第一章:18 街へ
「バタピー…何その格好?」
村人達との街へ向かう当日、アルタス一行が待ち合わせ場所である村の入り口へ到着すると、既にバタピーが待ち構えており、レースやリボンをふんだんにあしらった、フリフリで甘々な、まるで貴族令嬢がピクニックに着ていくようなメイド服?に身を包みスカートをヒラヒラ踊らせていた。
「ご主人様のメイドとしてぇ、ちゃんとした格好をしなきゃいけないと思いましてぇ…昨日徹夜してなんとか仕上げましたぁ……どうですかぁ……えへっ」
どうですか?と聞かれても言葉に詰まり、何も言えず固まっていると、続々と集まってくる村人の表情もアルタスと同じ感想を持ったようで、一様に怪訝な顔をしているが、もしこのバタピーのおかしな格好がアルタスの趣味なのだとしたら…と、誰も批判することが出来ずに口籠っている。
そんな村人達の様子を察したアルタスは慌てて、あくまでバタピーの独断である事を伝えるべく、大声で強調しながら大袈裟に喋る。
「いやぁバタピーが『自分で』一からデザインを考えて、それを『サプライズ』で見せてくれるなんて僕は感激だなぁ!うんうん、よく出来てるよ!」
「うっうれしい…作ってよかったぁ…えへえへ」
アルタスの裏の意図は全く気にもせず、褒められたことで舞い上がったバタピーは「先輩もどうですか?」と寝起きで機嫌の悪いガリアにリボン片手に絡んでいったが「趣味じゃねッス、ダセェ」
と一刀両断、無事おとなしくなった。
ーーーしかし…デザインはともかく、流石本業だけあるな、この服よく出来てる。
ガリアの容赦ない言葉に落ち込むバタピーを慰めながら生地こそ庶民が使うような物だが裁断や縫製などの技術が意外にも高いことに気付く。
日々成長中のアルタスやもうすぐ成長期に入り大人になっていくガリアの服を任せてもいいとさえ思える。そんなバタピーの裁縫技術に感心していると、見知った女性から声をかけられる。
「ポリンナ!えと…その後はどうだい?」
「…ええ、おかげ様ですっかり元気です!今回は夫のジョージが同行するのでどうかこき使ってやってくださいね!」
おばあさんの葬儀からまだそんなに日は経っていないのに、しっかりと前を向くポリンナ夫妻の強さに安心していると、後ろの方からハビエルや館の改修を手伝ってくれた若者達もこちらにやって来て手を振っている。
今回の冬支度の遠征はすっかり顔見知りが多くなった村のメンバー約20人で、村人達は消費しきれない穀物等を街で売り、それを元手に冬の間足りない物を買うため、六台の荷車いっぱいに俵や袋の積み込み作業をしたあと、アルタスは馬の餌用の藁が乗った荷車に案内される。
貴族が乗るには些か貧相過ぎるが、当然村にはお貴族様を乗せるような上等な馬車などあるはずもないのでこれでも破格のVIP待遇だ。
藁を詰めて、座るスペースを確保するとバタピーが「これをどうぞ…」とクッションを取り出すが、これまたラブリーなハート型で少し躊躇うが、ありがたく座らせてもらうと、エディが御者席につき、剣を携えたガリアが徒歩で護衛をするため荷車の横に着き、そしてバタピーはアルタスに席を詰めさせ隣にチョコンと座る。
「……バタピーは走らないの?」
勢いのよい号令と共に、動き出した荷台の中、甘んじて座っている自分が言えた義理ではないが、他は荷台には乗らず、御者以外は皆小走りでついてきている中、何故か座っているバタピーに尋ねる。
「私は…虚弱だからぁ…走ったりしたら倒れちゃいますよぉ……これも旅の行程をスムーズにするための戦略的ぃ作戦ですよ。ご主人様……えへっ」
情けないことをデキる女風に言いながら髪を掻き上げるとまたあのツンとする臭いがする。
ーーまぁ今回無理言って付いてきて貰っているのだからバタピーとの会話を楽しみながらの旅にしよう。
…などと考えていたが、街まで一泊二日の距離を会話があまり得意ではないバタピーとのお喋りは長く続かず、結局はどこまでも続く畑の景色を見ながらの、のんびりとした旅となる。
