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七郎と玄蕃は駿河に入り、木村助九郎の屋敷に来ていた。
「ほう、若も立派になられましたな」
助九郎は厳つい顔に微笑を浮かべた。
七郎の父、又右衛門と肩を並べる兵法の達人、木村助九郎。
彼は駿河大納言、忠長の剣術指南役を務めていた。
「玄蕃といったか、長旅ご苦労」
「ははっ」
玄蕃は畳に平伏した。
伊賀忍びである江戸城御庭番の一人、玄蕃。
彼は手柄を立てれば武士にするという又右衛門の言に従い、駿河へと来たのだ。
「で、そちらの娘さんは?」
「おたまだ」
七郎は助九郎に言った。
「おたまだべ!」
七郎と玄蕃の二人の後ろで、おたまが畳に額をこすりつけた。
彼女は結局、飯盛女はやめた。
宿の者とは玄蕃が話をつけた。
「お、おら、一生懸命働くべ、ここに置いてほしいべ!」
おたまは家を追い出されて飯盛女になった。
貧しい村で育った彼女は、口減らしに家を追い出されたのだ。
そんなおたまに玄蕃は思うところがあるのか、彼女に同情的だ。
玄蕃もまた又右衛門に嘆願して、この度の任務についた……
「うむ、若もやりますな、早くも嫁を見つけましたか」
「よ、嫁だべか!」
「嫁? そんなつもりはないが」
「よ、嫁にするつもりだったのですか、七郎殿!」
「お、おら、嫁になって働くべ、赤ちゃんも産むだよ!」
「はっはっはっ、にぎやかでよろしいですな若」
助九郎は楽しげに笑った。おたまのおかげで彼らの気は軽くなった。
明日からは命をかけねばならぬ。