第一章:8 はっちゃけぼっちゃん
ーーー…マズい…ひっじょーにマズいッス……
村の収穫祭から一週間。ガリアの思惑通り元気を取り戻してくれたアルタスが庭を走り回っている。
「あはは!あははは!あーっはっはっはっは!」
ーーー…ただ少しぼっちゃんは元気になりすぎていた…
何かが吹っ切れたようなアルタスは、パッと見、相変わらず好きな事をやっているように見えるのだが、なんというか自分のやりたいことに躊躇がなくなり、言うなれば年相応のやんちゃになったのだ。
些細な変化に感じるがこれが意外と問題で、ガリアは頭を悩ませる。
もしアルタスが普通の子供であったならやんちゃも可愛いものだろう。
しかし、残念ながらアルタスは普通の子供ではないのだ…
今も例の魔法触媒を胸元でギュルギュル回し、遠くにおいた薪に思いきり放り投げ、粉々にする危なっかしい遊びをしているかと思いきや
「きゃっほー!いや違うな…キャッホー!うーん…」
と、謎にはしゃぐ練習までしているほどにハイなアルタスだ……
ーーー…基本的に戦場育ちでぼっちゃんファーストなガリアは多少の危なさや子供らしくはしゃいでくれるのは大いに結構なのだが……マズいのはあの態度だ。
「ガリア!これを見てくれ!」
今も無属性魔法で持ち上げた魔法触媒を放り投げてはまた無属性魔法でキャッチする技を自慢げに見せてくる。
ーーー…最近どうもぼっちゃんはこの魔法触媒を隠す気がないらしいのだ。
先日、薪を取りに来たエディにこの魔法触媒を使っている所をついにバレてしまい、珍しくこっぴどく怒られたのだが全く反省した様子はなく、むしろエディに「これを投げてみれば分かる!」
…などと、あの魔法触媒の良さを力説し、エディを困らせていたほどだ。
「ハァ…何でこんな事になっちゃったんスかねぇ…」
ーーー…村から帰ったアルタスは何か吹っ切れたことでの心境の変化か、魔法の扱いをメキメキと上達させていた。
最近は小さいながらも水魔法をしっかりと球体にできるほど魔力の操作はお手のもので既にガリアを超えているかもしれない。
だが肝心の威力が出ない…ーーー
そこでアルタスが苦肉の策で考え出したのはこの歯車を使った魔法攻撃でありガリアが焦る原因だった。
「もうちょっと距離が出せればもっと強力になるのになぁ…ーー…いてっ!」
今も足りない魔法出力を補うために無属性魔法を細く絞りすぎて重さに耐え切なくなった歯車を足の上に落として悶えているアルタスにため息をつく。
以前のアルタスのようにコソコソと使い方の研究のようなことをしているのは不気味ではあったがまだいい。
何故、突然こんな攻撃魔法のような使い方をし始めたのかアルタスへ問いただした所
「だってかっこいいから!」
……と、知性ゼロの顔で言われた時は流石のガリアも絶句するしかなかった。
ーーー…そこでいままで壁にぶち当たり悩むアルタスをこれ以上傷つけまいと黙っていた『魔族が魔法触媒を使わない理由』なのだが流石に今の何をしでかすか分からないアルタスには一度釘を刺すつもりでガリアは理由を明かした。
魔族が魔法触媒を使わない理由…
それは『恥』だ。
魔族が人間のように道具に頼って魔法を使うなんて自分の実力に自信がなく未熟だ、と、いういかにも人間を見下し、発展を阻む古い考えなのだが、魔族の間ではこれが共通認識で当たり前のことだ。
こんな事を言われたら以前の貴族然とした頃のアルタスだったら即、己を恥じてやめていただろうが時すでに遅し…
「へーそうなんだ!じゃあ実家に帰るまでには何とかしないとな〜あっはっは!」
と、平然と言ってのけ伝家の宝刀貴族の恥が効かなくなってしまいガリアは愕然とした……
まずい…まずいっス…シーザー様に怒られるッス
アルタスはどちらかといえば、柔和でいかにも将来は女性と浮き名を流す優男のような雰囲気だが、父シーザーは辺境伯と言うだけあって人間との国境を防衛する要とも言えるガチガチの武闘派で、知らぬ者がみればこの人が魔王か?と、思ってしまうほどの独特な威圧感がある人物だ。
ーーー…そんな厳格で貴族の中の貴族であるシーザーに万が一、己の息子がまさかそんな『恥』をさらしてヘラヘラしているなんて知られれば、今まさに愛らしい笑顔をこちらに向けているぼっちゃんにも何か大きな罰が下されるかもしれない。
ーーー…そしてガリアは下手すれば首が飛ぶかもしれない。比喩ではなく物理的に……それだけはなんとしても避けなくては…
「はぁ…自分マジでアレをあげたの後悔してるっス…こうなったら魔法の先生でも送るようシーザー様にお願いするしかないッスかね」
自分が在庫処分くらいの軽い気持ちであげたものがまさかこんなに自分の首を絞めるとは…
もうアルタスをあの魔法触媒から引き離すにはアルタス自身が納得するほど魔法を上達させるしか手はない。
