第一章:17 エンチャント
数日間の騒がしくも楽しい修繕作業を終わらせ、村の若者をねぎらう打ち上げをした翌日。真っ白になったアルタスの館にはすっかりいつもの生活が戻っている。
エディは厨房にこもり、バタピーは新たに用意した部屋でモノづくり、ガリアはアルタスを見守る傍ら剣の稽古、そしてアルタスは館の改装中は出来なかった歯車の攻撃魔法の訓練をしている。
「まずは属性を…どうしようか…?」
今日の課題は盗賊団との戦いの中で偶然学んだ『属性魔法でも魔法触媒は回る』という特性と、魔族の中でもオーソドックスな魔法、武器に属性魔法を纏わせる『エンチャント』この相性抜群の二つを組み合わせた攻撃方法を確立させる事だ。
「最終的には雷か、風だな…」
現在アルタスが使える属性魔法は水、雷、風。
火は火事になる可能性を考え使用禁止で、アルタスが一番使いたいと思っている土は、砂がポロポロ出るだけなので使えるとはカウントはせず、氷にいたっては発動すら出来ない。
アルタスが考える攻撃方法とは、エンチャントをした歯車を無属性魔法で投げるという至ってシンプルな物だが、放った後も魔力が供給され続けることによって、回転力が落ちず、さらには属性魔法も敵に与えられるというシンプルながらに強力な攻撃理論だ。
そんな魔法触媒なしで魔法が使える魔族でないと恐らく扱えない技を人間の魔法触媒を使って行う、どこか皮肉めいた魔法を完成させるにはまずエンチャントをマスターしなくてはならない。
「ねぇー!ガリア!エンチャントってどうやってやるの?」
「エンチャント?うーん、ニューッとして…ポンッス!まぁ見ておくっス!……うぎゃぁ!!」
感覚派のガリアが言葉より実演で披露するため、水を纏わせるため剣を手に溜めた魔力でなぞり発動させようとした所、魔力が暴発し、ゴボゴボと水が急激に膨れ上がると、パァン!と派手に水が破裂しガリアの腹を痛打する
「ぐぅぅ…やっぱり魔法なんか使うモンじゃないッス……」
「大丈夫!?ガリア!」
びしょ濡れでその場にうずくまり、アルタスが駆け寄ると、守ると誓った主人に護衛が心配をさせてはならないと思ったのか、ガリアは大きく息を吸い勢いよく跳ね上がる。
「これくらいへっちゃらっス!鍛え方が違うんスよ!ハクシッ!」
仁王立ちしながら腹をポンと叩き頑丈さをアピールしたが寒さには勝てず、ブルブル震えながら服を着替えに館へと入って行ったが
「バタピー!また便所行く時、木屑落とさなかったっスね、このヤロウ!!」
と館内でもまた一悶着ありそうな声がしたが一旦スルーして、アルタスは忘れないうちに、先ほどのガリアの感覚的すぎる教えを自分なりに噛み砕いて試してみる。
エンチャントするのは先程のガリアの手痛い失敗はあったがやはりアルタスの中での練習の定番は水魔法だ。
まず『ニューッ』と言うのは恐らく武器に魔力自体を膜の様に纏わせる無属性魔法に近いことだ。
歯車は回す事に魔力を消費してしまうため、エンチャントするためには歯車から溢れるほど多めに魔力を注ぐ必要がある。ニュー……
そして『ポン!』は属性魔法の発動のことだろうが…ああっ!『ニューッ』が消えてる!発動させるまでに時間をかけ過ぎた。
2回3回と繰り返し失敗を重ねていき都合7回目あたりでフラッと来たので少し休憩。魔力が低い者でも扱える魔法と侮っていたが、中々消耗が激しい。
はぁはぁと肩で息をしながらその場に座り込むと、上からタオルが掛けられ、着替えから戻ったガリアと二人玄関前の段差で温かいお茶をいただく。
「ガリア中々エンチャントって難しいんだね」
「そりゃぼっちゃんがいきなりステップ上げすぎなんスよ。普通は剣から始めるもんス。なんでも基本がだ、い、じ、っスよ!」
珍しく教育係らしいことを言うガリアがアルタスの眉間に寄ったシワをタオルでグリグリほぐすように汗を拭く。
「確かにガリアの言う通りだ、まっ!のんびりやるさ」
このなんの制限もなく好き勝手出来るこの地での時間に、やりたいことがあればその都度そちらを優先するだけだ。何も焦る必要はない。
そんな以前のような生き急いでいる感もなく、晴れやかな横顔を見てガリアも安心したような顔をして二人でゆったりと、もう冬のはじまりを感じる森の景色を眺めていると
「えへっ…今日も仲良しですね……」
「「うわっ!」」
突如背後から冬の寒風のような背筋が凍る声がし、音もなく現れたバタピーに二人して飛び上がり、ガリアは思わず庭に置いてある剣を構える。
「や、やあバタピー、どうかした?」
「あの…明後日からの冬支度の買い出し…私街にいくの久々だから……準備がそのぉ…だから今日はもう帰りたいかなぁ……て?えへっ」
「あ、ああそうか、わかったよ!確か明日は休みだから会うのは当日だね!それじゃあ気をつけてね。」
アルタスは今回の冬支度に街へ行く際、昔働いていた鍛冶屋に案内してもらうためバタピーにお願いをしていたのだが、何やら準備があるらしく今日は早めに帰るらしい。
「じゃあご主人様…当日をお楽しみにぃ…ヒヒヒ」
何やら嫌な予感を感じるが、バタピーはそう言うと不気味に微笑みながらスススーっと森の暗闇に消えるように帰って行き、最近の鍛錬により研ぎ澄まされているはずのガリアは気配の読めないバタピーに「あいつ何者…?」と変に警戒心を抱いてしまっていた。
「街かぁ…楽しみだな。早く明後日にならないかな?」
そんなガリアのことはお構いなしにアルタスが明後日の遠征への期待を口にすると、ガリアが口を尖らせジトっとした目で見つめてくる。
「なんだよ。今更街へは行くなって言いたいの?」
「言いたいスけど…言いません。どうせ理屈こねられて負けるだけっスから。それに何かあれば今度こそ自分が守ればいいだけっスから!」
「うん。頼りにしてるよっと!」
ガリアの葛藤は分かりつつも、やりたい事は止められない、そんな将来は女性を泣かすダメ男になるような考えのアルタスは、勢いよくぴょんと立ち上がると先程から剣を持ちっぱなしになっているガリアから剣を借りると
「よし!最後は基礎からやってみるとしますか!」
と剣でのエンチャントを試みる。魔力を纏わせるとやはり魔法触媒と違い魔力が吸われないのでかなり時間に余裕がある。そこから魔力を水魔法に変化させ、ゆっくりと剣に纏った魔力の上から水を重ねていく。
「出来た!」
波打つ水飛沫が刀身をグルグル回りキラキラと輝きながら消えていく。ほんの一、二秒だったが確かにエンチャントに成功したのだ。
「ぼっちゃんは本当、魔力制御は一級品っスね」
まだまだ歯車では成功せず、発動も持続もまだまだ課題は山積みだが感心するガリアの一言に満足した様子で「じゃあ今日は終わり!」とウキウキで館へと入って行った。
こうして曲がりなりにはなるがアルタスはエンチャントを習得したのだった。
・忙しい方向け今回のポイント
・アルタスの考える技はエンチャントした歯車を投げること。
・明後日から街へ行く。
・アルタスは剣でならエンチャントができるようになった。




