第一章:12 あるじゃん!魔法陣!
「あら!アル様おはよう!今日もガリアちゃんと仲良しね!」
「おっ!ぼっちゃん!大変だったな!でも無事でよかったよ!」
翌日、村ではおばあさんの事やアルタスの誘拐騒ぎにより遅れた納税の準備に追われ、当日まで皆慌ただしく動いていた。
夜を徹しての作業で皆疲れているはずなのに誰も責任の一旦でもあるアルタスを誰も責めたりせず、心の底からアルタスの無事を喜んでくれているようだった。
巷では『三代目魔王の生まれ変わり』などと恐れられるようになったアルタスではあったが、村人にとっては数時間話しただけの村人の死に涙を流す慈愛の心と、この歳で盗賊団を一人で討伐する優れた武勇を持つ英雄のように思われている。
「アルタス様!良かったらこれ食べてくだせえ!」
ガリアはまだ何か警戒しているのか邪念のカケラもないキラキラした目で村人が差し出す果実をサッと横取りし
「うん!毒はないみたいッス!どうぞぼっちゃん!」
甘くてうまいっス!と笑顔で食べかけをアルタスに渡すガリアに苦笑いし、これ失礼にならぬよう広場のベンチへガリアを連れて行く。
「それにしても役人の奴ら遅いっスね!ぼっちゃんに何かあったらどう責任取るつもりッスかね?」
「時間が遅れるのはしょうがないよ…それと何かあっても今度はガリアが守ってくれるんだろ?」
「ぼっちゃん…♡それはもちろんッス!」
交通の便が発達していないこの世界では時間通り物事が運ぶなんて言うことはまずない。ガリアを押さえつつ、いつ来てもおかしくない徴税人達を待ちながら村人達の働きぶりをガリアの食べさし片手に眺める。
「えっとこの村って一応うちの領地なんだよね?この量持ってうちの領まで運んで行くの?」
最近では街などでは納税は貨幣で払うことが主流だが、現金収入の少ないこの村ではいまだに現物での納税をしている。なのでこの量を運んでいくのは中々に大変そうだけど。
「…詳しくは知らないっスけどここの管理はここの領主のええと…ステンドール伯爵?様がやってるみたいッスよ。だから多分そっちに行くんじゃないスか?」
ーーーステンドール伯爵か…確かここに来る途中挨拶に寄ったがまだ若いのにすごくやり手そうに見えた。会えはしなかったが僕と同い年の娘がいるとかも言っていたな…
そんなやや複雑なこの土地を先祖たちはどういう契約を結んだのか気になるところだが、村人達の顔を見ていれば悪徳領主ではないと分かるので安心して任せられる。
ーーそんなことよりもこうやって見るとこの村の者たちは本当に働き者だ。納税の準備に並行して普段の仕事もきっちりやっている。
来年の夏の収穫に間に合わせるため今から麦の種の準備をする者やまた別の者は村全体の粉を挽くものなのだろうか?
