表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駿河血風録  作者: MIROKU
1/19

1 武への洗礼

「参れ!」

 父の又右衛門は木剣を構えた。

「おう!」

 幼い七郎は木剣を手にして、父の又右衛門に打ちかかる。

 全身全霊を振り絞る、その一瞬が七郎の全てだ。

 七郎の幼くも鋭い打ちこみを、又右衛門は木剣で横に打ち払った。

 次の瞬間には、又右衛門が放った突きが七郎の顔を襲っていた。

 七郎が悲鳴を上げて木剣を取り落とした。

「し、七郎!」

 又右衛門も木剣を手放した。

 七郎が右手で抑えた右目からは血が滴り落ちていた。


   **


 青年に成長した七郎は、玄蕃と共に旅籠に入った。

 目指すは大納言忠長の治める駿河の地だ。

 尚、七郎は幼い日の兵法修行で右目を失っていた。

「飯盛女にお気をつけください」

 玄蕃は言った。

(飯盛女? 飯を盛ってくれる女?)

 七郎は飯盛女を知らない。

 三代将軍家光の御書院番(いわゆる親衛隊)として城勤めしてきた七郎。

 若いとはいえ、城勤めの長い彼は世間知らずすぎた。

(うーむ)

 旅籠の広間で七郎は玄蕃と共に食事する。

 麦飯、味噌汁、焼いた川魚に薄い茶。

 貧相な御膳も腹の空いた七郎にはご馳走だ。

 そして彼の隣には飯盛女が座していた。

 まだ二十歳にもならぬ娘が、何やら真剣な眼差しをしていた。

 後で知ったが、娘はこの日が飯盛女の初仕事であった。七郎は娘の初めての客だった。

「……食うか?」

「え、な、何を言うべ」

「腹が減ってそうだ」

「ま、まあ……」

「ほれ、あーん」

「あ、あーん」

 唐突に始まった茶番に広間は静まり返った。

 それは七郎が飯盛女を餌付けしているようでもある。

 まだまだ殺伐とした世の中で、なんとも微笑ましい光景ではないか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