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第一章:26 死闘


 「ガリア…一体どこまで…?」


 アルタスは冷たい雨が降りしきる中、僅かに聞こえる剣撃の音と獣の咆哮を頼りにガリアを追いかける。


 ガリアが走り去ってからまだそう時間も経っていないにも関わらず、身体強化を使ったアルタスは未だ姿すら捉えられない。

 改めてこんな短時間にイヴァナの位置を捕捉し戦闘を始められる。そんなガリアの高い能力に勝利を信じたいのだが…ーー


 「クソ、どうして不安が消えないんだ…ーー!」


 自分が行ったところで本当に役に立てるのか?

と、いう葛藤が頭の中を巡っているが、待っている間ずっと付き纏っていたどうしても拭いきれない焦燥感に突き動かされ、今は走る。


 「ーー…あれは…!?」

 村を抜け、森に入ってしばらくすると薙ぎ倒された木々とそこに倒れる村人達の姿が目に飛び込む。


 「みんな大丈夫!?」

 「あ、アルタス様…?」

 

 村人達は皆怪我は負っているものの、かろうじて息はある。

 しかしガリアとイヴァナの姿はなく、心配もそこそこに比較的喋る元気のあったポリンナの夫、ジョージに状況を聞く。


 「今どうなってる!?ガリアは!?」


 「…もう死ぬかもって時にガリアちゃんが助けてくれてそのままイヴァナを引きつけたまま森の奥へ…」


 「ーー…わかった!悪いが僕はガリアの元へ行く!君たちは助けが来るまで必ず生き延びてくれ!」


 「ガリアちゃんは俺たちを庇って肩にケガを!アルタス様、頼みます!」


 幸い行き先は薙ぎ倒された木や刀傷などガリアとの戦いの跡を追えばいい。

 それにしても残骸を見ただけでも凄まじい戦闘であることが伺えるが、未だ森の奥から剣撃と咆哮が聞こえ、ガリアは怪我を負ったらしいが決着は着いていないようだ。


 アルタスは手元の歯車を見る。

 ーー…きっとこれを使えばガリアの片腕替わりくらいなら出来るはずだ。


 ーー…グォオォオオオオ……


 森の奥から一層大きなイヴァナの雄叫びが聞こえると同時に何故か剣のぶつかる高い金属音は聞こえなくなる。

 「ガ…リア…?」


 再びアルタスの心中に不安が過ぎる。

 もう身長が伸びなくなるとかどうでもいい、肉体が千切れようともガリアの元へ!

 アルタスは目一杯の身体強化を使い走る。


 今まで身体強化はあまり使ってこなかったが、どうも自分と相性がいいようだ。

 魔力を巡らせるほどに体は熱くなり、グングンと早くなっていく足に、身体強化は属性魔法と違いかなり高い能力を発揮できていると感じる。


 ーー…もしかして自分は母に似て身体強化が向いているのかもしれない。

 今はそんな体に産んでくれた母に感謝して体を濡らす雨が蒸発するほどの勢いで森を駆け抜ける。


 「頼むから無事で居てくれ…ーー」


 もうどれくらい走ったろうか?

 だんだん嫌な気配が肌にビリビリ来るほどに近づいているのを感じ、森の斜面を登りきった所で大きな黒い影が見える。


 「あれが…イヴァナ…」

 見た目はゆうに三メートルはこえる化け物熊がまるで勝ち誇るかのように雄叫びを上げている。

 

 「ーー…ガリアは!?」

 「!!」


 イヴァナの足元、ガリアは血まみれでぐったり木にもたれかかるように倒れており、生きているのかすら分からない。

 そんなガリアを今まさに捕食せんとよだれをダラダラ流しながらイヴァナは大口を空けてガリアに迫っている。

 ーー…ダメだ!ガリア、ガリア、ガリアッ!!

 その光景を見た瞬間アルタスの中で何かが弾ける。



 「ーーー…ガリアにっ!!」


 「ちかづくなぁああ…ーーー!!!!!」



 身体強化に無属性魔法、そして雷をエンチャントした歯車。アルタスが今できる最大最強の魔法を詰め込み放り投げる。

 

 ミチミチッと筋繊維が千切れる音も気にせず力を込めた一撃は鋭い回転音を鳴らし正確にイヴァナの頭部を目掛け飛んでいく。


 捕食の瞬間というものは生物にとって最も油断すると瞬間の一つだ。

 イヴァナは勝利を味合わんと目の前の獲物を貪らんと大口を開けていたところにアルタスの歯車が下顎を撃つ!


 ーー…ベチャっ!

 ゴキャゴキャっと骨を砕いた音を立て、それでも勢いの収まらないアルタスの全力はイヴァナの下顎を吹き飛ばし地面に落ちた肉片が湿りを帯びた嫌な音を立てる。


「ーー…ゴボボゴボォォ!!」

 下顎を無くし、黒く粘度の高い血の泡をゴボゴボと吹きながらイヴァナが痛みに叫ぶ中、アルタスはイヴァナの下に滑り込み、投げた歯車を回収しながら距離を取り、注意をこちらに向けるため叫ぶ。


 「ーー…イヴァナぁぁあ!!」

 ギョロギョロっと小刻みに揺れる目がこちらを向き、イヴァナは己の顎を吹き飛ばしたアルタスを敵と認知したようだ。


 向き合って改めて思うが、なんと言う醜い獣だろうか?


