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第二章:2 エルフと妖精


 「ーーー…緑将!?そんな方が何故……?」



 突如、魔法の先生としてやって来たエルフの女性、エスコォール・ミディアム。

 彼女から受け取った父の手紙を読んだアルタスはその正体に驚愕する。


 ーーー…緑将りょくしょうとは?

 魔王国で貴族のように扱われる主にエルフの事で、自分の領地こそ持っていないものの、戦となれば魔王並の発言力を持つ、優れた知恵と魔法力を持った軍のお偉いさんだ。


 父からの手紙には療養も兼ねてと書いてあり、確かに右の頬から耳にかけて大きな傷跡があるものの、戦時中の今、軍部のお偉いさんが顔の怪我くらいでわざわざこんな田舎まで来るものか…ーー?と、疑問に思ったアルタスが尋ねる。


 「あっはは、少々戦場で派手にやらかしてね、ほら見ての通りさ。」


 「ーーー…!!その体……」

 あっけらかんと笑うエスコォールが自身の右半身をすっぽり覆う長いマントをめくるのだが……

 無い…ーー…本来あるはずの右腕と右足が肘と膝あたりからまるっと無い。

 本人は愉快そうに話すがとても笑いながら話せるような怪我ではないはずなのだが…ーーー


 「それで…あのエスコォール様……?」


 「やだなぁアル君、これから一緒に暮らすのに『様』だなんて他人行儀は、ボクのことは可愛らしく愛を込めて『エス先生』って呼んでくれたまえ」


 「………わかりましたエスコォ…エス先生!それにしても僕はエルフの方ってもっと気難しいと思っていたんですがそうでもないんですね?」


 「……いや、気難しいよ?ホラ、ボクだってそうだろ?ただボクは年若いエルフだから多少考え方が柔軟ってだけでね。」


 ……生活に支障が出そうな大怪我をあっはっは、と済ます人物のどこが気難いのだろう?と、アルタスが苦笑いしていると、隣で話を聞いていたガリアがヒソヒソと耳打ちをしてくる。


 「…長生きのエルフがわざわざ『若い』とか言って来た時はめちゃくちゃ歳行ってる証ッス。きっとこのセンセ、ホントはとんでもないババァッスよ…」


 「…ガリアくん何か…ーー?」

 「ピャイ!」

 ガリアの軽口にエス先生からのとんでもない圧がかかり思わず背筋が伸びる…ーー…顔は笑っているが目が全然笑ってない!怖い、怖い、怖い!

 ……どうやらエス先生には年齢の話題は禁句なようだ…


 「あははっ!まぁ冗談はさておき、長旅の疲れで体を休めたい。そろそろボクの家にもなる館へ案内しておくれよ?」

 「ーーー…あっ……!」


 パッと笑顔に戻るエスコォールの言葉に、すっかり忘れていたカビの楽園と化した館の現状を思い出す。

 本人はあまり気にしそうにないが、流石に国のお偉いさんをあのままの館へ連れて行くのはマズいと考え、アルタスは急ぎ村人達へ助けを求める事にする。


 「みんな聞いてくれ!昨日館に帰ったらカビがひどい状態で、報酬は払うから誰か掃除を手伝ってくれないか?」


 「ーーー…はいっ!俺、早とちりでエスコォール様に無礼働いちゃったから報酬無しで罪滅ぼしに掃除させて下さい!」


 「私も私も、カビ掃除ならまかせて!」

 「俺は昨日みたいにエディさんの作るメシでいいぜぇ!」


 ーーー…などとエスコォールの千切れた耳を見て人間と勘違いしていたハビエルを中心に村の有志達が続々と集まり、気付けばその場にいた村人全員が手を挙げている。

  その様子を見ていたエスコォールは領民から愛されるアルタスの姿に満足気に笑い器用に片脚で立ち上がると、馬車のステップから「とうっ!」と、勢いよくジャンプする。


 「あ、危ないっ…ーーー!!」

 エスコォールの身を案じ思わず叫ぶが、地面に着地する瞬間、土魔法がその場から生え、片足の代わりをするように見事にその上に着地する。


 「あっはっは、さっきボクの体の事気にしてただろ?この通り何の問題もないさ!それじゃ、みんなで館へレッツゴー!」


 美しい顔でウィンクしたあと、村人を先導しながらエスコォールはスタスタと歩き出す。

 …確かに生活に支障は無いようだ。

 だが歩き出したその姿には別の意味で驚いた。

 エスコォールが足を前に出すたびに足元から土魔法が出たり消えたりしながらまるで普通に足があるかのように歩いているからだ…ーーー


 「ーーー…ものすごい魔力操作だ…」

 0コンマ何秒かでの繰り返し行われる魔法の操作に圧巻され、こんなスゴイ人物に魔法を教えてもらえることに喜びに打ち震えていると、エスコォールはニカっと笑い、無い右腕側から無属性魔法を出してアルタスの頭を撫でる。


