ダメスか?」
……先程の二人の魔法を見て、何か自分に足りないものを感じたのだろう。
アルタスは魔法に興味を示すガリアの姿勢は意外だったが、エスコォールは涙を溜め感激している。
「もちろんだよ、ガリア君!大歓迎さ!ボクが必ず一人前の魔法士にしてあげるから任せてくれ!」
「やったぁ!センセ、一生ついてくッス!!」
「ーーー…あっはは!これから二人にはイメージ作りのために色々な物を見て色々な経験をしてもらうよ!お楽しみに!……それじゃまず最初はお腹が減ったからエディ君の美味しいご飯の味を経験しに行こう!あっはっはー!」
こうしてガリアを新たに弟子に迎え上機嫌なエス先生の最初の授業は幕を下ろしたのだった……
・忙しい方向け今回のポイント
・アルタスはスゴイ魔法を出した。
・アルタスは攻撃魔法禁止令が出された。
・エスコォールいわく攻撃魔法は単純でつまらない。
・ガリアも魔法を学ぶことになった。




