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第一章:13 戦争がはじまる

 


ーーーアルタス、変わりないか?お前の事はガリアに一任してあるゆえ心配はしていないが、まだ幼いお前には寂しい思いをさせているな。許せ。

 本題に入るが、ついに我が領にて人間との戦が始ろうとしている。春を待たずの行軍に少々後手に回ってしまったが、父は魔王様と共に必ず勝利をお前に届けると誓う。               父ーーーーーー





 ーーー徴税人が帰ったあと、受け取った父シーザーの手紙を読み、ざっくり要約すると大体こんな内容だった。

 

 何をやったらこんなに父からの厚い信頼を勝ち取れるのか不思議で隣で父の手紙を一緒に手紙を見ているガリアを覗き込む。


 「うわぁ……冬の行軍なんてやっぱり人間って正気じゃないっスよ!」


 若干、人間にトラウマがあり引いているガリアの言うことはもっともな話で、この大陸の中央を走る巨大な山脈を挟み、南北にわかれた人間領と魔族領。その北側に位置する魔族領の冬はとても寒い。


 そん中でも山脈の切れ目に位置するフォンダルフォン領は冬場になると山から寒風が吹き下ろされ、思い出すだけでも身震いするほどだ。


 そんな各種耐性や身体能力に優れる魔族ですら厳しい土地に身体的に劣る人間が冬に攻め入るのは、シーザーの手紙通りに魔族を後手に回すのが目的なのかもしれないが、それ以上にリスクが大きく思える。


 ーー春や夏に来たらいいのに、と軍事には明るくないアルタスには人間のこの行動は全く理解できないものだった。

 


 「ーーー戦争……」



 現代に残る魔法陣の存在に浮かれに浮かれていたアルタスは父の手紙を読み一気に現実に引き戻される。

 そしてフォンダルフォン領に残してきた婚約者の手紙をエディも不安そうに読んでいる。



 いよいよアルタスがこの地に来る原因となった自領での戦争が始まる……家族は皆強いが、それでもやはり不安は募る。


 暗い雰囲気が館に流れる中、ガリアはため息をつき、空気を変えるようパンパンっ!と手を叩く。


 「今回は魔王様も出陣するんスから大丈夫ッス!さぁさぼっちゃんへの手紙はまだあるっスからそっち読むっス!」

 

 こういう時のガリアのメンタルは本当に頼もしい。

父さまに魔王様までいるのならきっと大丈夫だろうと一先ず考えるのをやめ、アルタス宛に届いた他の手紙を読む事にした。


 「えーっとどれどれ…」


 アルタスに届いた手紙は父からの物を含めて三通。未開封の片方を手に持つと何故かずっしりする。


 「げっ…!兄様のだ…」


 内容は便箋何枚にも渡るアルタスへの愛が延々と書き連ねてあるだけなので割愛……


 ーーもう一通はサマリーヌさん……じゃなくて母さまか…珍しいな。


 アルタス自身は手紙を送った年上の姪っ子からの物はなく少し残念に思うが、普段こういった物を送るようなタイプではない母から届いた手紙は兄とは対照的にとても軽く

 


 アル!私の試練は順調か?それじゃ!愛してるぜ!



 紙一枚にデカデカとこれ一文とキスマーク。いつもどおり豪快な様子でなによりだが、相変わらず言葉は足りない…


 ーーー試練?そんなことは何も聞かされてはいないはずだ……?


ガリアやエディに何か母からの密命でもあるのか尋ねてみても知らないとばかりに肩をすくめる。



 「まっ!姐さんのお考えは姐さんにしかわかんないっス!」

 

 と恐らく同タイプのガリアにまで匙を投げられる始末。


 ーーまぁ母さまのことだしどうせ強くなれとかそんな所だろう…がんばってみるよ……


 兄と母の手紙は相変わらずというか気が抜ける内容で先程までの暗い気持ちも少しは和らいだ。

 代わりに家族が懐かしくなり寂しさが芽生える。



 そんな空気を察したのかガリアとエディが顔を見合わせ、アルタスの肩を抱き、そっと寄り添う。





 ーーーこの二人も僕にとってはもうすっかり家族だ。この家に寂しさはない。いつもありがとう。





ーーーーーー




 「………」


 「…………」


 「…だぁー!寝れない!」


 暖かな団欒の後、夜も更けたので寝室に戻り一人になったアルタスは暗闇の中、再び嫌な想像ばかりが巡り眠れずにいた。

 

 居てもたってもいられず起き上がり、ベッドをモゾモゾ這い出ると、月明かりが照らす窓辺へと向かい、遠くフォンダルフォン領にいる家族へ思いを馳せる。


 「えっと…こういう自分じゃどうしようもない時は

 何かに祈るんだったっけか?」


 村人達との交流により学んだ偉大なるものへの祈りをアルタスは見よう見まねで試してみることにしてみる。


 「ジュガリア様…ハーディス様…エルドロール様……あとえーと…大地よ……どうか家族をそして魔族をどうか勝利へと導いてください。」


 「………」


 「うん…やっぱりなんか違うな……」


 両手を広げ歴代魔王や自然など思いつく限り全部ひっくるめてみたがどうもピンと来ない。


 他人のことをとやかく言うつもりはないが、この祈るという行為は他人に全部責任を被せてしまっているような気がして、なんでも自分で解決したいアルタスにとっては性に合わない。


 「かと言って僕に今できる事なんてないしな…」



 ーーーせめて祈るじゃなくて何か自分で出来ることは


 ーーーせめて思いでも届いて欲しい。


 ーーーせめて自分自身の言葉で!



 「みんながんばれ!!」



 届けたい意思は、祈りによる偉大な者の力を経由させず、直接自分から届けたい。 


 ただのニュアンスの違いなだけで、やっていることは同じだがアルタスにはそれが重要に思えた。


 自身も戦うような気持ちで拳を突き出しフォンダルフォン領へ届くよう言葉を投げかける。



 「………」

 

「ははっ…!何やってんだろ僕……」



 思わずと吹き出し、気恥ずかしさにそそくさとベッドに戻り再び目を瞑ったアルタスは、まだまだ寝れそうにはないが先程よりは心が軽くなった気がした。





・忙しい方向け今回のポイント


・家族からの手紙で人間との戦争が始まることを知る。

・冬の戦争はキツイ。

・ガリアとエディは第二の家族。

・アルタスは祈りを好まない。

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