第一章:10 誘拐事件
「ーーへへ…!ガキが一人になるなんてラッキーだったな!んで?このガキはどうする?ブッ殺すのか?」
「っバカ!!殺してどうすんだ!お頭んとこ連れてくんだよ!それにしても誰にも気付かれねぇとはお前の雑魚魔法もたまには役に立つじゃねぇか?」
「…んっ……」
ーー何か強い衝撃を受け、気絶したアルタスがガタゴト揺れる馬車の振動と見知らぬ男女のやかましい声で目を覚ます。
ここは何処だ?確かさっきまでおばあさんの葬儀に参列していたはずだ…あの後たしかーー…ッ!
首筋に鈍い痛みが走り、思わず体が反応するが体が痺れているのか上手く体を動かせない。
ーーーそうか…僕は電撃魔法を喰らって気絶したのか、はじめてくらったが中々痛いな…
冷静に電撃魔法をくらった感想を考えられるほどに意識がはっきりしてきたアルタスはようやく自分の置かれた状況を理解する。
「……僕、誘拐されたのか…」
まだ魔法も使えぬ幼い貴族の子は犯罪者にとって格好の獲物で、アルタスが最近になるまで館にずっと篭っていたのも誘拐対策が理由の一つだった。
ーーーあまりにも平和な村だったからすっかり忘れていた……村へ連れ出してくれたガリアがこの事を気にしないといいけど……
……こんな状況で他人の心配をするやや楽観的とも言えるアルタスの態度には訳があった。
この盗賊達はアルタスがただの子供と確実に油断している。手足を縄なんかで縛っているのがいい証拠だ。
大人を拘束する時どうするかは知らないが、まだ魔法を使えない子供に対してなら縄で手足を縛るのも有効だろう。
しかしアルタスは普通ではないし、それに強力な武器も持っている。
アルタスはチラリと首元を確認し……
「…よし!取られていない」
ーーループタイに仕込まれた歯車が取られていないことに安堵する。この歯車は小型といえど思い切り当てれば肉はえぐれ、膝や顎にでも当たれば骨ぐらいなら平気で割るくらいの威力は実験済みだ。
「お前だって魔法ヘナチョコじゃねぇか!」
「うっせぇ!アタイのほうが何百倍とスゲーんだよっ!!」
今も何やら大声で言い合っている盗賊二人は先程、お頭の元へ向かうと言っていた。人数が増える前に何とか片付けたいと機を伺ってはいるものの、思ったより体の麻痺がキツい。こんな体では狙いも付けづらく、魔力を練れば暴発など不測の事態も起こりやすい。
結果的に捕まっているのだから情けない話だが、こんな人数で、子供とはいえ貴族を誘拐するという短絡的な行動を取るのは目の前の儲け話に飛びついた、素人同然の盗賊団であろうとアルタスは推測し、今はまだ気絶したフリを続け盗賊二人の様子を伺うことにした。
「なあなあ!やっぱり貴族のガキ拐ったら身代金で俺たち金持ちになれるかなぁ?」
「ばーか!あんなボロ家に住んでるガキなんざ大した金になんないよ!!まぁでも一応貴族だからな…それなりに遊べるカネにはなんだろ?」
ーー確かに今はボロ家暮らしだがこれでも実家は大貴族だ!失礼な!
思わず口に出そうになるがグッと堪える。
ーーそれにしても家を出る時からつけられていたのか…今日は魔素が乱れていたから全然気付かなかった……
普段のガリアだったら家を出た瞬間に気付いただろうが、今日は色々とイレギュラーが重なりこの盗賊団は正に千載一遇のチャンスを掴んだと言えるだろう。
「おい!ここだ!ここだ!馬車を隠して山から行くぞ!」
なにやら目的地に着いたらしい二人は茂みに馬車を止め適当に草をかけ隠しはじめるが……バレバレだ……こんな杜撰な偽装すぐ見つかるぞ……
「よぉし!完璧だ!」
ーーやめてくれ!こんなのに拐われたなんて知れたら僕と逃したガリアの評判が地に落ちる!僕が計画を立ててやるから少し待て!!
別の意味でアルタスが焦っていると男がヒョイとアルタスをかつぎ二人は草をかき分け獣道を走っていく。
「なぁおい!このガキ担いで山のぼんのツレェよ!お前変われよ!」
「はぁ!?ロクに身体強化も使えねぇのか?ほんっと使えねぇ!それにアタイは頭脳担当なんだからお前が運べっ!」
自分たちの弱点をベラベラ喋る自称、頭脳担当の話に耳を傾け、さっきからこちらを気にせず走る男のせいで顔にペシペシ当たる木の枝の痛みに耐えながら、治り次第奇襲をかけようと手に力を込めて麻痺の具合を確認していると……どうやら盗賊たちのアジトらしい山小屋に着いてしまったようだ。
ーーー街道まで約十分。あまり隠れる気もないらしい。帰りは楽でいいが……
「はひー!疲れた〜!!」
汗だくになりながらアジトに入ろうとする二人にバレぬよう、薄目で辺りを確認するが、見張りがいない?まさか…
「お頭ぁ!上手く行きやしたぜ!」
男が小屋を勢いよく開け、アルタスを雑にその辺に置くとムワッとした獣臭と共にいかにも山賊な見た目をした片角、眼帯の男が一人で居る。少人数だとは思っていたがまさか本当にこれで全員なのか?
