第二話 踏み込む
一年以上投稿を開けてしまいました
「はぁぁぁ!!」
魔力を刀に纏わせ、魔物達に放つ。
その一振りで、数えてるのも億劫になるほどの魔物達が両断された。
「グガァァ!!」「しまった!」
目の前の魔物達に気を取られ、背後の大鬼に気づかなかった。
大鬼が醜悪な笑みを浮かべ、その拳を振り上げる。
――その瞬間、大鬼の腕と頭が"光"によって消し飛ばされた。
「助かったよ、姉さん」「後ろの魔物にも気をつけなきゃだよ、蒼」
優しく、それでいて強き姉の話を聞きながら、僕は目の前の強大な魔物に目線を向ける。
大魔 悪空蛾だ。
牛の頭蓋に獣の胴体、巨大な二対の蛾の羽を持つソレは、悍ましい魔力を纏わせながら此方に羽ばたいてくる。
―――なんだ?
何故僕はここに居る?
僕は追放された筈だ、何故姉と一緒にいる?
疑問に思いつつも、荒々しく波打つ魔力を刀に込める
そうして僕は、必殺の一撃を向かってきた悪空蛾に放った。
―――違う。放てない
放つ両腕が無い。
「?!ぐぁぁぁぁ!?」
気づけば僕の両腕は無くなっていた。
刀を振る腕は無く、刀すら握れない見苦しい姿
―――そうだ、見苦しい。
才能も何も無いのに剣を振るって怪我をした。
そんな見苦しい姿が自分だった。
息が出来ない、どんどん視界が狭まっていく。
真っ暗になって、何も見えなくなって、それで
「………嫌な夢」
そこで目が覚めた。
あの日、島を追放された後、気づいた時にはこの宿の一室に居た。
――ガイン大陸、それは広大な土地を持つ大陸。
その海辺の街ジーム。そこが今、僕のいる場所である
蒼は用意されていた朝食を食べ、簡単な運動を行う。
それが終わったら刀を持って席を立つ。
餞別として貰った一振りの刀。それを持って今日も僕は仕事へと向かった。
「おい…見ろ、魔力無しだぜ」
「……ほんとだ、魔力が一切見えない」
「何処かに行って欲しいな…俺の魔力まで消えたらと考えると…恐ろしい」
「でも…顔はいいな…女だったら口説いてたぜ」
「………」
ギルドに入った途端、騒ぎ声は静まり返り、ヒソヒソと噂話を始めた。まるで池に石を投げ入れたようだった。
―いつだってそうであった、最初こそ"初心者"である自分に物を教えてくれるが、自分が"魔力無し"であると知ると途端に態度を変え、侮蔑の表情を浮かべた。
―何故僕には魔力が無いのだろう?
魔力さえあれば―異能が無くてもここまで辛い思いをせずに済んだだろう。
これは罰なのか? 姉や同期たちの魔力や異能に憧れて、羨んでいた。彼らの力が全て。
―自分のモノになってしまえばいい―
そう浅ましい考えが脳裏に過ったこともあった。
だからだろうか?
そんな浅ましい考えを、魔力は見透かしているというのだろうか?
―それにこの顔も嫌いだ。
島にいる頃から可愛い、愛らしい顔だと言われてきたが、そう言われる度に怒って否定した。
今では、―それが顕著になった。
周りが男らしく成長しているのに、自分は華奢で、女々しい顔になっていく。
自分の性別すら無いような―無くなった様な気がして
背筋にゾワゾワという感覚が走った。
「………!!…よし…」
そんな考えを振り払い、依頼書を破って受付へ持っていく。
やることはいつもと変わらない。
―ヨズル森林での魔物狩り―それだけだ。
「……大丈夫かなぁ アオイくん」
受付嬢 ローニア・ユリファは心配そうに、一人の少年冒険者の背中を見送った。
「はぁ!! ―せいッ!!」
上から下へと刀を振り下ろし、ゴブリンを両断し、
直ぐさま後ろに刀を回し―背後のゴボルトの目玉に突き刺した。
ぎゃあぎゃあと叫ぶゴボルトを無視して首を切り飛ばした。
(まさか夢の内容が役立つとは……)
―あの夢で見た光景―夢で姉に言われたことがゴボルトの討伐に役立った。
ゴボルトという魔物はさして強い訳では無く、単体であれば駆け出しの冒険者でも苦労せずに倒せる。
――そう、単体なら
ゴボルトは他の魔物と組むことにより真価を発揮する
生まれた時からの知恵か、他の魔物の動きに合わせる様に襲うのだ。
―そうなったら、キツい。
手慣れた冒険者でも複数の、それに連携を取る魔物を相手取るのは難しいのだ。
―そんなゴボルトを相手取り、無傷で勝利した
それは蒼にとって喜ばしいことだった。
普段は傷を負って何とか辛勝する相手だった、それを無傷で倒したのだから。
自分は強くなっている。
今までは無駄では無かった。
そう思い、心が満たされる様だった。
「おっと……いけない、早く回収しないと」
蒼は上機嫌で魔物の死体を切り開き、その中から紫紺色の結晶を取り出す。魔石だ。
その他の有用な部位も切り離し、バックへと押し込んだ。
◼︎
冒険者という職業は夢のある職業だ。
どれだけ学が無い人間だろうが、最底辺の人間だろうが。
力さえ有れば成り上がれる。
有力な冒険者になれれば市民からの人気も、上流階級の人間達からの信頼も手に入れる事ができる。
地位も、名誉も、その手に収める事が出来るのだ。
―だが、どんな事にでも言えることだが、美味い話には必ず代償がある。
魔物という人類の敵を相手取る以上、死亡率は高い。
相性が悪かった、実力が及ばなかった、運が悪かった、―死亡する要因は数多くあるが、その中でも特に多い死亡理由は、"油断"。
―故に上級冒険者は口酸っぱく教えるのだ。
「油断だけはするな」
―――だから、これは至極当然な事だ。
―今日は調子が良い!!これなら、更に奥に進んでも問題無いかも…。
―自身の力を見誤った冒険者が、地獄に落ちるという事は。