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第一章:19 貴族疲れ




 「ぼっちゃんまた大きくなったッスね!ボタ…ン掛けづら…!」



 現在アルタス達、館メンバーは街へ入るための審査を待つ村人達の列を離れ、茂みにてお偉方への挨拶回りの衣装に着替えている最中だ。


 今回着るのはあくまで正装ではなく貴族の旅装という比較的楽な装いだが、最近もっぱらシャツに短パン姿だったアルタスは成長して体が大きくなったこともあり、これでも窮屈に感じる。


「挨拶回りとか本当に面倒臭いよ。目的は鍛冶屋なのに…」


「まぁ最初に村へ行くために通った時は挨拶出来なかったッスから今回は挨拶しとかないとそれこそ面倒ッスよ!」


 この地で自由に過ごして良いとは言われているアルタスだが、街に出る際にはお偉いさんに挨拶ぐらいしないと後々何を言われるか分からないのが貴族社会の面倒な所で思わずため息が出る。


「よし!一番上のかかんないボタンは…こうすれば誤魔化せるかもしんないスね!」


 ボタンが掛けづらいヒラヒラ付きのシャツの掛からないボタンは、いつもの歯車ループタイから黒のリボンに変え襟に巻きごまかし、刺繍と胸には家紋の入ったジャケットを着たところで整髪用の油で癖毛の髪を撫で付けオールバックにすると額から可愛いツノがお目見えする。


 「体は大きくなってるのに中々ツノは伸びないッスね。シーザー様みたいに赤いツノ生えてきたら自分とお揃いで嬉しいのにな…」


 ガリアがアルタスのツノをちょんと触り、願望を口にする。魔族のツノは非常にバリエーションが多く、個性が最も出やすい部分だ。

 バタピーのように赤ん坊のころからスクスク伸びる者もいるが、大体は5.6歳頃から伸び始めるためアルタスのツノもそろそろ伸びてきてもいいはずだが…


 「うーん、ここまで生えないと僕はエディみたいな円錐型の短角タイプかもね」


 「えーっ!あんな田舎くさいツノ駄目っスよ、ぼっちゃんは自分と同じ立派なツノを生やすっス!」


 「〜っなんだと!このツノだってなぁ……このツノだって…っ楽でいいんだぞ!」


 いつものエプロン姿のラフな格好から従者スタイルに着替えるエディにはとんだとばっちりだが、自身でも思う所があるのだろう、見た目ではなく利便性を主張するが、アルタスはエディに同意見だ。

 ツノなんて長くたって日常生活でしょっちゅうあちこちに引っかかるし、寝る時にカバー着けなきゃいけないから邪魔なだけじゃないか?


 ツノの良し悪しがモテ要素の一因に繋がる魔族だが、そんなことまだ意識もしていないアルタスにはツノの長さなど邪魔以外何物でもなかった。


 「ツノが短くたってエディも僕も中身がイケてるから何も問題はないさ!今日はやる事沢山なんだから早く行かなきゃ!」


従者同士のツノ談義がまたもや口喧嘩に発展しそうになった所で切り上げ、アルタスは二人をなだめながら茂みを抜けると、列には並ばず真っ直ぐ衛兵達の元へ向かう。



 「せーの」


「「アル様かっこいいーー!!」」


 アルタスがビシッとした貴族の装いで通り過ぎると、村の女性たちがキャッキャとまるで英雄の凱旋パレードのように囃し立てるので、気恥ずかしい気持ちになりながら荷車が横並びで何台か通れるほどの大きく立派な石門の中へと入っていく。


 「えへへ…ご主人様ホントにキマッてますね…何ならメイクもして目もキリッとさせましょうよぉ」


 ガリアとエディが従者用の通行許可証を取り出す中、えへえへ言いながら列から抜け出たバタピーがメイク道具を取り出し一緒に門をくぐろうとちゃっかり着いてくるがアルタスに止められ


