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駿河血風録  作者: MIROKU
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 翌日の朝食はおたまが準備した。昨夜は船宿で幾つも失敗したらしい。

「これも花嫁修行のうちだべ!」

 おたまは鼻息荒く言った。今の彼女は多少の困難にはくじけない。

 玄蕃もまた生還していた。彼はおたまが準備した朝食を、目の色を変えて平らげていた。

 そんな二人を横目で眺めて、助九郎はニヤニヤしていた。

 朝食を終えた七郎は助九郎を誘って道場に来た。

「――真田の者、どうやって忠長様を動かすのだ」

 稽古袴に着替えた七郎は、道場で助九郎に問う。

「もしも、政宗公の手引があったらどうします」

 助九郎は道場で七郎と組み合った。無刀取りの稽古だ。

 無刀取りとは戦場における組討術の事だ。

 槍が折れ(折れた槍を扱う技が杖術の基になったという)、刀も失った時、最後は自分自身を武器にするのだ。

「政宗公の手引……」

 七郎は助九郎の小外刈りで足を払われ、道場の床に背中から落ちた。目にも留まらぬ早技だ。

「左様、すでに政宗公の使者は何度も駿河を訪れております」

 助九郎は七郎の肩関節を極めて抑えこむ。脇固めだ。

「そ、そして遂に真田が……」

 七郎は助九郎が脇固めを解いた瞬間、素早く体を起こした。

 助九郎も素早く身を離している。二人の稽古は、後世の柔道のようだ。

「あの大男は護衛ですかな」

「他にも老人と娘がいた、あの娘は……」

「お嬢と呼ばれておりましたな、という事はまさか……」

 助九郎が拳で打つ。七郎は弧を描く足さばきで拳を避ける。

 更に七郎は踏みこみながら前蹴りを放つ。今度は助九郎が弧を描く足さばきで蹴りを避けた。

「は!」

 七郎は右肩から体当たりをしかける。

 助九郎も右肩から体当たりをしかけた。

 二人は互いにぶつかりあい、身を離す。

「真田の遺児…… か」

 七郎は大きく息を吐き、道場中央で助九郎と向かい合う。

 助九郎も呼吸を整え、身構えた。

 互いに本気ではない。戯れだ。

 打つ、蹴る、当たる、組む、崩す、投げる、極める(間接技)、絞める。

 それらが流れる水のごとく繋がって敵を制する。

 無手にて刀を手にした敵を制する、それを無刀取りという。

 その技術は後世の柔道に受け継がれている。

「遂に親玉が出てきたという事ですな」

 助九郎はニヤリと笑った。

 駿河大納言忠長の剣術指南役であり、この地の密偵を束ねる元締めだ。

 その助九郎は明日をも知れぬ任を帯びているが、不思議に悲壮感はない。

 いや、むしろ死地にある事を楽しんでさえいるようだ。

「真田の遺児が…… 政宗公の名代として駿河に来たのか」

 考えたくもないが三者が結びついた時、七郎には悪い予感しかしない。

 天下が乱れ、再び戦国の時代がやってくる予感だ。

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