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第一章:16 不器用なあなたへ


「あのぅ…ここで働くならメイド服に着替えなくてもいいんですかぁ…?」


 バタピーとの説明や契約終えた辺りでガリアのお腹が鳴り、折角なので一緒に朝食でもと言う事になり、談笑していた所おずおずとバタピーが切り出してきた



 「うん?家にはガリア用しかないし、別に毎日来るって訳でもないから普段着で構わないよ?」


 「…でもぉ折角だし…ガリア先輩の姿が可愛くってぇ……えへ私も着たいなぁって…」



 どうやらメイド服に憧れがあったらしいバタピーは羨ましいそうにガリアを見つめる。そんな後輩のため一肌ぬいだガリア先輩は口元をゆるっゆるに緩めて



 「ぼっちゃん!やっぱりコイツ分かってる奴っス!後輩っ!自分の貸してやるっスから着替えに行くっス!」



 と鼻息荒くバタピーの手を取り、慌ただしく自室へと連れて行き、女子同士のはしゃぐ姿を親のように微笑ましく見ている達観した五歳児だったが、頬を赤く染めながら帰ってきたバタピーの姿に絶句する。


 「…似合い…ますか?ご主人様……?えへへっ」


 もうすっかり大人なバタピーが成長期前のガリアのメイド服を無理やり着ているためボディーラインが顕になり、ガリアがはけば健康的に見える丈短めのスカートもバタピーのオドオドした雰囲気と相まって背徳感がありなんと言うか……有り体に言ってしまえばエロいのだ…


 「バタピーそれは流石に……」


 まだ子供なアルタスは、はしたないと顔をしかめる程度だったが、ちょうど朝食を持って現れたエディは

「なんてかっ!こうを#&@」と顔を真っ赤にして、支離滅裂に何かを叫びながら朝食をサッとテーブルに置くと、乙女のように顔を覆い走り去ってしまう。


 「うん。元の服に着替えておいで。」


館の風紀を守るためにもバタピーは私服という結論に落ち着き、何やらブツブツ呟やいたあと、名残惜しそうに着替えに戻っていったーー


 

ーーーーーー


 バタピーの着替えも終わり、食堂の扉の影から野生動物のように唸りながら警戒していたエディを無事保護した所で皆で朝食を頂くことにする。


「お茶と違って…すごく美味しい。私お貴族様のこういうのを期待してたんですよぉ……えへへ」


「あん?自分が淹れたお茶がどうかしたッスか?」


「い、いえ、お茶に合うなーって…えへえへ…」



 口を開けばに迂闊なことを言うバタピーと共に絶品朝食を堪能していると、外が騒がしくなり、賑やかにアルタスを呼ぶ声が聞こえる。どうやらハビエル等村の一向が今日の作業のために館へ到着したようだ。


 「あ、もうそんな時間か…ガリア!迎えに行ってあげて!」


「うーっス」とパンを片手にハビエルたちを出迎えにガリアが向かうと、ずっとテーブルの上に歯車が置いてあることに気付き、慌ててとりあえず近場にあったバタピーの鞄に避難させることにする。


 使い込まれた飴色の光沢を放つ革鞄を開けると、手仕事用の刃物、槌などこれまた年季の入った道具を自分の使いやすいよう手入れし、カスタムしたものがぎっしり入っている。


 「ちゃんと道具持ってきてくれたんだ!それにしても使い込まれたいい道具ばかりだね!」

 


 道具を褒められて嬉しかったのか目を細め、うっすらと涙を浮かべながらバタピーは何かを考えたあと、絞り出すよう語り始めた。


 「…みんな私が何か作る時、魔法を使ってさっさとやれって言うんですけど、私…魔法が下手っぴで、この道具達を使わないとマトモな物一つ作れないんです…あんまり理解されないけどこの子達は私の相棒で、私の生命線なんです……」


 「だ、だからご主人様が魔法触媒を作るって言った時は驚いたけど、わ、私のこの子たちみたいに誰かが暮らしやすくなる物が出来るなら私ちゃんと手伝いたい!」


 「…わ、私、この子達と一緒にやれば大抵のものは作れると思います…!多分……」

 


 声が裏返り、最後は自身なさそうなところはバタピーらしいが、いつも挙動不審にキョロキョロしている目が涙をいっぱいに溜め真っ直ぐこちらを向いている。


 そんなバタピーの決意とも言える表情に、前途多難だと思っていた自身の計画の理解者が出来たことに胸を熱くしていたが、館の中へ入ってきたハビエル達の声が近づくのを感じ、慌ててバタピーの涙をぬぐい、席へと座り直した。



 「アル様!おはようございます!今日もよろしく……ってお前ここに居たのかよ!?お袋さんお前が居なくなったって心配してたぞ!」


「フヒ…お母さんに捕まったら家の掃除しなきゃいけないし……私はもうこの家の専属メイドだから、プロはタダで掃除なんてやってらんない……ヒヒヒ…」

 


