第一話 光
初投稿です 追放ものを試しに書いてみました
大陸から遠く離れた島国 葬刃島 強力な魔物や妖魔が跋扈跋扈するこの島には何万人もの人々が生活を営んでいた…
この島で人々が生活できているのはひとえに島に根付く武家 そこで活動する戦士たちのおかげである。
島のため、人々のために戦う戦士…その姿は人々の憧れであり、葬刃島の象徴であった。
「せいッ! はぁぁ!!」
一心不乱に木刀を振るうこの少年も、そんな戦士に憧れる一人だ。この少年は武家の、それも数ある武家の中でも最強と言われる宗葉家の子供だ。
宗葉 蒼 この少年には夢がある
剣を極め 魔力を授かり この葬刃島を守る
子供らしく純粋な、しかし力強い夢。少年は自らの夢を叶えるため、今日も鍛錬に打ち込んでいた。
「ッ!? 痛ぁぁ!! 足下か」
「ふふ ダメですよ蒼 足下がお留守です」
宗葉 雫 蒼の姉である彼女は、今日も蒼の鍛錬に付き合っていた。
それは流れる様な剣技であった、蒼の打ち込みを全ていなし、着実に相手を消耗させる
(やっぱり強い…僕の考えること全部読まれてるのか?)
下から上へ斬り上げ、右と見せて左 姉の意識を掻い潜り攻撃を通そうとする剣筋は、少年の鍛錬が決して子供の遊びなどではないことを物語っている
「そこです!!」
「ぐぅっ!…」
カラン、と庭園に音が響き、蒼が地面に膝をつける
その音は木刀が地面に落ちる音であると同時に蒼の敗北を、雫の勝利を告げる音であった...
「いやぁ やはり凄まじいものですなぁ!! 雫殿の剣技は。」
「流石宗葉家の子供だ、十二才にしてあれ程の流麗な剣技を誇るとは。」
「噂じゃあ土蔵に住み着いていた土蜘蛛を討伐したと…」
「今代の戦士の中でも別格だな…」
そう口々に言うは、今日宗葉家に集まった戦士や家人たち
彼等もまた島のために尽力する者である
今代の戦士たちは才に溢れた者たちばかりだと。
わいわいと話が続く中、その内の一人が口を開く
「しかし今日も蒼殿の惨敗か…。」
「ああ、蒼殿はなぁ…」
「八歳ほどか、他の子供たちは全員異能を授かっていたな 残りは蒼殿だけか」
「異能どころか…魔力も持ち合わせてないじゃないか」
強くなる そのためにひたむきに努力する蒼は優秀であった、基礎的な剣術は勿論。
体術もある程度はでき、何より相手の動きをよく観察できる"目"の良さがあった。 八才として見ればこれほど出来る者はそうそういない、年齢を考えるとまだまだ伸びることが期待できるだろう。
だが当人は勿論、他の者も不思議に思うことがあった
人間として産まれたなら持ち合わせている力
"魔力がいつまで経っても覚醒しないのだ"
異能を持たない戦士は少ないながらもいる、異能が無いにもかかわらず多くの戦果を揚げた戦士も一握りではあるが存在する。
だが魔力を持たない人間は存在しない、どんな人間でも多かれ少なかれ魔力を持っている。
魔力を一切持たない蒼の状態は、まさに異常であった。
魔力は魔法を行使する燃料以外にも使われる。
魔力による身体能力の向上が最も代表的な使い方の一つであろう。
どれほど剣技を磨いても魔力による力押しで簡単にびっくり返されてしまう。 魔力とはそれほど戦闘にとって重要なものなのだ。
魔力を扱えないということは異能も使えないということ。
(なんで…僕には異能どころか魔力すら無いんだ…)
こんなの…これじゃ姉に追いつくどころか、土俵にも立てていない
誰も彼もが魔力を持っている…自身と同じ境遇の者は一人も居ない。
強くなりたいのに、強くなれない。
当人の疑問が次第に不安に変わっていくのは、至極当然のことであった。
そのまま、四年という長い月日がたった。
「はぁ…はぁ…やっぱり無茶だったかな…小鬼達の巣に乗り込むのは…」
少年 蒼は12歳となった。
まだ身長は低く、顔立ちも中世的で幼い 華奢な体格と合わせ少女と見間違えるほどであった。その少年が持つモノは首や頭に大きな傷のある小鬼…たった今、少年が戦い打ち倒した魔物であった。
「暗くなる前に帰って早く今日の鍛錬を…時間が惜しい」
少年は今日も鍛錬に励み、魔物を殺す それが、それだけが同期達や姉に、何より強く大きい父に追いつく方法だと信じて。
「またやってるよ…蒼の奴、そろそろ無駄だって気づかないのかなぁ」
「アタシ知ってるぜ!! あーゆうの現実とーひって言うんだろ?」
「努力は決して無駄になることはありませんよ…彼の場合は先ず魔力を目覚めさせる所から始めるべきですが…」
「蒼……」
「九百いちィ…九百にぃ…ッ」
蒼は素振りを続けた、聞こえなかった、違う、聞こえないふりをした。
蒼は鍛錬の時間が好きだった、自分のことを忘れられて、強くなれる様な気がするから…今は苦痛に感じていた、周りの声が冷たい現実へ引き戻してくる。
現実逃避だ 正しく逃げている 同期の一人。火狩陽那の声は的を得ていた。
