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第一章:9 風が吹く日に


「……ふぁ…おはよッス〜…」


「もう!遅いよガリア!掃除はしておいたから早く準備してよ!」


「…はいはい!もー…朝メシくらいゆっくり食わして下さいッスよ〜」




 翌日、もはや当たり前のように主人に掃除をさせ、寝坊するガリアが図々しく朝食をとっている。


 そんなガリアをエディが怒り、冷めた朝食を食べるこの姿はもうこの館の朝のお決まりの風景となっているが、そんな中に今日は村に行きたいアルタスからの催促もあるのでこの館は朝から賑やかだ。


「僕がおばあさんの話聞いてる間ガリアはどうするの?一緒に話聞く?」


「…うーん…自分ばぁさんの話は興味ないっスからあそこの家のクソガキとでも遊んでやるッス」



恐らくこの間おばあさんと一緒にいた女性の息子のことだろうが、『遊んでやる』なんて偉そうなこと言っているがガリアも楽しみそうな顔をしている。他人の家のお子さんをクソガキ呼ばわりはよろしくないが…



 ーーガリアの朝食終わりを待ち、二人が今日の予定を立てているとエディが手提げ袋をもって食堂に顔を出す。


「今日はぼっちゃん夕方まで村に行くんでしょ?昼食多めに作ったんで世話になる家のモンと一緒に食べてください!」


ニカっと笑うエディに、相変わらずできた男だと感心していると、ガリアが朝食を終え顔をパンッ!とひと叩き。


「さっ!村にいくっスか!」


とすっかり目覚めた様子でルンルンと準備をはじめていた。



ーーーーーー



「んお…?今日は風が強いっスね、ははは!見てください!魔素があんなに渦巻いてるっスよ!」



外に出ると今日は風が強く、少し肌寒い。そして魔素が当たり前に見える魔族からすると風で流されザワついている魔素が視界の邪魔になる。



「ぼっちゃんコレ羽織って…ーーうげっ!またぼっちゃんこんなモン着けて!」

 

 ガリアが持ってきた上着をアルタスに着せようとすると首元にキラリと光るもの……またあの魔法触媒だ。


 近頃アルタスは五つある歯車の内、最も小さいものをループタイの飾りとして身につけている。


「ふふん!いざという時の護身用にね!」


「その状態で魔力込めたら首締まるッスけどね…」


 「それは考えてなかった!まだまだ改善のよ…ちがぁ……くしゅん!」


 アルタスが魔法触媒タイの思わぬ弱点にショックを受けていると、冷たい風が吹きアルタスがくしゃみをする。


「はは…今日はホント寒いッスね…そろそろ街に行ってぼっちゃんの冬支度しないとッスね!」

 


 街か、ちょうどやりたいこともあったし行ってみたいな。

 

 最近まで館に篭りっきりで楽しい事と言えば本を読む位のもので、こんな場所から早く出て行きたいと思っていたが、ここ最近、アルタスは徐々に広がって行く自分の世界にワクワクし、この地で過ごす時間が好きになっていた。


 これも全部最初に無理やりにでも外へ連れ出してくれたガリアのお陰だなとガリアに微笑みかけると


 「んー?何ニヤニヤしてんスか?自分歯になんか挟まってるっスか?」

 

と歯をイッと見せるガリアに対し


「ああ!ベーコン挟まってるよ!お先!」


と楽しくお喋りしている間に着いていた村の中へと駆けていった。



ーーーーーー


「……あれ?今日は人が少ないな」


 村は普段から閑散としているが、今は納税に向けてみんな忙しく働いているはずだ。チラホラと働く者もいるが、皆疲れているのか、顔が暗い。


 一度家に行ったことのあるガリアの案内の元、しばらく妙な雰囲気のなか村を歩いていると、一人の男性がこれまた暗い顔で向こうからやってくる。その男性はアルタスを見ると驚いたような顔をし、


「ーーアッ、アルタスさま…!?ようこそお越しくださいました。きょ今日はどのようなご用で?」


「え、ああ、お祭りの時話したおばあさんを訪ねに…」


それを聞くと男性はなぜか目を丸くし


「…そうですか…それは…ばあさんも喜びます……」


と軽く会釈だけして去って行った。気のせいかすれ違う時男性は涙ぐんで見えた


 この村に自分は何かしてしまったのか?と少し不安になりながらもおばあさんの家に着くと、前に人だかりが出来ている。アルタスが近づくと村人達はどよめき、先程の男性と同様に驚いているようだった。