 先程までの感動的な空気をぶち壊す『臨時』メイドと幼馴染の会話で、バタピーが何故夜明け前から来ていたのか理由も判明したところで、村の者達に改めて挨拶をし、ガリア監督の元、作業に移ってもらう。



 ゾロゾロと食堂を出ていく村人達を見送り、バタピーと二人きりになった所でアルタスは声を落とし「…じゃあ行こっか」と秘密のミッションを遂行するため裏庭へと向かう。


 「素敵なお庭ぁ…私もいつかこういう家に住んでみたいな…えへ」


 褒めてもらって恐縮だが、ガリアがめんどくさがって枝を全部切り落としてしまった木と自分の魔法の練習で荒れ放題のこの庭のどこを見たらそんな感想が出てくるのだろう?とアルタスは疑問に思うが、一々気にしていては話は進まない。


 「……それでさっきも説明したんだけど今日はまずここの薪を使ってこの魔法触媒の穴に収まる棒と留め具を一組作って欲しいんだけど…」


 鞄に入れっぱなしだった歯車を取り出し、アルタスの頭の中にある構造を説明をすると、バタピーは目を瞑り、ウンウンと大袈裟に頷くと


 「ひとつでぇぇ………いいんですか?」


  たっぷり間を作り、出来る女風に髪をかきあげると普段使っているであろう布の染料か何かのツンと鼻を刺す臭いがする。

  

 「数はあればあるほどうれしいけど…普段バタピーがしてる仕事とは違うと思うんだけど大丈夫?」


 「お任せあれぇぇ!」


  職人モードの鼻に付く喋り方をするバタピーをガリアの掃除道具などが入った物置き小屋に案内し、場をある程度整えると集中して作業に入るバタピーの邪魔になっては悪いので静かに小屋の戸を閉めた。



 ーーー館に戻ると普段の自分の掃除の甘いところをここぞとばかりに「そこ!まだそこも!」と鬼監督のガリアが青年たちに指示していて、戻ったことをウィンクで合図すると投げキッスでお返しをくれた。


 そんなやりとりに笑っていると、廊下の角から魔素汚れと埃で真っ黒になったハビエル他数名、天井裏の修繕チームがアルタスを探していた様子でやって来た。


「あ!やっと見つけた。天井裏大体終わりましたよ。ネズミが嫌がるフェサの液も撒いたんで暫くは大丈夫だと思います!」



 アルタスのネズミ嫌いを考慮して、優先的に作業してくれたハビエルたちに、「ありがとう!ありがとう!」と汚れた手も気にせず握手を求めるアルタスの姿にまたも村人の好感度が勝手に上昇する。


 そんなやり取りをした後、ガリアと共に皆の働きぶり見守ったり、昼食に現れないバタピーに食事を届け作業に没頭するバタピーの後ろ姿に「がんばれ」と呟いたりとしているとあっという間に一日は過ぎ、皆の撤収時間になった。


「あと一日もあれば完成しそうですね!庭は…そうですね…また春にでも木を植え替えましょうか…」


 魔法を使った作業は流石に早く、あっという間にピカピカになっていく館を満足げに庭から皆で眺めていたが未だバタピーは姿を現さず、流石に夜の森を一人で帰す訳には行かないので、今日の作業の終わりを告げに小屋へと向かう。


 「バタピー?もう帰る時間だよ……?」


 「………」


 「バタピー?」


 後ろ姿に声を掛けても反応はなく、小屋の奥へと進むと、アルタスの注文した物は見当たらず、沢山の薪の残骸とまだ荒いガタガタの木の棒の中でバタピーが顔を真っ赤にしている。


 「……木工って難しいんですねぇ…えへ…私、カッコつけたのに恥ずかしいぃ…穴があったら…入りたい……ヒィィィ!」



 そう言いバタバタと掃除道具の影に隠れてうずくまるバタピーの姿を見ながらアルタスは思う。


 バタピーは変人だ。それも頭の回転が早すぎるため周りから浮いてしまう孤高の天才タイプではなく、ただただ普通にしているだけで生活の中に生きづらさを感じてしまう不器用な生き方しか出来ないタイプの。


 だがバタピーが言っていた通りそんな人にこそアルタスは自分の作るもので少しでも楽になって欲しい。

 

 そんなバタピーだからこそ一緒に作り上げる事に意味がある。



「普段と違うことをしてるんだから初日からなんて出来なくて当然さ!これから一緒に頑張っていこう!」



 アルタスはバタピーの肩を優しく抱き、まだまだ先は長いかもしれないが必ずやり遂げようと心に誓った

 




・忙しい方向け今回のポイント


・バタピーはメイド服に憧れている。

・バタピーは魔法があまり使えない。

・バタピーの木工の腕前はあくまで一般人レベル

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