第一章:23 あたたかな炎
「アルタス様、お帰りになる前にご報告したい事が。」
朝霧も晴れぬ早朝、アルタス一行が村へ帰るため門へと集合していると、そこにホーデムが待っていた。
正直もう二度と会いたくない顔にアルタスはギョッとし顔をしかめるが、どうやらいつもと様子が違いホーデムの表情は真剣そのもので、アルタスも気を引き締める。
「ーー…それで、報告とは?」
「はい、昨夜遅く伝令から報告がありまして、今からおよそ6日前フォンダルフォン領南西、トナル平原にて人間との戦争が開戦したとの事です。」
「開戦……!ご報告ありがとうございます。それで、戦況の方は…?」
「いえ、速報ゆえまだなんとも、しかし今回、戦場に勇者の姿がなく、今代の勇者はまだ仕上がっておらず今回は不参戦という見方が強いです。」
「勇者が参戦しない…ーー?」
ーー魔王と対を成す人間側の希望『勇者』
いつだって戦場の最前に立ち、人間達を導いてきた厄介な存在が不参戦?
15年前の戦いにおいて先代勇者は現魔王によって討ち取られ、確かに新たな勇者が戦場に出てくるには年齢的に若すぎるのかもしれない。
それならばなぜ人間は勇者の成長を待たずに攻め込んで来たのか……?
「それはなんと言うか、不可解ですね…?」
「ええ、アルタス様のご想像通り。今回の戦は不可解な点が多い。冬の行軍に勇者の不参戦、まるで人間は何かの実験でもしているかのような不穏さがありますな。」
「実験!?人の命で…ーー!」
人間は敵ではあるが命である事には変わりない。もし今回の戦がホーデムの言う通り人間側の何かの実験だとするならばとても正気の沙汰とは思えない。
「いえ、これはあくまで私の想像です。しかしアルタス様がこれからの状況が気になるのなら、よろしければこちらに滞在なさいますか?滞在中の宿はこちらで手配致しますので。」
「ーー……」
「……いえ、ここで僕がアタフタしていても出来ることはありませんから帰ります。」
アルタスはしばらく目を瞑り考えた後、真っ直ぐとした目で告げるとホーデムはフッと笑い、
「本当シーザーそっくりで気に食わないね。」
と聞こえないくらいの優しい声で呟いた後
「それでは、また街に足を運んだ際には是非。」
ーーー張り付いたいつもの胡散臭い笑顔に見送られアルタス一行はルイーズマカリアをあとに家路へとついたのであった。
ーーーーーー
「ーー…ちゃん?」
「ーーー…ぼっちゃん!聞いてるッスか!?」
「えっ?何…?」
ルイーズマカリアから村へ帰ってから10日。
なるべく気に掛けないつもりだったが、いつぞやのように険しい顔でもしていたのだろうか?
そんな姿を見るに見かねたガリアがムっとした顔で立っている。
「全く!何も聞いてなかったっスね!今から村へ行くッスから早く準備するっス!」
「……なんで?もうすぐ夕方だしそれにまた雪も降りそうだよ?」
「えーー…そうそう今日は祭り!村の祭りなんス!」
「え?…僕そんなの聞いてーー…うわっ!」
「あー!もう!自分にあんまり言い訳考えさせるんじゃないっス!もうとっとと行くっスよ!!」
ガリアに半ば強引に手を引かれ、防寒着を完全武装させられると、あれよあれよと雪の積もる中、村へと連行される。
「ごめんねガリア今回も気を使わせちゃって。」
「いいっスよ!それに今回はそんなんじゃない…おっと…」
何やら口籠るガリアと滑って転ばぬよう手を繋ぎ、すっかり冬景色の森を歩いて行く。
アルタスが街から帰ってきた翌日から降り出した雪はあっという間に森を白く染め、本当に村で祭りをやっているのか?と思ってしまうほど静まり返っている。
「そういえば道には雪が積もってないね。」
「多分先に行ってるエディが雪かきやったんスよ!」
ーー確かに祭りがあると言うのならあの行事ごとが大好きなエディが居ないと始まらないな!
