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1話.奥手男子の恋愛事情

  小森家の次男として生を受けた僕は、両親に『大和やまと』と名付けられた。2年後には弟も産まれ、家族5人で仲良く暮らしていた。

 成長するにつれ、兄弟それぞれ性格の違いが表れるようになった。母親譲りの明るく社交的な性格は兄に受け継がれ、僕と弟は父親と同じような内気な性格となった。


 小・中学校までは地元の学校に通う、ごくごく普通の学生生活を送り、数少ない友人にも巡り会えた。類は類を呼ぶ、言葉の通り僕の友人もどちらかと言えば内気な性格、言い換えるならば陰キャであったため、それなりに居心地は良かった。お互い好きな漫画の話やゲームの話で盛り上がり、俗に言う『オタク』道を突き進んでいた。

 中学生ともなれば、クラスメイトで話題となる内容のほとんどが『恋バナ』だ。誰と誰が付き合い始めたとか、初めてデートしたとか、手を繋いだとか……。

 わいのわいの、きゃっきゃしている姿をよく見ていた。特に、夏休み明けや体育祭、文化祭にクリスマス、バレンタインといったイベントの後には激しさを増していた。

 僕には到底関係ない話だな、と思いながらも聞き耳は立てていた、とは当時の友人には言えないことだ。


 高校進学では自宅から距離はあるが、名門と名高い男子校を選んだ。大学進学を見据えての選択です、と担任教師や両親を説得したものの、本当の理由は女の子と距離を置きたかったからだ。

 女の子が苦手とかではないが、上手く話をすることができず、クラスメイトとの会話でもよくどもっていた……。


「大和はさ、好きな子とかいないの?」

「うーん。気になる人はいるけど、僕とは性格が違いすぎるし趣味も違うだろうから話をしてもつまんないと思うんだよね……。そういう奏太そうたはどうなのさ」

「俺ぇ?……今は恋よりも勉強しねーと高校行けないんだよぉ!高校に行ったらきっと可愛い彼女ができる!」


 奏太は小学生時代からの友人で、僕の数少ない友人の一人だ。


「高校デビュー、ってやつですか」

「そうでんなぁ」

「ビバ青春!」

「ビバ青春!っていうか、大和は青春どころじゃないやん。……男子校やろ?」

「そうやねぇ」

「恋愛する気ないやん……」

「はは、確かに……けど、今は別に恋愛したいとか思わへんねんなぁ」

「ふーん」

「僕には推しがいるからさ!」

「それは間違いないな!」


 恋愛経験もろくにない者同士で盛り上がった中学時代と同じように、高校3年間も過ごした僕は、父親と同じ道を歩むため公立大学の理工学部へと進学した。

 大学での生活と言えど、これまでとさほど変わり映えのしない生活をしていた。親元を離れて1人暮らしを始め、生活費を稼ぐためにバイトをする。

 キャンパスライフを満喫する、と言いながらも、同じ学部内には同性が多く、サークルもどちらかと言えばマイナーに分類される所に入っていた。大学生同士の合コンに誘われても、毎回バイトを言い訳に逃げていた。


 ――自分には恋愛なんてできないのではないか……


 いつしかそんな風にさえ思うようになっていた。

 久々に同窓会に顔を出せば、キャンパスライフを満喫する陽キャの集いみたくなっており、陰キャには居心地の悪い環境になっていた。そんな中でもやはり同類の仲間はおり、隅っこの方でオアシスと化していた。


「大和くんは、大学で彼女できましたかぁ?」


 悪酔いしている奏太が俺に尋ねて来た。


「いや……そもそも同じ学部内に女の子がいない」

「は?まじかぁ……良かったぁ。安心したわ!大和くんに先、越されたくなかったからさぁ……」

「なんかひどくない?」

「そっかなぁ……俺たち、このままぼっちのまま大学を卒業して社会に出るんだよぉ。それでいいのかい?」

「別にそれでもいいんじゃないの」

「わぁお!開き直ってるねぇ」

「そんなこと言うたって仕方ないし……」

「ほら、あそこに居る西本……あいつにも今可愛い彼女がいるんだよぉ」

「人は人だろ。奏太にもいつかいい出会いがあるよ」

「はぁ……社会人になってもオタ同士、仲良くしてくれよな」


 素面なのか、酔っているのかわからなかったが、頷くしかできなかった。


 恋愛に関して言えば、思い描いていた大学生活ではなかったが、僕にとっては充実した4年間を過ごすことができた。就職先も希望通りの会社に決まり、働くまでに僕自身の強みとなるように資格の勉強もしていた。


 こうして僕は、学生生活での醍醐味である『恋愛』をすることなく社会人となった。


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