……しかし自分にはアルタスにはこれ以上魔法で教えられることもない。
そんなアルタスに今必要なのは魔法が教えられて、尚且つあの魔法触媒の謎にも少なからず答えられる、そんな戦場を渡り歩いた歴戦の魔法の使い手を連れてきてもらう他ない。
……もっともこんな最低限の人数でこの地へ来させるほど逼迫した状況下でそんな都合のいい人物送ってはもらえるとは思わないが…ーーー
「ーーー…手紙…ああ、そういえばぼっちゃんお手紙はちゃんと書いてるッスか?」
「手紙?……ああ、父上たちに?でもなんで今?」
「収穫祭があったんスからもうすぐ徴税人が来るっスよ!多分ご家族からの手紙も一緒に持ってくるからそん時ぼっちゃんもお手紙渡したほうがいいっスよ!」
「ーー…っ!父さまからの手紙?やった!僕も書かなきゃ!」
普通の子供宣言を心の中でしたアルタスではあったもののやはり父への憧れは捨てられず、手紙が来るのは嬉しい。
アルタスは回る歯車への魔力を止め手紙を書くため屋敷の中へと駆けて行く。
「…変なこと書かないといいけど…うん。内容はチェックしなきゃいけないッスね」
そう呟きガリアはアルタスの後を追って行った…ーーー
ーーーーーー
「ーーー…えっと、父さま…母さま、サマリーヌさんに……後から騒がれるのもめんどくさいから一応兄さまにも書くか…」
「うーん…まずは戦争がどうなったかでしょ…?魔法触媒の事は書けないし……いざ書こうとすると中々内容って決まらないな…」
書斎にて手紙に書く内容に頭を悩ましているアルタスのそんな発言にガリアは驚いた。
「ーー…えっ!?ぼっちゃん、ちゃんとアレの事書いちゃいけないって分かってるんスか!?」
「……?だってガリアが恥だって言うし流石に父さま達には言えないよ。僕はガリアやエディを信頼しているからああやって練習してるだけだし。」
「え、あ、そッスか…」
ーーー…なーんだ、はっちゃけてはいるけど、ぼっちゃんは賢いぼっちゃんのままっス!
「なーんか自分、心配して損しちゃったッス!」
ーーー…単純なガリアはすっかり安心し、アルタスからの信頼に頬を綻ばせながらお茶を飲んでいたところ、突然アルタスが変な質問を投げかけてくる。
「ーー…ねぇ…ガリアは自分の役割ってなにか考えたこと……ある?」
「へ?役割?うーん…自分の役割はぼっちゃんの可愛いメイドさん♡……てかそれ以外なんかあるっスか?」
ーーー…その場で生きてその場で死ぬ。
そんなある種、獣じみた考えのガリアには突然役割だ何だと言われても随分難しいことを考えてるんだな位の感想しか湧かず、なぜそんな考えに至ったのか聞いてみる。
「ーー…この前そんな話を聞いたんだ…これは手紙に書いていい話だと思う?」
「…いいんじゃないっスかね?よくわかんないけどポエミーでなんか頭良さそうに見えるっス!」
ポエミー…そう言われると急に恥ずかしくなり、書くのはやめよう…と思った時、ふとある本を思い出し書斎をぐるりと見渡す。
ーーー…そういえばおばあさんはこの屋敷はずっと放置されていたみたいな事を言っていた。
と、いうことはずっとこの書斎にある本は父さまの本ではなく実はひいおばあさま…えとニネア様?だっけ?の物って事なのか?
ニネアの本だというならあの妙にポエミーな歴史書が二代目魔王時代までしかないことも納得できる。
「じゃあこの本も…」
アルタスは一冊の本に手を伸ばす。
ーーー…魔法書。
この書にかかれている、魔法陣や詠唱という結局謎のままの正体をアルタスは考える。
ーーー…もしかしたらこれは遥か昔、時代の中に埋もれて消えてしまった何か特別な魔法なのでは無いだろうか?
そんなロストマジックを自分が使いこなす姿を考えるとロマンを感じ男の子としてはワクワクしてくるものがある。
ーーー…そうなると今謎の答えに一番近いのはその時代から生きているおばあさんだ。
使えないにしても何かヒントになるような事は知っているかもしれない。
そう考えを巡らせると段々いてもたってもいられなくなり……
「ーーー…ねぇ!ガリア明日おばあさんのところ遊びに行かない!?」
突然立ち上がるアルタスにお茶をボーッと飲んでいたガリアは驚き
「ーー…うっ!ごほっごほっ!…おばあさん……?ああ、あのパーシモンくれた長生きばあさんっスか?」
どうやら以前ガリアにパーシモンを渡してくれたのもあのおばあさんだったらしい。
出会う前からよくしてくれていたんだなと、心に温かいものを感じながら明日を楽しみに手紙を書き、その夜は更けていった…
・忙しい方向け今回のポイント
・アルタスはハイになっている。
・アルタスは歯車を武器にした。
・ガリアは魔法の先生を呼ぶ事を決意。
・魔法陣はロストマジック?