 「ごめんバタピー流石に君の通行許可証は発行して貰ってないんだ。待っててあげるから列に並び直してくれる?」


 「そんなぁ…折角通行料節約できると思ったのに」


 がめつい事を言いながらすごすごと元の場所に並び直そうとした所「横入りするな!」と男性に怒鳴られ、悲鳴を上げながら列の最後尾に並び直す哀れな臨時メイドを尻目に、アルタスは門番の衛兵ににこやかに話しかける。


 「突然すまないね。僕はフォンダルフォン家のアルタスという者だけどこの間の盗賊団の事を話したいんだけど、責任者はいる?」


 いつでもいいから街に寄った時に、と言われていた誘拐事件の聴取をサッサと済ませてしまおうと挨拶をしたところ、名乗りと家紋を見た衛兵達はざわつき、「これがあの…」などと何やら耳打ちで会話している。


 「僕に何か?」


 巷で『三代目魔王の生まれ変わり』と言うあだ名を付けられている事を知らないアルタスは今回や納税の時、いつも衛兵達が自分を見ると皆ヒソヒソと何か話し出す事にムッとして抗議していると



 「ーーあなた様の優秀さはこの街で評判ですから、どうか彼らを余り責めないで下さい。」


 不意にどこからか声が聞こえ、視界を遮る一陣の風魔法が吹き荒れるとその中から風に乗りフワッと浮遊する、身なりはいいがどこかくたびれた中年男が現れた。


 「お前たちも、このお方はフォンダルフォン家から預かっている大切なお客様だ。無礼な態度を取るんじゃない!」


 どうやらこの街のお偉いさんらしい男が衛兵を叱責したあと、張り付いたような胡散臭い貴族スマイルでこちらを向き一礼する。


 「失礼、アルタス様が到着なされたと聞き、慌て風魔法を飛ばし馳せ参じました。私、この街の代表のホーデム・ロッソ・ステンドールと申します。爵位は継いでおりませんのでどうぞお気軽にホーデムとお呼びください。」


 ステンドール…確かここの領主と同じ家名だが、ステンドール伯爵はもっと若かった。爵位は持っていないらしいが血縁者なのだろうか?


 「ステンドール…えと、ホーデム殿は…」


 「はい、ステンドール領、領主のリステル・ダイン・ステンドール様の血縁上、叔父に当たります。アルタス様はお忙しいようで今までお会いする機会に恵まれませんでしたが、遂にお目にかかれましたこと、誠に光栄でございます。」


 「…少々こちらでの生活に慣れるまで時間がかかりまして。こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ない。」



 今のホーデムの言葉を平民風に訳すと「何故もっと早くに挨拶に来ない?」という意図のもので、やれやれ…と早速、貴族社会の洗礼にうんざりしている間もホーデムは何か品定めするようにアルタスを見ている。


「ホーデム殿どうかしました?」 


「ああ、いえ、本当にお父上の若い頃にそっくりだなと、実は私、シーザー様とは魔法学校の同級生でして…」


 「へぇ、ホーデム殿は父とはご学友でしたか。それでちち…は………?」


 父とホーデムの思わぬ共通点が見つかり、シーザーの若い頃の話を聞こうとした所ホーデムがくっく…と笑いを堪えている。


「あの?」


「失礼、てっきり移動を指示して下さると思いきや、いつまでも往来のど真ん中で長話というのがいささかおかしくて、よろしければ馬車を用意いたしますので続きはそちらで…」



 気のせいか、先程からホーデムの言葉の端々に棘を感じるが、この時はまだアルタスは事件の説明とお偉いさんへの挨拶が一辺に出来てラッキー位にしか考えていなかった。


 こうしてアルタスはエディにバタピーの事を頼むと、言われるがままガリアと二人馬車へと乗り込み、ホーデムの仕事場、詰め所へと向かっていったのであった。





 

・忙しい方向け今回のポイント


・立派なツノをもつ魔族はモテる。

・町の責任者ホーデムは領主の叔父。

・ホーデムの言葉には棘があり嫌味。

・アルタス、ガリア馬車にのりホーデムの仕事場へ

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