第一章:27 「貸しだよ」
ーー…あー…血が止まんねー…
昔、傭兵団にいた頃アイツが言ってたな。
大怪我したら身体強化は使うなって……
確かに血が噴き出て止まんねーわ……
ーー…ちくしょう…目の前が白くなってく…
あー、アタシもこれで最後かぁ……
もっとぼっちゃんと色んなことしたかったなぁ…
…………?
はは、何だこれ?
これがソーマートーってやつか?
アレは…人間……?
はは、目や鼻から血流してヒッデェや…
最後に見るのが戦場の人間の姿なんてロクでもねぇな…ーー
「………ーー」
ちがう。
ちがう!ちがう!
ーー…あれはぼっちゃんだ!
目や鼻から血を流しながらクマ公と戦ってる愛しいぼっちゃんだ
あはは、結局来ちゃったか…
アタシ信用ないんだな……
「…ーー!?」
はは、何だあの魔法、スッゲェ…
こりゃもうぼっちゃんにはアタシ必要ないかな…?
………?
オイ
オイオイオイ!
オイ、クマ公!そりゃ無しだろ!
お前ちゃんと死んどけよ!
クビ吹っ飛んでるだろ!!
お前にぼっちゃんは…殺せねぇ!!!
「ーー…っちゃんに…」
「…アタシの…ぼっ…ちゃんに……」
「ーーー…ア…タシの家族にっ!!」
「手ぇ出すなぁああ…ーーー!!!!!」
ーーー…ガリアは最後の力を振り絞り剣を握ると、流れ出る血もお構いなしにアルタスに襲い掛かるイヴァナの左腕に向けて力の限り剣を振り下ろす。
「…ーーーー……」
ーーー…左腕を切り落とされたイヴァナの体はそれを最後に崩れ落ち二度と動くことはなかった…
「…ハァ、ハァ…」
「ぼっちゃん最後まで気ぃ抜いちゃ駄目ッスよ…」
「ーー…フッ…やっぱりぼっちゃんにはまだ自分がついてないといけないっスね……」
「……ーー」
「フゥゥ……」
「ーー…それにしても…今日は寒いッスね…」
「…ぼっちゃんが…風邪引いちゃうッス…ーー」
横たわり、春先の冷たい雨に濡れた意識のないアルタスにガリアは雨が掛からぬよう覆い被さり、慈しむよう抱きしめる…ーーー
「ねぇ…ぼっちゃん…?」
「…ぼっちゃんと出会ってから…もう一年以上経つっスね……」
「…自分…家族とか居たことなかった…から……弟が居たらこんな感じ…なのかなって…勝手に思ってたんスけど……」
「…ぼっちゃんも自分のこと家族って思っててくれて……本当に嬉しかった……幸せだった……」
「ふふ……エディは…口うるさいお父ちゃんで………バタピーは……手のかかる妹…かな………?ーーー……毎日……楽しかったぁ………」
「ーーー……」
「………」
「…うぶ…今日は……本当に寒いっ……スね…ーー」
「でも…大丈…夫…ガリアが最後まで守るッス……」
「ガリア……が……」
「最…ーー…で…ーー」
「…ーーーーーー」
「……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ーーー」
ーーー…ここは…どこだ?
意識を取り戻したアルタスは視界の端が白くぼやける謎の空間に居た。
「…ーーーーー……」
「…ーー…ーー…?」
ーーー…これは夢?
見たこともない様式の家具やよくわからない物が並んだ部屋、テーブルを挟んだ男女が何か会話しているのを俯瞰で見ている。
「…ーー〜〜ーー…!」
ーーー…あれは人間……?