 「この凄さに一発で気付けるなんていい観察眼を持っているね?お察しの通り僕は超天才なんだよ、見ててよーー…ほらっほらっほらっ!」


 ーーー…謙遜もなく自分を『超天才』と言い切るエスコォールは左手を掲げるとパッパと火魔法、水魔法、雷魔法と、次々に魔法を切り替えていく。

 あまりの切り替えの早さに同時に何属性も使っているように見える魔力操作に圧倒されるが、ここでアルタスはある違和感に気付く…


 「ーーー…今、先生って足の土魔法を含めて魔法を同時に二属性使ってますよね…?これってエルフの種族特性か何かですか?」


 本来、今エスコォールが行っているであろう手と足から同時に魔力を出す事だってかなりの技術がいるはずだ。

 まして二属性同時の魔法発動なんて聞いたこともなく、もはや人類の領域ではない…ーー…普通だったら頭の処理が追いつかず発動しないかよくて暴発するくらいなはずだ……


 「種明かしする前に気付くなんて優秀だね。君の話をする時シーザー君がデレデレになる訳だ。」


 ーーー…父さまがデレデレ?

 デレデレどころか厳格で笑顔すら見たことすらない父のそんな姿は想像もつかないが、自分を誇りに思ってくれているならとても嬉しい。

 それにしても種明かしと言うことは何かこの同時発動には何かタネがあるのだろうか…?


 「これはエルフの特性でもなんでもないさ!ボクは妖精と繋がってるから魔力の変換を肩代わりしてもらって魔法を同時発動してるだけさ!あはははは!」

 

 「妖精ぃ?そんな話信じるほど僕は子供じゃありませ…ーー…痛っ…!」


 ーーー…自分を子供だと思っておとぎ話の妖精なんて子供騙しな事を言っている…

 アルタスが可愛げなく冷めた表情をしていると、何かが髪を引っ張り、上を見ると先程からエスコォールの周りをウロウロしていた光の玉が頭の上に乗っている。


 「あはは、ほらアーティが『ここにいるわよー!』って怒ってる。」


 「ーーー…アーティ……妖精ってこの光る玉ですか?妖精って羽が生えた小ちゃい人ってイメージですけど……いたっ!いたた!毛をむしるのやめて!」


 「あっはっは!妖精本人と『繋がってる』者以外にはその姿も声も聞こえないけど確かにここにいるよ?」


「…いいかい、アル君?この世には妖精もドラゴンも本当にいるんだ。世界っての実に包容力に満ちていてボクたちが思い描く物くらいなら全部ある。幻想なんてものは無いんだ。」


 …思い描くものは全部ある…

その一言にアルタスは何かを考え込んだあと、エスコォールに質問する。


「ーーー…幻想なんて無い…ですか?それなら世界平和もいつか実現できますかね?」


「ーーー…へぇ…」

「…なんだかボク、一気にアル君のこと好きになっちゃたなぁ…うん、きっと出来るさ…」


 エスコォールはその一言に、この歳で世界平和など幻想レベルの難事だと現実を知る賢さと、それでも平和を望む優しさと、決して悲観することなく達成するという強い意志の詰まったアルタスの心の性質が見えた気がして思わず目を細める。


 「はは、珍しい、アーティも君の事が気に入ったみたいだ……アル君からは不思議な気配がするって…何か心当たりあるかい?」


 「ーーー…不思議…?何かあったっけ…?」

 不思議な出来事はあった…ーー…はずだが、アルタスはあの日以来何故かあの夢の世界のことを思い出さない。

 心に何か引っ掛かりは感じるものの、まるであの夢の中のようにモヤ掛かって心の隅に追いやられてしまっている………


 「………キミみたいなエルフ以外で妖精に好かれる特殊な子にはこれまで何人か会ったことあるけど皆そんな反応をするね……まっ、いいか!アーティとの繋がりが出来たのなら暫くしたら姿も声も聞こえるようになるさ!鳥の巣みたいで気持ちがいいから君の頭を寝床にするってさ!」

 

「鳥の巣か…はは、でも嬉しいよ!よろしくねアーティ!」


 アルタスの癖っ毛のなかで寛ぐような光の玉…ーー…妖精アーティに挨拶すると頭の上をピョンピョンと嬉しそうに小さな足が跳ねる感触がする。

 ーーー…中々元気な妖精のようだ、早く姿を見て話してみたい。


「おっ、館が見えて来たね!よーし、世界平和なんて大それた夢を持つアル君にはこれからビシバシ厳しく教えるから覚悟するんだよ!」

 「ーーー…はい!」


 こうして新たにエルフのエスコォールと妖精アーティを館に迎え、アルタスはまた広がっていく自分の世界に心躍らせつつまた日常を始めるのであった。





・忙しい方向け今回のポイント


・エスコォールは魔王軍のお偉いさん。

・エスコォールは戦場でやられて右手、右足がない。

・エスコォールの愛称はエス先生。

・アルタスは妖精との繋がりを手に入れた。

・妖精の名前はアーティ、姿はまだ見えない。

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