………逃げる様に今日の鍛錬をやめた。ふと見た池に写る自分の顔は、目指した強さとは似ても似つかない弱い泣き顔だった。
「蒼、無理して強くなろうとしなくていいの」
「は……」
部屋に戻って、姉にそう言われた
「わかってる…私達が武家の生まれだから、強くなることにこだわっているのよね、だからあんな無理をして強くなろうとしているのよね……大丈夫よ、蒼は好きなように生きて良いのよ」
違う 違うんだ姉さん 強くなることこそ僕の望みで、好きなことなんだよ、僕が好きでそうしてるんだよ。
蒼は心の中で涙を流した、自分の今までの努力の意味を姉は分かって無かった 姉と自分に大きな壁がある様に感じた 自分の今までの努力を全て否定されたと感じるほどだった。
もう何も出来ない、虚無感を感じ、眠りについた。
その日が、彼の人生を変えるその前日であった
「宗葉 蒼 貴様をこの葬刃島より追放する」
「へ……」
魔物狩りから帰って来て、大屋敷に連れられて一言尊大な父にそう言われた。
「この十二年…期待をして貴様を育てたが、貴様は期待を越えるどころか届いてもいない。認めよ宗葉 蒼。貴様はこの宗葉家の恥だ。」
「…!!まっでッァ!?」
「黙らないか貴様ァ!! 光厳様の前だぞ!!」
父に抗議しようとした瞬間、隣の戦士に頭をつかされた、目の前がチカチカする。
「今日の内に荷物をまとめて出て行くが良い、船くらいは手配してやる」
周りを見れば、他の戦士たちやそれこそ同期達の顔があった。
蔑み、憐れみ、無関心。その顔から見て取れる内面は十人十色だが、一つだけ共通していることがある。
ここに蒼の追放を反対する者は誰も居ないということだった。
「まさかよォ…追放までされるなんて思ってなかったぜ…くひひッ…」
失意のままに大屋敷を出てすぐ、同期の一人久道 織にそう言われた。同期達の中でも強く、恵まれた体格を持つ式は、いつもしている様に蒼をからかった。
「……」
「なんだよ、だんまりかァ、異能どころか魔力も使えないテメェが無視決め込んで良いと思ってんのか!」
突如、織の右手が輝いた。
―"光"の異能"金沙羅"だ、大鬼すら容易く一撃で倒すほど強力で…光輝くその力を、見せびらかす様に発動させる。
「どうだよ、悔しいならテメェも出して見ろや……出せねェと思うがよ」
「…うぁ…」
それだけで、蒼の心はもう折れそうだった。
自分と同期の力の差を、まざまざと見せつけられたのだ。
「テメェ如き無能が、いっちょ噛みしよ――」
「そこまでよ」
蒼の姉―――雫がそれを止める。織はバツが悪そうに異能を解除した、逆らうつもりはない様だ。
「貴方は屋敷に戻ってて、―それと、蒼を侮辱しないで」
「はいはい…姉に救われたなァ…」
雫は織を戻し―蒼に語りかける。
「蒼のこと…お父様から聞いてるわ」
「――ッ!!姉さん!僕は強くなって、いつか必ずッ」
「―蒼の為にはっきり言うね。貴方には戦う才能が無いわ」
ヒュっと乾いた息が口から漏れた。
雫は続けた。
「だから蒼には、大陸で平和に過ごして欲しいの。――大丈夫、蒼は頭も良いし、体力もある。どんな仕事にも就けるよ」
「そうじゃ、なくて」
「大体―見苦しかったの、魔力も異能もないのに、必死に剣を振るう姿が」
もう剣なんて持たないで
そんな悪夢のような言葉を聞いた。
これ以上、聞きたく無かった。
そう、思っていたのか。
追いつきたくて、止まりたくなくて、無理をした姿が
――見苦しい―
―気づいたら、船に乗って、大陸へと進んでいた、これは――なんだ?
強くなろうと努力した、その結果が、コレ?
「必ず…強くなるッ…絶対」
乾いた声で、蒼はそう決心した。
―影はただ、そんな蒼の背後に佇んでいた。
「蒼…今頃大陸に居るのかしら……私があれだけ言ったのだから、大丈夫よね…」
―数日後―首都|"千主都"《せんしゅと》の防壁
その上に彼女は居た、僅か十五にして主都の防衛を任された少女 宗葉 雫は、その顔に不安の二文字を浮かばせていた。しかしその対象は、目の前に居る無数の魔物達に向けられたものではなかった。
「ぐるるるゥゥ…」
魔物達は彼女へと嘲笑と欲を向ける 小鬼たちは美しい彼女をどう犯そうか想像し、髏蠍、土蜘蛛などはあの女を頭から、足から喰ってやろうと企む。
遂に魔物達が痺れを切らし、抗戦に打って出る。魔物達は雫を倒した後の薔薇色の未来を夢想して…そして
………そんな幻想を抱えたまま爆ぜた。
(ごめんなさい…私は酷いことを言った、蒼がどれだけ強くなりたいと思っていたか、わかってたのに)
傷だらけになって帰ってくる蒼の姿を―これ以上見たく無かった、だから突き放した。
(ごめんなさい…)
申し訳なさを、自分の醜さを恥じながら、刀を抜いた。
"光"の異能"八咫後光"の保持者。宗葉 雫
光と影が再び出逢うときは、まだ遠くのことである。