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第一章:21 模擬戦


 「ああっもう!やってしまった……」


 ガリアへの侮辱につい激昂してしまい、模擬戦をする事になってしまったアルタスは冷静さを取り戻し、現在詰め所の中庭にて激しく後悔していた。


 兵士たちは何故か皆、アルタスの戦いぶりに興味津々で続々と集まってくる中、アルタスの頭はこの状況の落とし所をフル回転で探っている。


 まずは鞄の中に忍ばせてある、あの魔法触媒を使うのは絶対アウトだ。アレで奇襲でもかければ初見の者なら恐らく兵士だろうと呆気に取られている間に一撃でノックアウトできるだろうが、人間の魔法触媒を使ったと噂でも流れた日には自分は貴族として終わる。


 そうなってしまえば自分は魔法が少し使えるだけのただの子供で、しかも相手はあんな間抜けな盗賊団ではなく鍛えられた本物の兵士だ。勝てるはずがない。



 「やっぱり自分がやるっスよ!ぼっちゃんがこんな事しなきゃいけない意味が分かんないッスよ…」


 「僕だって変わりたいのは山々だけどね、どうやらホーデムは僕がやらなきゃ納得しないみたいだし。それに意味ならあるさ。」


 確かにホーデムの意図は未だに分からない。しかし意味ならば自分で作った。

 あのいけすかないホーデムからガリアの名誉を取り戻すためには負けるにしても、自分が一定の実力を示す必要はあるが、やってやるさ!こちとら腐っても武の名門フォンダルフォン家の男なのだから。


 アルタスは闘志を奮い立たせて、隣に立つセコンド、ガリアにアドバイスを求める。


 「ガリア、あの兵士どうやって戦ったらいいと思う?」

 

 「うーん…多分あいつ右脇腹あたりに古傷でもあるんスかね?たまに動きが突っ張るんで自分ならその隙に剣はたき落としてそれで終いっス。」


 「古傷…そんな事分かるんだ、すごいねガリア」


 恐らく剣術には分のない自分には真似できないであろうガリアの戦い方は一旦忘れて、現在準備運動をしている対戦相手を見る。

 

 相手は先程ホーデムの部屋にいたベテラン兵士で、向こうはハンデとして魔法は使わず剣のみ。

 対して自分は魔法でも剣でも何でもオッケーだが、手持ちは威力の弱い属性魔法と覚えたてのエンチャントのみ。

 こちらを子供とナメていてくれたら儲けモンだったのにさながら実戦のような緊張感を漂わせている。果たして善戦などできるのだろうか……?



 「それではアルタスさまそろそろ準備はよろしいでしょうか?」


ホーダムが痺れを切らせたのか開始を迫る。ええい!もうどうとでもなれ!やってやる!


 「よし、それじゃあはじめっ!」

 

 「やぁあああ!!」


 ホーデムの掛け声と同時にアルタスは思い切り突っ込み、剣を振り下ろす!…が、当然のように受けられてしまう。

 だがこんなことは想定内だ。鍔迫り合いになれば体格差で押し込まれてしまうため剣を弾いて後ろへ飛ぶ。


 「ふうぅ……」


 距離がとれた所で魔力を手に集めつつ、切り掛かってくる相手の攻撃をかわすがっ…ーーーっ早い!早いが避けれる!ガリアの方が早い!


 こんな実力でガリアを侮辱したのか!と言わんばかりにギリギリで身体を捻り、すれ違いざまにすかさず魔力を水魔法、水球へと変化させ顔へ向かって放つ。


 「!?」


 水球が当たる瞬間、兵士は驚きというか困惑の表情をした気がするが、そんなことを気にしている余裕は無い。相手の剣がブォン!という鋭い音を立て空を斬ると同時にカウンター気味に水球が当たる。


 「スゲェ!兵士長の一撃を避けたぞ!」

 「それに本当にあの歳で魔法を…」

 「しかも属性魔法…」


 周りで見ていた観客達はどよめいたと同時に歓声を上げ、水球を下からアッパーカットのように顎から食らった兵士は水とはいえ衝撃によろめき、鼻から水が入ったのか、むせ込んでいる。今がチャンス!



 ーー水に濡れた状態なら自分の弱い雷魔法でも通りがいいだろう。

 アルタスは持っていた剣に雷をエンチャントした後、念のため無属性魔法で剣を浮かせ、相手の剣の間合いの外から首辺りに剣を押し当てる。


 「ぐぁっ!」


 兵士は特に抵抗もせず、モロに電流を食い、痺れに思わず膝をつくと、アルタスは剣をキャッチし、相手の顔の前に突き出す。


 「そこまで!」


 時間にして1分も経たずの決着がつき、その場に居た者たちは呆気に取られていたが、次の瞬間ドワーッと中庭が揺れるほどの大歓声へと変わる。


 「スゲェ!兵士長を破っちまったぞ!」

 「やっぱあの噂は本当だ!」



 ……勝った?勝ったのか?こんなにあっさり?

