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2話.マッチングアプリと僕

 社会人となって半年が経過した頃、社内で歓迎会を行うと案内が流れて来た。


「小森くんも参加する?」


 そう声を掛けて来たのは同期である坂田さんだ。

 この会社に新卒で採用されたのは坂田さんと僕だけだった。もともと大きな会社ではないが、会社名は世間でよく知られている運通業者であり、就職先でも人気のある会社である。社内の人数もわりかし少なく、少人数ならではのアットホーム感漂う職場は僕にとって働きやすい環境となっていた。


「参加する」

「わかった。そう伝えとくね」

「ありがとう」


 もともと口数が少ない者同士、社内では仕事以外のことで話をしたことがなかったため、こういう機会で距離を縮めよう、そんな思いを抱え歓迎会に参加した。


「それではただいまより、小森さんと坂田さんの歓迎会を行いたいと思います!今日は飲んで食べましょう、乾杯~!」

「「乾杯!」」


 お互いのグラスをカチンッ、と当て、ぐびぐびと飲む上司たちを見ながら、僕はちびちびとビールを飲んでいた。


「小森くん、あんまり減ってないけど、普段からお酒は飲まへんの?」

「あんまり飲まないです……と言うより、僕……弱いんです」

「そっかそっか、無理して飲んでもアカンさかいな!」

「そうですね」


 歓迎会自体に乗り気ではなかったが、社内で普段話をしたことがない人とも話すことができたため、参加して良かったと思えたのだった。

 同期の坂田さんとも少しではあるが距離を縮めることができた。お酒の力とは不思議なもので、坂田さんはお酒が進むにつれ、プライベートなことを赤裸々に告白していた。

 ビールを飲み、ハイボールを飲み、今は日本酒が入ったおちょこを片手に僕の隣に座って語らっている。


「今付き合ってる彼~、マッチングアプリで知り合ったんよぉ」

「そう……なんだ」

「小森くんは?彼女いないのぉ?」

「うん……いないね」

「欲しいって思わないのぉ?」

「学生時代はあんまり思わなかったけど……仕事が落ち着いたら考えてもいいかな」

「そんなこと言ってると、主任みたいに婚期を逃しちゃうよぉ」


 ――主任のプライベートまで把握してるなんて……恐るべし


「よく知ってるね……」

「さっき聞いたのぉ。だいたいここにいる先輩方は、30代前後で結婚してるんだってぇ。私はねぇ、もっと早く結婚したいのぉ。けどぉ、今の彼はそんなこと、一切考えてないんだぁ」

「どうして?」

「だってぇ彼、大学生だも~ん」


 ――あぁ……なるほど


「小森くんも、素敵な出会いがあったら教えてねぇ」


 ――上機嫌なのはいいが、ちょっと絡まれるのは厄介だなぁ


 そんなことを思いながら同期や先輩方と他愛ない話をして楽しんだ。


◇*◆*◇*◆ 


 仕事にも慣れ、休日を有意義に過ごせるようになるまで4年……、と多少時間はかかったものの、先輩にも後輩にも頼られる存在となった僕は、仕事が楽しくて仕方なかった。システムトラブルが起これば忙しくなるが、これが実にやりがいのある事であったため、僕はせっせと業務をこなしていた。

 プライベート面でも少し心境に変化が訪れ、恋愛もしてみたい……と今までになかった興味が湧いてきたのだ。だが、自宅と職場の行き来のみである僕に出先での出会いなんて無いに等しい。


 ――登録してみるか……


 人生で初めてマッチングアプリをインストールするにあたり、どのアプリが良いのか検索してみることにした。


 ――けっこうな数……


 そして口コミに必ずと言っていいほど書かれている、『サクラが多い』というワード。出会い系ならではの詐欺も多い世の中となっているため、僕自身も気をつけなければいけない。表面上しか見えない相手を見極めるのは至難の業だな、と思いつつ、結局僕自身では判断ができなかったため、友人にそれとなく聞いてみることにした。


『奏太久しぶり。仕事はどう?』

『おっ!久しぶりじゃん!仕事ねぇ……今転職先を探してる最中。そっちは?』

『変わらず忙しいけど、充実してるよ』

『それはいいじゃん!』

『うん。あのさ、聞きたいことがあるねんけど……』

『何?』

『マッチングアプリ、おすすめのってある?』

『おおおおおっ!ついに大和も恋に目覚めたか!』


 この後電話で2時間くらい話をした。

 奏太はこれまでにいくつかのアプリを利用したらしいが、相手とマッチするかは『運次第』だそうだ。そして気をつけるべきは、『サクラ』。アプリからすぐ個別連絡に切り替えを言ってくる人には気をつけるべき、とご丁寧な助言までいただいた。アプリ初心者はよくカモにされることが多いらしく、そこの見極めは大事なんだと。さすがは経験者、頼りになる友人がいて良かった、と思いつつも、アプリに関することで熱弁されたため、奏太自身のプライベートまでは聞けなかった。


「長々と電話でごめんな!久々に熱くなってしまったわ!」

「こっちこそ、色々と聞けて良かった。ありがとう」

「大和の恋路、楽しみにしてるな。また飯行こな!」

「わかった」


 奏太から聞いたアプリをインストールし、プロフィールを登録。すると何枚かの写真と簡単なプロフィールが表示され、『いいね♡』と『見送る』、という選択画面が表示された。30人くらい表示されたが、僕は誰にもいいね♡を選ばずに見送ってしまった。


 こうして始めたマッチングアプリ。

 奥手な僕には不向きなのではないかもしれないが、それでも自ら行動しなければ独り身のままだ、と僕自身に言い聞かせアプリ内で女性のプロフィールに足跡をつける日々が始まった。


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