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第一章:24 暗雲



 ーーアルタスの誕生日会を終え、新年を迎えてから早3ヶ月。


 新年の浮ついた気分もすっかり抜け、雪もまばらになり魔王国にも春の兆しが見え始める頃。

 6歳になったアルタスは今日も変わらず庭で魔法触媒を使った魔法の練習中だ。


「ーー…よし!エンチャント5秒達成だ!」


 この3ヶ月間でアルタスは歯車でのエンチャントを習得し、更には前までは剣で1秒ほどだった効果時間を歯車で5秒ほどまで伸ばしている。


 「ただ問題は属性魔法(こっち)なんだよなぁ…」


 プクプクと掌の上で大きくなっていく水球は以前の1.5倍ほどの大きさとなり、成長は実感できるものの未だ最初に見たガリアの水球よりも遥かに小さい。


 「そんだけエンチャントできるなら自分よりスゴイ魔法出せるはずなんスけどね?」

 

 ガリアが不思議そうに首を傾げている。

 ーー…これは何か根本的にやり方が間違っているのだろうか?

 アルタスが独学で学んだ自身の魔法の使い方に疑問を持ちはじめていると、玄関の扉が開きバタピーがおずおずと扉の隙間からこちらを見ている。

 

 「どうかしたバタピー?」

 「えっとぉ……そろそろその魔法触媒借りたいんですが…」

 「あっ…ごめん、つい夢中になっちゃって…」


 先日、街で作った歯車のレプリカには穴が無いため、バタピーに頼んでおいた穴用の棒を確認する際にはどうしてもアルタスの持つ本物が必要となる。


 手元に作ったままの水球を空に向かって放つと空は今にも降り出しそうな曇天で、折角ならバタピーの成果を見るため魔法の練習を切り上げ、三人は一緒に館へと入って行った。


 「ーー…ふぅ…今度こそ成功しますよぉに……」


 バタピーに与えた木屑まみれの作業部屋。

 緊張の面持ちのバタピーの手には歯車に通すための軸となる棒と歯車を中心で止めるための留め具が握られている。

 

 3ヶ月間アルタスと二人で様々な試行錯誤を繰り返し作成された棒は、穴に対して少しゆとりを持たせており、出っ張りがついた留め具の出っ張り部分で穴をピッタリ隙間が無くなるよう上下からはめ込むという構造だ。

 そんな手順を踏み、最後に穴のなかで留め具同士を捻りカチリと噛み合わせると…ーーー


 「やったぁ…!グラグラもしないし完璧……えへえへ…」

 「ありがとうバタピー!ここまでの物を作ってくれて嬉しいよ!」


 バタピーは最初こそ慣れない木工に苦戦していたものの、元々手先は器用ではあるためこの3ヶ月間でメキメキと腕を上げている。

 しかしこの作業部屋に積み重なった失敗作と木屑の山を見る限り簡単な道のりではなかった事が伺え、今回の成功は喜びもひとしおだ。


 「それで…これをどぉするんですかぁ……?」


 とりあえずアルタスに言われた通りに作ったものの、使用方法がまだイマイチぼんやりしているバタピーが問いかける。


 「実はこれは僕の仮説を証明するための実験とこれから作るものの模型みたいな物なんだ。」


「僕が最終的に作りたいのは馬が要らない馬車だ!バタピーにはこれからこの模型に合う車輪とちゃんと穴の開いた木製の魔法触媒のレプリカを作って欲しい。」


 「…馬が要らない……馬車??」


 街で作ったレプリカとアルタスのもつ本物。

 街から帰ったあとお互いを組み合わせて回した所、言葉通り全てが噛み合った気がした。

 

 ーーー…そしてこれはガリア曰く馬のない馬車から取ったもの…それならば作ってみたいじゃないか!馬のない馬車を!


 「それだけじゃないよ?ほかにも作りたいものがあるんだ!たとえば…ーーー」


 ぐぅぅ〜…

 「あ…」

 熱の入ったアルタスがバタピーにこれから作りたいものの話をしようとしたところ今まで黙っていたガリアのお腹が食事の催促をするようにアピールしてくる。


 「あっはは…まずはお昼だね…あれ?そういえばエディが呼びに来ないけどどうしたんだろ?」


 いつもならとっくに昼食の時間をつげに来ているエディが今日は現れない。不審に思った3人はエディの様子を見に厨房へと向かう。


 「ーー…居ないね…」

 「エディさんならぁ朝食後に村へ買い出しに行ったはずですが…何かあったんですかね……?」


 厨房を覗いてみてもそこにエディの姿はなく、竈門に火が入っている様子もない。村で何かあったのかと3人が心配していると突然、玄関の戸を叩く音と、なにやら必死に叫ぶ男の声が聞こえる。



 「大変だ!エディさんが…エディさんが『イヴァナ』に襲われた!!」


 扉を開けると声の主はハビエルで取り乱した様子で開口一番そう叫んだ。

 ーーー…『イヴァナ』確か10年前にもこの村を襲ったクマの化け物……!!