「…みんなこんなに集まって何かあったのかい?」



「……えっ……ええ…その…今朝早くここのばぁさんが死んじまって…あ…ポリンナ…!」



 歯切れ悪い村人の言葉にアルタスが理解できずボー然としていると、家の奥から孫夫婦、そしてガリアがクソガキと呼ぶ子供が出てくる。


「ーーああ……!ニネア様……!」


  ポリンナと呼ばれた女性はそう言うとその場で泣き崩れ、子供はガリアの顔を見るなりすでに泣きはらした顔で飛びつき


「ニセガリア……おばあちゃんが……!おばあちゃんが!」


 更に勢いよく泣き始めてしまった。


「……馬鹿野郎…こんな時までニセガリアって呼ぶんじゃねぇよ…」


 ガリアは口調こそ荒いが、鼻水まみれで抱きつく子供の頭を優しく撫で、アルタスはポリンナの背中をさすりながら無言でその姿を見つめていた。



 「ーーごめんなさい、つい取り乱しちゃって…」


 しばらくしてポリンナは涙をぬぐい、弱々しい笑顔を浮かべ、アルタス達を家の中へと案内する。

 家の奥、ベッドに寝かされていたおばあさんの顔を見るとまるでただ眠っているだけかのようでとても穏やかな表情をしている。


 それとは対照的に唐突な状況にアルタスの頭の中はグチャグチャに荒れ、


 そんな!こんなタイミングで…それじゃあまるでこのおばあさんは本当に…本当に僕に会うためだけに生きていたみたいじゃないか!それじゃあこうなってしまったのは……



「僕の…せいだ……」


 涙と共についこぼれた周りが聞けば何か勘違いしてしまいそうな言葉に、ポリンナはまた涙ぐみ、優しくアルタスの手を取りポツリポツリとおばあさんのことを語り出す。


「いいえ、アルタス様。あの時一緒にいた私には今アルタス様が今、何を考えていらっしゃるか分かります……でもそのお考えは違います…」




「ーーーおばあちゃんは自分の息子、つまり私のお父さんを先に亡くしちゃってから随分元気がなかったんです……でもアルタス様がこの村にやってくるって聞いてからおばあちゃん日に日に笑顔が増えて………」


「昨日も…おばあちゃん寝る前に…『これでニネア様の所へ迷わず行けるわ』ってね…すごく安心してた。アルタス様が導きになってくれるからって……」


「だからあの時おばあちゃん、会うことが自分の役割って言ってたけど本当は逆…あなたに会って自分自身が救われちゃってたの…」




 魔族には神や天国といった概念はないが、とある理由により、死後の魂や生まれ変わりと言うことが信じられている。おばあさんはニネアの子孫であるアルタスが自分の前に現れた事により、きっとニネアの転生体が自分を迎える環境を整えた合図だと思ったのだろう。

 

 そんな迷信じみた考えにはなるが、とにかく彼女の長い人生での最後の瞬間は安らぎに満ちていたに違いない。



「それなら……僕に伝えてくれればよかったじゃないか……」

 

「ただの村人の事を貴族様にお伝えする事なんて出来ませんから……でもまさかこんなタイミングで来ていただけるなんて……これはきっとニネア様のお導き…これでおばあちゃんの魂は絶対に迷わない…」




「ーーおばあちゃんは幸せ者です…だからアルタス様…最後は…笑って見送ってあげてください…」



「…………」


 アルタスは笑えはしないがグッと涙を拭き、それを見たポリンナは涙のまま笑う



 ーーーそんなやりとりをしている間、ポリンナの夫と数人でベッドのシーツごとおばあさんを布で包んでいく。


 魔族の葬儀はシンプルだ。ただ遺体を焼き、土に還す。墓などはなく、持たせるものは魂が次の体へ入るまでの旅の食料を少しだけ。


 おばあさんの遺体を皆で運び出し、森の手前、この村で亡くなった者を弔うためのひらけた場所へ移動する。そこにすでに組み上がっていた木に藁を敷き詰めた焚き火台におばあさんを寝かせ、男性が火魔法で松明を灯し、それを皆へと配っていく。


 「アルタス様もよろしかったら…」


 松明を手渡されアルタスが揺れる炎を見つめていると、ポリンナ一家が前に出て火を付ける。それを合図に皆も感謝や別れの言葉を口々に火を放る。アルタスもそれにまじって火に焚べる。



 火をつけると今日の強い風に吹かれて、あっという間に炎は燃え上がる。


 灰が宙を舞い、魔素と混ざりあって遠くに運ばれ消えていく……それを見たポリンナは遠くを見ながら




 「……きっとおばあちゃんは遠くに旅するために風の強い日を選んだのね…」


「…まったく、僕のひいおばあさまは長い事待たせて、どれほど遠い所へ転生したんですかね?」



 ポリンナと二人、フッと笑い合い、アルタスは隣、無言で寄り添い、何かを思い出すかのように火を見つめるガリアに少し一人になりたいと断りを入れ森の中へ入って行く。




 ………ニネア様ひどいじゃないか…僕に役割だ何だとよく分からないものだけ意識させてさっさと連れていってしまうなんて……もっと話を聞きたかったし、もっと話を聞いてほしかった………もっと………!



 人目に付かぬよう、木の影に隠れ、泣き崩れるアルタスの前を風に乗った灰がやってくる。

 

 その灰はまるで迷っているかのようにフラフラと風に漂い、どこか迷うようにアルタスの周りを舞う。

 


  「…ダメだっ…!僕のところへ来ちゃ……!」



 ……長い人生色々あったであろうおばあさんの最後をこれ以上僕のせいで惑わせてどうする……………きっと僕にはあの言葉をもらった事が重要なんだ…ここからは自分で考えなくてはいけないんだ……立ち止まってはいけない!



 「ーーーーっありがとう僕は大丈夫……もう大切なものはもらった……!迷わず!ニネア様の元へ……!」



 アルタスが精一杯ニコッと笑顔を作り、そう言い放つと、再び風が吹くと灰は嬉しそうに少し傾きはじめた日の光のなかへとまっすぐ消えていった。



 風に消えていく灰に伸ばしかけた手を引っ込め、皆の元へと戻ろうとアルタスが立ち上がった直後ーー





ーーーバチっという音と鋭い痛みを感じる






 ーーーーアルタスが覚えているのはここまでだ。



・忙しい方向け今回のポイント


・アルタスは護身用に歯車を身につけている。

・おばあさんの葬儀に出席。

・魔族は生まれ変わりを信じている。

・アルタスはまた一つ成長した。

・アルタスは気絶した。

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