 ベチャベチャに体液が張り付いた体毛の隙間から見える爛れた肌。

 左をエディにやられて片目だが、ギョロギョロとして視点の定まらない赤い目。

 おまけにガリアとの戦闘において切り落とされたのか右腕は無く、おまけに(はらわた)まで飛び出している。

 ーー…そして今、アルタスが下顎を吹き飛ばした。


 イヴァナはもう満身創痍で放って置いても数時間、あるいは数日後には命は無いであろうが、依然殺意だけは衰えておらず、今ガリアを連れて逃げることは難しい。


 「…もうやめないか?お前だって静かに最後を迎えたほうがいいだろ?だから…お願いだどこかへ消えてくれないか?」


 アルタスはその醜くボロボロの姿をひどくあわれに思い、通じないとは分かっているが停戦を持ちかける。

 イヴァナはそんな要求に当然NOだ!と言わんばかりに血の泡を吹きながら声にならない声でアルタスを威嚇し、猛然と残った左腕でアルタスを引き裂こうと襲いかかってくる。


 「…やっぱりやるしかないよな…わかった!僕がきっちり葬ってやる、かかってこい!!」


 アルタスは覚悟を決め、突っ込んでくるイヴァナをギリギリでかわし、魔力を込めた歯車を近距離でブチ当てるが、余りダメージがないのかすぐに体を翻し再び襲いかかってくる。


 アルタスは自身の生命線である歯車を遠くに放り投げる訳にはいかず、無属性魔法でキャッチ出来る半径5メートル以内で戦わなくてはいけない。

 あまり威力は出せないが、付かず離れずでコツコツとダメージを積み重ねていくしかない。


 イヴァナの一撃は喰らえばアルタスを絶命させるに充分な威力だが、ガリアとの戦いでかなり消耗しているのかイヴァナの動きは精彩さに欠け、身体強化で動体視力も上がっているアルタスなら楽に避けられるものだ。


 避けた左腕の下を潜り抜ければエディが左目を潰してくれたお陰で死角ができ、魔法の発動まで一呼吸置くことが出来る。


 「()()()は負けないぞ…」


 まるでガリアとエディが自分と一緒に戦ってくれている感覚になり、恐怖も、心細さも感じない。

 だが体の方は長時間身体強化をかけ、魔法攻撃を連発しているためとっくに悲鳴をあげている。


 ーー…さっきから頭が痛い。魔力切れ…か…急いで魔素を吸収して魔力に変えなくては……

 アルタスはシュゥゥと腹式呼吸の様なこの世界の人類が使う特殊な呼吸法で魔素を体内へ取り込む。

 すると腹の下あたりに温かい物を感じ魔力が回復するのが分かる。


 しかしこれはあくまで緊急時の一時凌ぎ、繰り返し使えば重篤な副作用が出るが今はそんな事を言っている場合ではない。


 吸って、変えて、放つ…吸って、変えて、放つ…


 「ーーーー…!?」

 何度か繰り返していると突如視界が赤くなり体がフラつき震えが来る。


 ーー…これはいつかガリアが言っていた人間が魔力不足で魔法を使って目や耳から血を垂れ流していたという状態か?

 視界が真っ赤に染まり、アルタスの目からは血が流れ出ている。


 もはや限界を迎えた体が言うことを効かず、アルタスは木の根に(つまず)き体勢を崩す


 「ーー…っしまっ…!!」

 そこにチャンスとばかりに下顎のない口でアルタスを丸呑みにせんと猛然とイヴァナが突っ込んでくる。


 「うわぁぁぁあぁ!!!」


  アルタスは半分パニックになりながらも、歯車に雷魔法をかけ麻痺での足止めを狙い、肉が剥き出しになった顎に向かって歯車を放つが、やはり効きが弱いのか怯みながらも少しずつ前進してくる。


 「こう…なったら……我慢比べ…だっ!」


 もう限界はとっくに過ぎた体に鞭を打ちひたすら魔素を魔力に変え雷魔法を放ち続ける。

 吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ…


 ーー…まだ動くのか…絶対に…負けない!!


 隣の木にはガリアがいる。絶対に、絶対に!この先へは進ませない!!もっと強い魔法を!!もっと!!


吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ吸って変えて放つ…吸って……放つ!!!

 ーー…その瞬間だった。アルタスの手から見たこともない強烈な光と鼓膜が破れんばかりの強烈な破裂音を放ち赤く染まった視界が真っ白になる。


 後に語られた村人の話によると森から轟音と共に天にまで登っていく巨大な雷を見たと言う。


 とにかく今までにない強力な雷を放ち放心状態のアルタスの視界が戻った時、気付いたら当たり一面焼け焦げてイヴァナの頭部は跡形もなく消え去っていた。

 「やっ…た……?」


 アルタスは勝利を確信し、気を抜いた。

 …しかし獣の生命力の恐ろしさはここからだ。頭部を失い、意識など当に無いはずのイヴァナはせめて道連れにとばかりに残った左腕をアルタスに向かって振り下ろした…ーー


 ーー…ああ、折角何か掴めた気がしたのに……



 雨粒が止まって見えるほどすべてがスローモーションになる中、魔法の真髄を見た気がしたアルタスは迫り来るイヴァナの左腕を見ながら、再び白んでいく視界に飲み込まれ、そこで完全に意識を失った…











・忙しい方向け今回のポイント


・ガリアの生死は不明。

・この世界の人類は魔力を回復する特殊な呼吸法がある。

・アルタスは自身でも出したことの無い強力な魔法でイヴァナを倒す。

・アルタスは意識を失い生死不明。

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