 「それで!?エディは…?」


 「ええ、命に別条は…ただ背中をざっくりやられてかなりの重症です。血の臭いでイヴァナが追ってくるといけないから館へは戻れない、ただ報告はしないといけないからと村へ…」

 「エディさん俺たちを危険にさらしてしまってすまない、すまないって……ううっ」


 そう言って息を切らしへたり込むハビエルに水を飲ませ一旦落ち着かせていると、話の途中からどこかへ行っていたガリアが革の胸当てに大剣という傭兵時代の装備を身につけて階段を降りてくる。


 「ーー…それで?まだそいつはこの辺りうろついてるッスか?」


 「えっ…?ええ、ここへ来る途中も森から嫌な気配をビリビリ感じました…今も村のモンで何とか食い止めようと武器を集めてますが足止めになるかもどうか……」

 

 「………」

 「うし!じゃあ自分が何とかするしかないっスね。取り敢えず村へ行くっス。」


「僕も行く!!」


 「ーーーーー〜っ!」

 「…わかったッス…ただ自分と離れないでくださいっスよ…」


 ガリアが行くとなれば当然年に見合わぬ勇敢さを持つアルタスも行くと言い出すのは分かっていた。

 そんなアルタスをガリアは本当は家から出したくはない。


 ただ置いて行ってもこの館が安心という保証はなく、おそらくアルタスの性格から言って一人で勝手に飛び出してしまうだろう。

 この緊急事態に説得する時間もなく、そうなった場合自分の目の届く場所に居てくれるのが一番安全というガリアの苦渋の決断であった。

 

 「ーーよしっ!じゃあ僕も準備を…」

 「行っちゃ……ダメェ!!」

 

 アルタスが歯車を取りに行こうとした所、バタピーが今まで聞いた事のないくらいの大声で叫び声をあげた。

 アルタスが驚き振り返ると顔を真っ青にしたバタピーは今にも泣き出しそうな顔で震えている。


 「ふ、ふたりがいくら強くったってイヴァナにかなうはずがない…前に出た時は領主様が倒してくれるまでに応援に来た衛兵含め50人以上やられちゃったんですよ…?」


 「だから今回も領主様を待ちましょうよ!!みんなで隠れてなんとかやりすごしましょうよぉ…」


 過去のトラウマが甦るバタピーの目からは大粒の涙がポロポロ溢れその場にうずくまってしまう。

 ーー…50人もの犠牲…それとわざわざステンドール伯が出なくてはいけない事態…イヴァナ、想像以上の化け物だ…


 しかしそんな化け物ならば尚更放って置くわけにはいかない。アルタスがどうバタピーに言い聞かせようか悩んでいた所ガリアがスッと前に出てうずくまるバタピーを優しく抱きしめる。


 「安心するっス後輩、衛兵くらい50人なら自分だって倒せるッスから!クマ公なんざチャッチャと倒してやるからお前は安心してここで帰りを待ってるッスよ…」


 「それにガリアには僕がついてる。二人でやればどんな敵だって怖くないさ」


 緊急性を感じ、ガリアがバタピーを諭している間に歯車を取りに行っていたアルタスが合流し、真っ直ぐとした目でバタピーに訴えかける。


 「…………」

 「ーー…ぼっちゃん、行くっスよ……」



 もうこれ以上何も言えなくなってしまったバタピーをこの館で一番安全なアルタスの部屋に隠れているよう指示し、ハビエルと三人今にも降り出しそうな空の下を走りだした。


 「必ず…帰ってきて下さい…」


 ーー…バタピーは止める事が出来ない不甲斐なさと、震えることしか出来ない己の無力さに再び涙し、せめて遠ざかる後ろ姿が森に消えるまでアルタス達の姿を目に焼き付けたのであった。







・忙しい方向け今回のポイント


・アルタスは魔法が少し上達した。

・アルタスは馬のない馬車を作りたい。

・イヴァナという熊の化け物が出てエディが大怪我。

・アルタス達はイヴァナ討伐へと向かった。

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