アルタスが衝撃を受け改めて自分の不甲斐なさを噛み締める。
「おう!やったか!!テメェらちゃんと脅迫状は残してきたろうな?」
「きょうはくじょう……?ええと…そんなん村の監視のために置いてきたあの新入りが……あっ……」
そう言った手下の男が上着から汗でくしゃくしゃになった脅迫状を取り出した。
ーーおいおい正気か!?脅迫文も残さず来たのならもしかして僕、おばあさんのことがショックでただ失踪しただけみたいな扱いになってるんじゃないか?
最悪の場合、金の受け渡しの時にガリアとの挟み討ちを考えていたアルタスはこの盗賊団の思った以上のマヌケさにこの状況を一人で何とかしなくてはならない事を覚悟する。
「こん…の……大バカ野郎!!それがなきゃどうやって金の受け渡しすんだ……よ……ん?ちょっと待て!このガキ今動いたぞ?」
流石お頭!よく分かってる!とつい頷いてしまったアルタスに、お頭は思い切り腹に一撃、ドン!と蹴りをきめる
「おい!ガキ!ビビってるからって寝たフリしてんじゃねぇ起きろっ!」
今までのなんともユルい雰囲気でナメていたがこいつらは子供にも容赦なく危害を加える正真正銘の悪党だ。無防備な所に入れられて、骨は折れてはいないようだがかなり痛い。認識を改めちゃんと対処しなくては…
「ーーーグゥ…カハッ!カハッ…!……それ…で…僕を…どうするつもりだ?」
「ああ!?どうするって?あー……そうだテメェ!こうなったのもテメェの責任だ!もう一回村行って脅迫状置いてこい!!」
痛みに咳き込みながらアルタスがお頭を睨みつけ質問するとお頭は部下の男を指差し再度村へ行くよう指示を出す
「いっいやだ!今戻ったら確実に村の連中に袋叩きにされちまう!俺は絶対行かない…ぞ……!!ぐあっ!」
首をブンブン横に振り頑なに拒否する男をお頭は思い切り殴りつけるが、怒りの収まらない様子で
「ああ〜!!この糞馬鹿どもと組んでもなんっも上手くいかねぇ!!もうこうなったらこのガキブッ殺して全部無かった事にするしかねぇか!?」
ーーー短絡的な分、かなりタチが悪い……!本当に何をしでかすかわからない!あとちょっとで体の痺れも取れそうなのに…何とか時間を稼がなくては……
「……そんな!殺さないで!僕は家で大切にされているからきっと君たちが納得する金額は払うはずだ!」
「……ああ?このガキ殺されると分かったら急にしおらしくなりやがって!!まず脅迫状が届いてねぇなら金もクソもねぇんだよ!!」
アルタス渾身の怯える子供の演技にお頭は聞く耳を持たない
「…じゃあ僕を村に連れてって直接交渉するのは?僕は決して後を追わないよう約束するから!ね!」
「……そんなモン信じられるワケねぇだろ!!さっきからいい加減なことばっか言いやがって!!やっぱりもうテメェをブっ殺すしかねぇんだよ!!」
ーーー勢いよくアルタスに掴み掛かろうとした瞬間お頭は顎から骨が割れるような嫌な音と共に強い衝撃を受ける
「ッ〜〜ーー!!!」
余りの痛みにのたうち回ると視界の端、先程まで縛られていたはずの子供がスルリと縄をほどき、暗闇の中、謎の音とともに青白い光を発する何かを纏いながらこちらを見ている。
「ーーーじゃあ……もう君達を倒して僕は帰るよ……」
間一髪麻痺が取れたアルタスはそう言い放ちと歯車は回転させお頭の膝あたりをめがけパキャ!パキャ!っと再度、骨の砕ける音を響かせた。
「大人を拘束するのってどうやればいいかわからないからごめん…こうするしか方法がわからないんだ………」
後ろでこの光景を見ていた女は薄暗闇で道具を使っているとは気付かず、一瞬にして未知の魔法でお頭は無力化されたと解釈し、小さく悲鳴をあげ、錯乱気味に火魔法を発動させた。
アルタスはそれに驚き一瞬魔力の制御を失ってしまったが、火魔法が歯車に当たり魔力を吸い込み炎を纏って再び回りはじめる。
「…!?」
「なるほど…!そうか……!これは属性魔法でも回るのか…それにエンチャント……こんな初歩的な事見落とすなんて僕もうっかりしてたな…」
自分の魔法も逆に手玉にされ炎を見つめ何やらブツブツ言いながらニヤけている少年に盗賊たちはすっかり恐怖し、部屋の隅に固まりブルブル震えている。
「おえひゃちがわるかっひゃ……!もうひゃめる!!だかりゃ!ゆるひてくりぇぇ!!」
割れた顎で涙ながらに命乞いするお頭にアルタスはバツが悪そうに頭を掻くが容赦なく歯車を回し近寄り
「こう言っては何だけど新たな学びがあって君達には感謝する所もある……でも…ここネズミ出がそうで……!だからごめん……!」
「…なるべく痛くないようにするから……」
「………!!」
「……!」
「!」
「「〜〜〜〜ーーーーー!!!!!!!」」
ーーーこうして夜の森には盗賊の悲鳴が響き渡り、アルタスは無事生還を果たしたのであった。
・忙しい方向け今回のポイント
・アルタスは誘拐された。
・誘拐犯はマヌケ。
・歯車は属性魔法でも回る。
・アルタスは誘拐犯をやっつけた!




