第一章:22 にゃんにゃん親方
「はぁ…最高のお宿でした……私一生の思い出ですぅ…えへへ」
昨晩モヤモヤしてあまり眠れなかったアルタスとは対照的に街一番の宿にちゃっかり着いてきたバタピーが顔をテカテカにしながら興奮している。
「コイツ昨日はしゃぎまくるから自分恥ずかしかったっスよ!まったく、宿なんて寝れりゃどこでも一緒だっつうのに…」
「そんな事ないですよぉ…こんな最高のお宿次いつ泊まれるか分かんないんですからぁ……えへっ♡」
「…確かに飯は最高だったが俺はこういう宿は堅苦しくてあまり好かんな…」
従者達が三者三様の宿の感想を言うが、アルタスは今回もエディの意見に賛成だ。
どうも昨日の件もあり貴族的な高級感に若干アレルギーのようなものを感じる。
「じゃあ俺は今日も村人達と色んな買い出ししとくんで、ガリア!ぼっちゃんを頼んだぞ!」
「えへっ…エディさぁんわ、た、し、は?」
「……バタピーも頼んだぞ……」
「フゥゥー!りょうかぁあい」
昨日二人で行動している間に何があったのだろうか?妙にエディに対してバタピーの距離が近い。
従者同士仲が良いのは大変結構だが、仮にもここはこの街の一等地、身なりがいい者が行き交う往来のど真ん中でおかしな格好でおかしなポーズを取るのはご遠慮願いたい。
「いつまで浮かれてるんスか、バカ後輩!とっととお前の元職場にぼっちゃんを案内するっス!」
ゴチンとガリアにゲンコツを食らいバタピーが大人しくなった所で今日の目的地、鍛冶屋のある職人街へと出発だ。
一行が向かう職人街があるのは街に入った門から見て真反対。
現在アルタス達が居る富裕層エリアは街の中央あたりのため、歩いて1時間ほどだ。どうせなら昨日はあまりゆっくり見られなかった街を見学しつつゆっくり行こう。
「ぼっちゃん、自分どうせなら屋台で買い食いしていきたいっス!」
「先輩…マーケットは逆方向なんで屋台なんてありませんよぉ…代わりに昔一人じゃ入れなかったカワイイお店沢山あるんでそっちに行きましょう…えへへ」
女子二人がキャッキャとはしゃぐ中、アルタスはアルタスで遂に叶う念願の魔法触媒の複製品を手に入れられる喜びに胸を踊らせウキウキで歩みを進めていく。
こうして一行は富裕層エリアを抜け、バタピーおすすめの店へ立ち寄り、住宅街を過ぎると、他の町より一昔前の雰囲気漂う職人街へと到着した。
職人街は日当たりが悪く、肌寒さを感じるが、そこかしこから職人達の作業する声や音が聞こえ、賑やかな町だ。
「あっ…あの布織りしてる工場、見てると楽しくて大好きでした…」
バタピーが指さす工場を覗いて見ると中には数十人もの女性達が働いており、縦糸、横糸を2人1組になって無属性魔法を使い布を織り上げている。
その余りにも緻密で繊細な職人技に食い入るように三人で見入っていると、そんな姿に気付いた女性たちがこちらに気付き、大笑いしている。
「僕ちゃん達!こんな所で何してるか知らないけど、ここら辺は気ぃ荒いの多いから気をつけなね!」
三人に果物を差し出す休憩中の女性にお礼を言って改めて目的地のバタピーの元職場の鍛冶屋へと向かう。
「あ…着いちゃいました…ここです…」
今回作る魔法触媒の複製品は余り人目に触れていい物ではないため『鋼の爪』と書かれた看板が掛かる店舗からは入らず、工房がある裏口へと移動する。
「はあぁ…ふうぅ…」
辞めてしまった職場なので気まずいのだろうか?
ソワソワしだすバタピーは呼吸を整え、工房の扉を開き、中へと足を踏み入れる。
「あのぉ…すみません…」
「アア!?誰ニャン!」
ーー…ニャン?
アルタスが妙な語尾に首を傾げていると、工房の中には筋骨隆々、髭面のいかにも頑固な鍛冶屋という見た目の男がどっかり座っている。
そしてなによりも一番気になるのは耳と尻尾。この男にはツノが生えておらず、代わりに猫のような耳と尻尾が生えている。
ーーここの親方は猫の獣人だったのだ。
『獣人』はこの世界で人類と呼ばれる4の種族、魔族、人間、エルフ、ドワーフ、どの種族からも数千人に一人の割合で生まれる獣の一部を体に宿す人々の事で、特性は生まれた種族の物と同じだが身体能力が高いのが特徴だ。
ーーそれにしてもこのイカつい見た目でニャンって…ギャップに思わず吹き出しそうになるのを堪える。
「こっちは工房、話なら店舗ーー…ってお前まさかピニャトゥーか?」
「え、えへへ…お久しぶりです親方……ピナトゥーでございます……へへ、へへ…」
「ニャー…相変わらず妙ニャ喋り方しやがって、それにニャンだその格好?ここ辞めてついに娼婦にでもニャっちまったか?」
「ししし…失礼な!わわ私は今こちらの方の専属メイドなんですから…!」
妙な喋り方の親方に妙な格好の臨時メイドが紹介してくれた所でアルタスは一歩前に出て、挨拶をする。
「はじめまして、訳あって名は明かせませんが今日は親方に作って欲しいものがあるんですが…ーー」
「ニャは明かせないぃ?まぁ今は戦争用の武器卸したばっかで暇だしいいんだけどニャ…」
アルタスは以前館の改修の際に作った歯車の石膏型を包みから取り出し親方へと渡す。
親方はそれをパッと一目見ただけでため息をつく。
ーーまさか、これが人間の魔法触媒だとバレたのか?