 

 熱狂する兵士の中、当のアルタスはなにか釈然としない感情のままホーダムを見るが、未だにあのいけすかない笑顔が張り付いたままで少しイラっとする。


 「おや?彼は勝ったというのに険しい顔のままだね?」


 「それにあのメイドの娘…はは、気付かれたか…」


 ホーデムが自身の席に座りながらアルタス達の様子を伺うと、勝ったはずのアルタスは不貞腐れ、ガリアは意味が分からないとばかりに首をかしげている。


 「まっ、とにかく約束は守らないとね…」


 そう言うとホーデムは立ち上がり未だ中庭の中心に立ちすくむアルタスへと近寄る。


 「アルタス様、噂に違わぬ見事な戦いぶりでした。私の心配などはじめから無用でしたね。大変失礼しました。」


 「それとメイドの君、先程は私の不用意な発言で君を傷付けた事を心より謝罪する。すまなかった。」



 謝罪をてっきり自らのプライドを守るため反故にすると思っていたアルタスは、深々と頭を下げ、真摯にガリアに向かって謝罪するホーデムの姿が意外だった。

 そしてそれはガリアも同じだったらしく

 「フガイ無かったのは事実なんでもういいっス」

 と、対貴族用の言葉遣いを忘れてポリポリとバツの悪そうに頭を掻いている。



 「さて、それでは後のことはこちらでやっておきますのでアルタス様はお帰りになられて結構です。お疲れの所長々と引き止めてしまい申し訳ありませんでした。」


 とあっさり解放されたアルタスがホーデムをポカンとした顔で見ると、頭を上げたホーデムの顔はもう普段通りの張り付いた笑顔に戻っていた。




 「ーー何がしたかったんだアイツ全く!」


 結局、ホーデムの掌の上で転がされた感だけが残るアルタスがプンスカしながら馬車に乗り込み宿へ戻る姿を、自身の執務室から覗いていたホーデムが扉を叩く音に返事をする。

 入ってきたのは先程アルタスと戦った兵士長だ。




 「やぁご苦労だったね。当初のプランより大分早くやられてしまったけど彼はそんなに強かったかい?」

 

 「ええ、こちらが避ける気が無いのを気付いたのか咄嗟に手加減してくれたおかげで命拾いしましたよ。イテテ…」


 「ふむ、気付いてるとは思わなかったんだが、確かにあの魔法は使い方は……まぁ、とにかく君にまで勝ったと噂が流れれば、もうここら辺に居るレベルの賊が彼に手を出す事はまずないだろうさ。」


 どうやら今回の目的はこの腕利きの兵士長を大勢の前で倒させ、巷で流れるアルタスが強いと言う噂をより確実にし、アルタスがこの地で平和に暮らせるようにと画策したものだったらしい。

 そしてアルタスがほぼ独学で覚えた魔法の使い方は、キチンと攻撃魔法を学んだ者からすると何故か手加減に見えるようだ……



 「しかしそれにしてもやり方が回りくどくないですか?素直に話しても彼なら協力してくれてましたよ。」


 「ふふ、僕だってただ善意だけでやってる訳じゃないんだ。彼の弱みの一つでも握っておけば後々何か役に立つかもしれないと言う思惑はもちろんあったのだからね?」



 抜け目なく、悪い笑顔をするホーデムに兵士長は呆れたようにため息をつくが、確かに不審な点があるアルタスをそのままにしていいのか疑問な兵士長は、真剣な顔をしてホーデムへと投げかける。


 「彼には何か秘密があるのは確定なんですよね?それを抜いたって末恐ろしい子なのは間違いない。やはり監視はつけたほうがよろしいのでは?」


 「いや、戦地で戦ってくれているシーザーに感謝しているのは本当なんだ。だから秘密があろうともせめて彼の息子には自由にのびのびとここの暮らしを楽しんで欲しいんだよ。」


 「まっ!彼が何か問題を起こした場合は僕じゃなくてシーザーに責任をとってもらうんだけどね。ざまぁみろってね!ははは!」



「はぁ…アンタの優しさなのか策略なのか分かりづらいやり方、いつか取り返しのつかない事になりますよ。今日だってもしあのメイドのお嬢ちゃんが暴れでもしたらこの詰め所の半分は死んでたんですよ?」


 「えっ…彼女そんなに強かったんだ…本当僕は武人としてはダメダメだね。シーザーには学生の頃、散々煮湯を飲まされたからついね……次会う機会があればもうちょっと普通に接してみるとするよ。」




 こうしてまだまだ貴族としては青いアルタスは、優しさ半分、策略半分のホーデムにより秘密を見逃され、これからもこの地で自由に暮らせる事になったのだが、何も知らないアルタスはこの後の一日をモヤモヤした気分で過ごす事となった…





・忙しい方向け今回のポイント


・アルタス模擬戦に勝利!

・模擬戦の目的はアルタスの噂のため

・アルタスの魔法の使い方は間違っている?

・ホーデム実はいい奴?


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