今回も張り切り、腕を振るうエディの姿を想像して笑いながら進んで行き、村に到着する。
「わぁ!雪だるまがいっぱいだ!」
今回は収穫祭の時とは違い、蝋燭などの飾り付けはないが、代わりに大小様々な雪だるまがまるでアルタス達を歓迎するかのように至る所に並んでいる。
「あっ!このへにゃっとした顔の奴バタピーそっくりっス!」
「じゃあこの人参ヅノのはガリアだね!」
二人でキャッキャと個性豊かな雪だるまに導かれるように歩いていると村の広場の方から明かりが見えてくる。
広場の中央には大きな焚き火と奥になにやら一際目立つ大きな雪像…ーーーあれは僕?
ーー…妙に鼻筋がピンと高くなってはいるがあれは僕だ。
「アルタス様6歳の誕生日おめでとうーー!!」
「え?」
ボーッと自分がモデルになっているであろう雪像を眺めながら広場へ近づいた所、村人達から突然の祝福の言葉。
まだ状況を掴めずポカンとしているアルタスの前へエディとバタピーがやってくる。
「…あの雪像、私が作ったんですよ…えへへ、ご主人様の聡明さがよく現れた我ながら傑作です……」
「今日はぼっちゃんの好きなモンばっかり用意しましたよ!さぁさ、こっちへ!」
「何ボーッとしてるんスか!今日の主役が音頭取らないとメシが食えないっス!ほいっ!」
ガリアに盃を渡され、背中を押さながら前に出る。
ーーー…そうか今日は僕の誕生日だったか…すっかり忘れてたな。
「アルタスさまー!おめでとうー!」
「ヒュー!今日のアル様大人びてるぜー!」
「アル様ー!何かお言葉をーー!」
村の皆から口々に祝福の言葉を送られてアルタスはようやく6歳になった実感と喜びが湧いてくる。
ーー…言葉…か、この村の人達とももう随分仲良くなったし収穫祭の時のような堅苦しいのは無しだ!よし!ここは一つカマしてみるか!
「イエーイ!みんなー!楽しんでるかー!!」
「……ーーー…」
「………い、いえーい……?」
突然のアルタスの柄にもない軽い言葉に村人達は困惑し、お互いの顔を見合う。
ーー…ししし、しまった!スベッた!恥ずかしい!
アルタスはガリアのように顔を真っ赤にしながら慌てて仕切り直す。
「コホン…!今のは忘れてくれ…ーー改めて今日はみんな集まってくれてありがとう!!」
「思えばみんなとこんな風に関わるようになったのもまだここひと月かふた月のことだ…」
「だけど!僕は善良で働き者が集まるこの村のみんなを心から尊敬し、友のように感じている!」
「そんな間柄には堅苦しい挨拶は必要ない!今日は僕の素直な気持ちで君たちに感謝を伝える!」
「みんなありがとう!大好きだ!!乾杯!」
「「かんぱーーい!!」」
アルタスの言葉に、笑顔で応えるもの、涙ぐむ者、反応は様々だったが、一つ言える事は今この村で同じ焚き火を囲む者たちはアルタスを含め、皆幸せそうだということだ。
きっと今も遠い空の下では戦火が広がり人々を不幸にしているのだろう。
そしてアルタスの家族や兵士たちもそんな場所で必死に誰かの暖かな火を守るために戦っている。きっとそれは敵である人間だって同じはずだ。
ーー…戦争なんてなくなればいいのに
心からそう思う。
武家の子であるアルタスはいずれ戦場に出る。
その際には命を奪う覚悟はある…ーーつもりだ…
しかしはじめから戦争さえ無くなれば、そんな悲しい覚悟など必要なく、現在幸せな火の元にいるアルタスと同じようにみんなで暖かい火を囲んで、愛するものと存分に笑い、語り合う事ができるはずだ。
それは魔族、エルフに関わらず、戦場を知らない甘っちょろい考えと思われるかもしれないが、現在は敵である人間、ドワーフですらいつかはそうなれたらいいと心から願う。
ーーー…そしてアルタスにとって願いとは『自分』で叶えるものだ。
いつか争いを無くし、人類と呼べる全てと暖かい炎を囲める日を必ずいつか実現してみせる!!それが僕の役割だ!
以前ははっきり答えを出せなかった『人生の役割』
これが自分の中で明確な答えを定めた瞬間だった
こうして6歳を迎えたアルタスは、願いを決意に変え、とりあえずこの夜は大いにはしゃぎ新たな一年を迎えるのであった。
・忙しい方向け今回のポイント
・戦争がはじまった
・人間には魔王と対をなす勇者がいる
・今回の戦争に勇者が不参戦
・アルタス6歳になる
・アルタスは平和を望む