ツノもなく耳も丸い男女二人、声は水の中にいる様にくぐもっており先程から何を喋っているのかは分からないが、仲睦まじい様子から恋人、あるいは夫婦と見て取れる。
「…ーーーー……」
「…ーー……ーーーー…」
ーーー……………
普段のアルタスだったのならこんな未知の状況に心躍り、この光景に映る全てを忘れぬようつぶさに観察するはずだが、何故か一切の興味が持てず、ただただ何を喋っているか分からない二人の会話を眺める…ーー
ーーー…そんな瞬間だった。
「ーーー…これは貸しだよ…ーー?」
「ーーー…!!」
恐らく女性の声だ。
突然聞こえたその一言は、親しい者へ掛ける様なあくまで気軽で明るい声色やトーンであったが、全身の毛が逆立つような不気味さ、嫌悪感、とにかくここから逃げ出したくなる感覚に包まれ、今までまどろんでいたアルタスの意識は急激に回復していく…ーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーー……」
「ーーー…っはぁ!!」
目覚めると見知らぬ天井が広がっている…
しかし先程のような意識がぼんやりするような感覚はない。内装も普段見慣れた様式でどうやら夢から醒めた事は分かる。
ーーー…アルタスはどこかの治療院に運ばれたようだ。
「さっきの夢は一体…ーーー?」
夢の中での女性の言葉…ーーー
最後に見た光景で女性はこちらを向いておらず、あくまで男性との会話の一部を切り取っただけの様な印象を受けた。
しかしそれまで聞き取れなかった声がその一言だけハッキリと聞こえたのは明確に何者かがアルタスに意思を伝えた証に思える。
夢と割り切るには少々インパクトが強すぎる出来事にアルタスは痛みの残る体で起き上がり、考えを巡らせる。
「貸しって一体……」
貸しと言われても今回の一件は思い当たる節が多すぎる。最後のとんでもない魔法?それとも自分の命?
それとも…ーーー
アルタスがふと視線を外すと両側のベッドにガリアとエディが寝かされている。
その寝顔は二人ともとても穏やかな表情で……
「ーーー…ガリア…?」
時折寝息の聞こえるエディとは違い、ガリアが静か過ぎる。
普段のガリアならもっと寝相も悪くイビキだってかいているはずだ……
「…ねぇ、ガリア…!」
「ねぇ!起きてってっば……!」
そんなまさか…貸しだと言うなら一番にガリアの命を助けてもらわなくては困る。
ガリアの命が助かると言うのならいくらでも借りは返してやる…ーー…だがもしそうでないと言うのならば……
アルタスは痛む体で身を乗り出してガリアに触れようと手を伸ばす。
「…お願いだよ…ガリア…」
「……」
「ーー…フゴッ!」
「うわっ!」
急に寝息を立てたガリアにアルタスは驚き、バランスを崩してベッドの下へ落ちてしまう。
「なんだよ…熟睡してただけか…よかった…ーーっ!!!?」
ベッドの下落ちたアルタスはガリアが生きている事に心から安堵した。
…しかし次の瞬間、見てしまった…ここが医療の現場だと言うなら居てはいけないはずの不浄の生物…
イヴァナより恐ろしいアルタスの天敵…ーーーネズミが…
「ギャアッ!!!」
もはや、先程の不思議な夢の事など忘れアルタスは取り乱し、眠っているガリアに飛びついた。
「ーー…イデデデデデ!!ぼっちゃんいきなり何するんスか!自分大怪我してるんスよ!!」
「ガ、ガ、ガリアここ、ここは危険だ!!こんなネズミの出る不潔な治療院とっとと出よう!さぁ今すぐ!!」
「はぁ?ネズミ…?」
怪我をした自分にいきなり抱きついてきて、何事かと思いきや、相変わらずなアルタスにガリアは心底呆れたような顔をし、騒がしさにエディも目を覚ます。
「うるさいな…何事だ…?」
「聞くっス、このぼっちゃんはイヴァナまで倒したってのにまーだネズミごときにビビってるスよ…」
「「…はぁ……」」
ーーー…こうして従者二人の溜め息が響き渡り、またいつもの日常が帰ってくる。
結局アレはただの夢だったのか、それとも何か大きな存在に借りを作ってしまったのかは分からないが、それは今は一旦置いて、アルタスは全員無事でいられる事をただただ喜んだのであった…
・忙しい方向け今回のポイント
・イヴァナ完全撃破。
・アルタス謎の夢を見る。
・アルタスは謎の存在に借りを作った?
・全員無事生還!
*これにて第一章完結です!読んで下さりありがとうございます。
今週は第一章の気になるところをなおしていきますので第二章は来週から書いていきたいと思います!
また第二章もよろしくお願いします!