「それにしても広い畑だな…」
今まで何度か通る機会はあったが寝ていたり気絶していて気付かなかったが、もうかれこれ30分以上馬に揺られているが、まだまだ畑の終わりが見えない。
この広大な畑を管理する村人達の働きぶりには感心するが、たまに麦の種を蒔く者とすれ違う以外変わり映えのない景色に今朝の早起きも手伝って段々と眠くなってくる。
「ふぁああ」
あくびをしつつ隣を見ると徹夜明けのバタピーはもう既にフゴフゴと夢の中へ入っていたため、自分も少し寝よう…とアルタスは今回も畑の終わりを見届けることなく目を閉じたーー
ーーーーーー
「ーーぼっちゃん?昼ッス!起きるっス!」
「…ん…おはようガリア…」
アルタスがガリアの声に目を覚ますともう数時間は経ったようで辺りは畑地帯を過ぎ、現在は森の中にいる。周りを見ると皆休憩のため座ったり、ストレッチなんかをしながら食事の準備をはじめている。
「おら!後輩も!今まで散々寝てたんスから飯の用意してくるっス!」
歯軋りをしながら何やら苦悶の表情を浮かべるバタピーをガリアが荷台から引き摺り下ろすと「ヒィ!」と小さい悲鳴を上げた後、寝ぼけまなこでフラフラと食事を準備する者の輪に入っていく
そんなバタピーと入れ替わるようにガリアはドサっと藁の上に寝転がると「飯できるまで寝るッス!」と直ぐにイビキをかきはじめる。
「寝ちゃうならご飯が出来てから起こしてよ…」
起こされたはいいが、喋り相手もおらず退屈になったアルタスも食事を作る者たちの輪に混ざる事にしたが、いつもならこういう時に一番張り切るエディがいない事に気付く。
「あれ?エディが居ないみたいだけどどうしたのの?」
「あはは!それがエディさんたら夕食は豪華にするぞっ!って張り切っちゃってハビエル達を連れて狩りに行っちゃったんですよ」
干したキノコと米粉で作った団子を鍋に放りながらクスクスと笑う女性たちに、やはり張り切っていたか…とアルタスも笑う。一体どんな獣が獲れるだろう?
「あはは、それは楽しみだ!それで?ここら辺にはどんな獣がいるの?」
「色々いるけど食用だとホーンラビットやツリーディア…それにボアかしら?討伐対象だと亜人、それと……イヴァナ…」
「……」
『イヴァナ』という名前を聞いた途端、今まで楽しくお喋りしていた女性達が嘘かのように皆が黙り込む。
聞けばイヴァナというのは熊が突然変異をおこしたもので、10年ほど前に村を襲い多くの死傷者を出したらしく今も村人達の心に大きな傷を残す獣だそうだ。
「私のお父さんも命は助かったけど大怪我を負って……あの時は怖かった…」
団子を作っていたバタピーの沈痛な面持ちに一同が沈みかけるが、「おーい!」と丁度いいタイミングで現れた上機嫌なエディの声と共に、血抜きを終えた頭から木を生やす巨大な鹿、『ツリーディア』を持った一行が戻った事で、また全員に活気が戻り、アルタスはホッと胸を撫で下ろす。
こうしてただの干しキノコと団子のスープに肉が加わり、大満足な昼食を摂った所で一行は再び歩き出し旅を続ける。
途中何度か休憩を挟んだり、バタピーが問題行動を起こし旅程は多少遅れたが、何とか陽が沈む前には本日野営を予定していた場所までたどり着いた。
そこからの野営地での夜はツリーディアのワイルドなバーベキューを楽しみ、昼間寝てしまったことで中々寝付けずガリアと魔素が晴れた冬の満点の星空を見ながら過ごし朝を迎えーーー
ーーー昼前には遠くに立派な外壁が見えはじめ、そこから無事昼頃に街ことステンドール領第三都市、ルイーズマカリアに到着したアルタス一行であった。
・忙しい方向け今回のポイント
・アルタス一行街に向けて出発。
・バタピー裁縫の技術はプロ。デザインはおかしい。
・この地にはイヴァナという化け物熊が出る。
・何事もなく街に到着!