アルタスの身長くらいある大きな石臼を両側に着いた持ち手を男二人が体全体を使いゴリゴリ汗だくになりながら回している。あれはかなりの重労働だ。
アルタスはそんな働き者で、付き合いの浅い自分を慕ってくれる善良な村人達に何か返してあげられることはないか?とボンヤリ考えながら回る石臼を眺めていた。
ーーー回る……そういえばあの魔法触媒をそろそろ…
アルタスにはあの回る魔法触媒でどうしても試してみたい仮説がある。
さらに石臼にヒントを得てもう少しで何か閃きそうな予感を感じながら過ごしていると村が騒がしくなってきた。どうやら徴税人が乗った一団が村へ到着したようだ。アルタスも村人たちと一緒に村の入り口へと向かう。
ーーーーーー
「うぉっほん!皆出迎えご苦労である。」
馬車から降りてきた徴税人は立派なチョビヒゲを生やし、でっぷりとした、THE役人!…という見た目をした男で、出迎えた村人に偉そうにしている。
そんな村人の中に明らかに身分違いの高そうな服を着た貴族風の子供を見つけ、役人はギョッとする。
「あの〜…もしかしたらですがアルタス様でいらっしゃいますでしょうか?ご勇名はかねがね…」
急に下手な態度になり揉み手で尋ねてくる。
「ああそうだよ!ご苦労様!」とアルタスが気にもせず答えると「あれが…」「魔王の…」などと後ろに控えていた護衛たちが何やらどよめいていた。
「やはりそうでしたか!お父上からお預かりしたものがございますので…こんな寒空の下ではなんですのでお屋敷にてお話を…さあさ馬車へ!」
後のことは任せたぞ!と部下に指示し、アルタスと共に馬車に乗り込み館へ向かう。
道中アルタスの興味は同乗した、いかにも強そうな護衛に向かい
「ねぇねぇ!君はどんな魔法が得意なんだい?」
などとこの村にいては滅多に出会えない強者に興奮気味に詰め寄り困らせていたが、結局濁され、不完全燃焼のまま館へ着いてしまった。
「は…はは、これはまた趣のあるお屋敷で…」
大貴族の息子であるアルタスがこんなボロ屋敷に住んでいる事に若干引き気味の役人は護衛に荷物を持たせて、応接間へ通される。
ソファに腰掛けると荷物の中から何やら箱を出し、机の上に置くと、ガリアに箱を指差し箱を開けるようにと合図する。
「いえ、当家のぼっちゃまはもう既に魔法が使えますので開封は直接ご本人から…」
と役人が来てからやけに静かで、まるで「普通のメイド」のような態度のガリアが自慢げに役人に言い放つ。
「あ…ああ…そうでしたな…いやいや本当に素晴らしい才能をお持ちで…」
後ろで控えているガリアが鼻高々にしている姿が見なくてもわかるくらい浮かれたオーラが漂う中
「それではこちらに魔力を…」
と促され箱を見るとそこには見覚えのある刻印が………
魔法陣だ!!
「こっこれ!!魔法陣じゃないか!!」
急に興奮しだし大声をあげるアルタスに役人は驚き
「まっ魔法陣…?…ああ…そういえば子供の頃、私の爺さんはそう呼んでいましたな……よくぞそんな古い言葉をご存知で……」
ーー今は魔法陣って呼ばないのか?じゃあやっぱりあの本はかなり古いものなんだな…!
「現在は魔法刻印と申しまして…ささ早くこちらへ魔力を…」
とサッサと終わらせたそうにする役人にお構いなくアルタスの質問は止まらない。
「ねぇねぇ!これってどういう魔法!?どうやって作るの!?」
「…え…ああ、これは魔力を流すと開錠して、魔力を流した者の顔と大体の位置が依頼者…今回は貴方様のお父様シーザー様に伝わる仕組みでございます……作り方は職人ではないので分かりかねますが…」
「えっ!?職人がいるの?どこに!?街に!?」
グイグイ質問するアルタスを早く止めてくれとばかりに役人はガリアを見るが、その態度が気に食わないのかガリアはスーンとして一向に止める気配はない。
「あの…まだ次がありますのでそろそろ…」
「じゃあこれが最後!!作りたいものがあるから鍛冶屋と魔力の通りのいい金ぞ……モガっ!」
「ぼっちゃま。お役人様が困っておりますのでそろそろ…」
……止める気はなかったが流石にあの魔法触媒の話はマズい。なにか余計な事を言う前にガリアはアルタスの口を塞いだ。
そしてまだ何か言いたげなアルタスに半ば無理やり箱を開けさせると役人たちは逃げるようにそそくさと帰って行った。
「なんだよ!ガリア!流石に魔法触媒のことは言わないって!」
「いーや!ぼっちゃんは役人ってモンを分かってないっス!アイツら隙見せたらどんな噂流されるかわかったモンじゃないっスよ!」
事実、ガリアの言う通り、巷では魔法陣なんて子供が知るわけない言葉を使っていた!あれは三代目の記憶をも引き継いで生まれた転生体だ!と噂に拍車がかかってしまうことになる…
ーーしかしそんなことをつゆ知らず、謎は解けなかったものの現代にも残る魔法陣の存在に大いにはしゃぐアルタスであった。
・忙しい方向け今回のポイント
・アルタスは村で人気者。
・アルタスは歯車で試したいことがある。
・現代にも魔法陣はあった。