「おいピニャトゥ!お前この小僧にこんな雑なモン作らせてどういうつもりニャ!?こんなモン鉄流し込んだ瞬間にコニャゴニャにニャルぞ!」
突然怒られたバタピーは涙目になりながら
「私こんなの知らない…もん…」
と何やらゴニョゴニョと口籠もっている
ーーごめんバタピーそういえばこれ作ったの君と会う前だった。後で好きなものいくらでも奢るから許して!
「これはどうしても作りたいものなんです!どうにかなりませんか!?」
「どうにかっつってもニャ…せめてこれの型取った現物はニャーのかよ?」
…現物は…ある、しかし見習いのバタピーでも魔法触媒だと気付いたなら親方だって気付くだろう。見せることは流石に出来ない。
「いえ…現物は…でもっ!」
「あー…わかったわかった!大方お父ちゃんかお母ちゃんへのプレゼントニャンだろ?ニャンとかしてやるから待ってろ!」
「…ーー!ありがとうございます!」
「その代わり失敗しても文句いうニャよ…」
なんだかんだ面倒見のいい猫親方は頭をボリボリ掻きながら立ち上がり、準備をはじめる。
「それで?何を流し込みゃいいんだ?」
「オリハルコンかミスリル…ーー」
「馬鹿野郎!そんニャ高価なモンあるか!」
「…ーーじゃあ真鍮でいいです…」
親方はため息をつきながら真鍮を炉にくべ溶かし始める。
どうせならオリハルコンやミスリルで伝説の武器のようにしたかったが贅沢は言うまい。結局歯車と同じ素材の真鍮ということに落ち着いた。
「このままじゃヒビ割れで確実に割れちまうから土魔法でコーティングするニャ…あーめんどくせぇ!」
そう言うと親方は土魔法を発動し、型をコーティングしていく。
親方はさすが職人だけあってか、うすーく膜のように型を包んでいき、石膏で出来た白い型が土魔法で茶色に変わっていく。
「見事な魔法ですね。」
「よせやい!これでもまだ流し込んだ時、真鍮が飛び跳ねるかもしんニャーから給仕の嬢ちゃんはしっかり坊主を守ってろ。」
食い入るように見ていたアルタスを猫親方は照れ臭そうに鼻の下を掻きながらどかすと、ガリアがスッと前に立ち無属性魔法で前面をガードしてくれる。
「よし!始めるニャ」
しっかりと安全を確かめた後、親方は溶けた真鍮を型へと流し込むーー
流れ込んだ真鍮はバチバチっと火花を上げ、マグマのようだった真鍮は徐々に冷え固まっていく。
「ーーっし!そんじゃ仕上げに入るニャ!」
歯車レプリカが十分に固まった所で親方はハンマーと魔法を使い石膏を取り除くと、今度は砥石と魔法で丁寧に仕上げていく。
その姿を元弟子の癖なのかバタピーは瞬きもせずじっと元師匠の手元を見ていたのが印象的だった。
「よし!まぁこんなもんだろ!次ニャンか持ち込む時はもちっとマシな状態のモン持ってこいよ!作り辛えったらありゃしねぇ」
出来上がったレプリカは、型を作る際に折れてしまったので穴こそないが、形、大きさはアルタスの持つ歯車と同じで、新品な分とても輝いて見える。
「ありがとうございます!それでお代は…?」
「ニャン?ガキから金なんざ取れねぇよ!それ持ってとっとと帰りニャ!」
「で、でも…」
「うるせぇ!それで両親を喜ばすんだろ!?そんな孝行息子から金が取れるか!」
結局最後まで親方はこれが人間の魔法触媒という事には気づかず、両親へのプレゼントか何かと勘違いしているようだった。
アルタスはそんな親方を騙しているような心苦しさを感じ、せめて言える範囲での心からの言葉で答える事にした。
「これは必ず誰かのために役立てる事を誓います!」
「……おう?まぁがんばれニャ?」
「ーー…あーそれと…ピニャトゥ!」
「はっはい……!?」
「…ーー辞めちまったとは言え弟子の元気な姿見えてよかったよ……またなんかあったら顔見せろや…」
「おっおやがだーー…!」
こうして無事、魔法触媒のレプリカを手に入れたアルタスは号泣するバタピーを連れ宿へと戻って行ったのであった。
・忙しい方向け今回のポイント
・エディとバタピーは仲が良くなった。
・獣人はどの種族からもたまに生まれる。
・アルタスは歯車のレプリカを手に入れた。




